首都アルツール攻防戦(5)
*
「今日は……南にでも行くか」
2日目。グライド将軍は飄々とつぶやき、愛馬である雷駿に乗り駆ける。報告によると、昨日の猛攻で、クーデター軍の士気は完全に損なわれたようだ。
後は、各方面の指揮官を残らず狩ればいい。
「……」
ある意味で新芽の息吹を期待していたことは否めない。歯応えのある敵は、いつだって血が沸るものだ。かつて、先代盟主ビュバリオと駆け巡った戦場は、繰り広げた強敵との死闘は、いつでもその脳裏に焼きついている。
そんな、魂を燃やすような戦いを、心のどこかでまだ抱いているのだろうか。
「……妙な風が吹いているな」
雷駿で駆けながら、グライド将軍は不穏な空気を感じとる。そして、クーデター軍の元に近づくにつれ、最前線にいる女の存在が視界に入った。
一目見ただけで、身の毛がよだつような感覚。全身が微かに震え、脳裏に刺すような刺激を感じる感覚。
それは、初めて若き帝国の軍神ミ・シルを見た時と酷似していた。
若き戦乙女は、軽やかな笑顔で、お辞儀をする。
「初めまして。ラスベル=ゼレスと言います。
「…-」
馬から降り、軽くお辞儀をする。その立居振る舞いに、グライド将軍は視線が釘付けになる。側にいた顔見知りの将軍たちが目に入らないくらいに、その印象は強い。
「ほほぉ……戦場に似つかわしくない小娘がいるかと思ったが、ヘーゼン=ハイムの弟子か」
久々に感じた本物の匂い。大将軍級たちと刃を交わした時のような高揚感が、グライド将軍の血を沸騰させる。
「興味がおありなら、少し
一方で、ラスベルのほうは軽口でやり取りを続ける。
「いや、いい。戦場で交わす言葉など不粋じゃ。あとは、戦で語ろう」
「グライド将軍……いくらなんでもそれはないんじゃないですかね?」
隣にいたバージスト将軍が苦笑いを浮かべる。側には顔見知りの将軍たちもいた。
「おお、ヌシらもいたのか? 美女の影に隠れて、目に入らなかったわい」
「ははっ! クソジジイ」
「っと……よくよく見渡せば、まあまあな面子が揃っているようじゃの」
グライド将軍は、嬉しそうにラスベルの周囲を眺める。そこには、クーデター軍のリーダーであるバージスト将軍の他に、ヴィルド将軍、フェンリ将軍が立っていた。
クーデター軍内でNo.1から3までの実力の持ち主である。
「力でゴリ押しってところか……若いのぉ。じゃが、それで他の方面を攻略できるほど甘くはないぞ?」
「仕方ないですね。戦力の逐次投入は愚策ですから」
「……」
「グライド将軍と対峙するためには、最大の戦力をぶつけなければ駄目だと判断しました。他はなんとか踏ん張ってもらいます」
「……」
ラスベルという少女には、怯えを全く感じなかった。むしろ……高揚。強敵を前にした時に、蘭々と光る好奇心旺盛な瞳が見て取れる。
まるで、死地を楽しんでいるかのような。
グライド将軍も笑い、戦闘の構えを取ろうとする。
その時。
「あっ、ちょっとだけ待ってください」
そう言って、ラスベルは手をあげて制止する。
「なんじゃ? まさか、戦場でそんな悠長なーー」
グライド将軍がそう言いかけた瞬間。
数百本の魔弓が一斉に放たれた。四方からグライド将軍に向かって真っ直ぐに襲いかかる。視界には、豆粒ほどの兵たちが見えるか見えないか。
「ふん……誘い込まれたか」
グライド将軍は
「……小癪な」
完全にタイミングを図られていた。ここまでの会話も、間を外したような
少なくとも、戦場において、正々堂々などと語るような格好つけの輩ではないらしい。
そんな思考を駆け巡らせた時。
すでに、ラスベルが目の前にいた。右手の装甲拳には
その高速の拳撃は、グライド将軍が
「なるほど……装着型の魔杖か」
「
「……」
超高速拳。秒速で数百は放たれるであろう拳撃と、軽やかで流れるような動きを可能にする速度を両立させた超近距離戦用の魔杖と見た。
「くくっ、小気味がいいな。だが、これならどうかな?」
グライド将軍は、すぐさま
だが、ラスベルはまるで、舞踊をしているような軽やかなステップでその大炎を躱す。
「ほぉ……見事じゃの。では、これなら?」
そう言って。グライド将軍は
だが。
青髪の少女は、華麗かつ優美な身のこなしで、その斬撃すらも容易にくぐり抜ける。
「……いい身のこなしじゃの」
「そうですか? 攻撃が大味ですから、躱すのは訳はないですけど。そんなことより」
ラスベルは視線を右に動かし、グライド将軍もその瞳に釣られる。
その視線の逆方向から、バージスト将軍とフェンリ将軍が猛然と襲いかかった。
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