首都アルツール攻防戦(6)
*
超接近戦。ラスベルの選んだ戦術は、一手誤れば即死するようなハイリスクなものだった。例えるならば、荒ぶる猛獣の檻に、生身で入っていくようなものだ。
ただ、グライド将軍は明らかな中遠距離型の魔法使いだ。しかも、その能力のほとんどが攻撃に寄っている。取り得る最善がそこにしかなかった。
当然、
どんな魔杖にも弱点はある。
「
フェンリ将軍が長い矛のような魔杖を振り回す。すると、刃の先から無数の緑煙が発生し、グライド将軍の手足にグルグルと巻き付く。
更に。
「
バージスト将軍の必殺の一撃が、グライド将軍の脳天に襲いかかる。その絶大な威力を誇る闘刃は、辛うじて
互いの武器が激しく弾かれて2人の体勢が崩れる中。
「な、なんてジジイだ」
バージスト将軍の方が思わず感嘆の声をあげた。
狙っていたのは、
「……行け雷駿」
一方でグライド将軍は、愛馬から飛び降り、退避させる。
しかし、その一瞬すら見逃さずにラスベルは攻撃を続ける。
「五月雨ノ
左手に持つ小太刀のような魔杖を振るうと、瞬時に百の斬撃がグライド将軍に襲いかかる。間合いは、数メートルほどのもので、攻撃の隙を与えず防戦に張り付かせる算段だ。
「ふはっ! 両手持ちか!」
グライド将軍は笑いながら、
そして、次の動作を与えないほどの速度で、ラスベルはグライド将軍と肉薄するほどの間合いに移動する。
だが、ラスベルは
「はぁ……はぁ……」
グライド将軍は、攻撃に転じさせたらダメなのだ。基本的には、ラスベルが引き付け、フェンリ将軍が動きを止め、バージスト将軍が隙をついて追撃を加えることで対抗する。
「なるほどの。よーく考えたもんじゃな。実力も申し分ない。だが、いつまでそれが持つかな」
一方で、グライド将軍は余裕の表情を崩さない。手足には、
「あ、あの方はゼクサン民族か何かですか?」
猛攻を続けながら。ラスベルが尋ねる。
ゼクサン民族は、カク・ズや軍神ミ・シルなどと言った、異常な膂力と耐久力を兼ね備えている民族のことだ。現に数十キロの負荷をものともしないその姿を見ると、どうしてもそこが疑いたくなってしまう。
「いや。ただの怪力で頑丈なクソジジイなだけだ」
「なるほど、よくわからないです」
軽口を叩きながらも、グライド将軍の反撃を華麗に躱していく。一撃でも喰らえば……いや、かすりさえすれば即敗北。そんな緊張感の中で、ラスベルは全身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。
相手の動きがより
それから半日が経過しただろうか。ラスベルに激しく息切れが見え始めた頃。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」
「恐ろしいほどの集中力じゃの。だが、そろそろ終わりか?」
一方で、グライド将軍は疲れた様子すら見せない。ラスベルは密かに違和感を感じる。
魔力もほぼ常時発動している状態だ。
だが、肉体の疲労も集中の欠如も、魔力の枯渇すら全く感じられない。むしろ、若く体力があるはずのラスベルとバージスト将軍の方が根負けをするなんて。
まさか……螺旋ノ
そんな中で。
ヴィルド将軍が、魔杖を奮い唱える。
「快ノ
瞬く間に、ラスベルとバージスト将軍の身体の疲れが吹き飛び、集中力も回復する。
「……よしっ」
ラスベルはすぐに思考の罠を振り払い、バージスト将軍とグライド将軍の斬り合いに参戦する。
迷うな。
今、できることはこれしかない。体力のある限り、魔力の続く限り、攻撃を続けること。そして、グライド将軍が見せる一瞬の隙を逃さないこと。
それから、更に数時間が経過し……『腹が減ったから帰る』とグライド将軍は引いた。
2日目……3日目と、ラスベルらは同様の戦術でグライド将軍に立ち向かう。彼女の魔杖もバージスト将軍の魔力消費は比較的少ない。
一方で。
グライド将軍の魔力消費は膨大だ。炎孔雀や氷竜ほどの災害級の魔法を繰り出すほどだから総量自体は申し分ないのだろうが、常時魔力を消費すればこちらよりも枯渇が早いはずだ
だが。
それでも。
「……っ」
魔力枯渇が起きたのは、ラスベルの方だった。繰り出した五月雨ノ
瞬間、ラスベルの意識が遠のき、身体が鉛のように重くなる。マズイ、と頭が思いながらも動かない。
「ふん……やっとか……」
グライド将軍は勝ち誇ったように笑い、猛然とラスベルに向かって襲いかかる。
「クソったれ!」
バージスト将軍は、援護に向かい
「ぐっ……」
「カッカッカッ! そっちも
グライド将軍が鬼々として猛然と
一本の魔矢がグライド将軍の脳天に直撃した。
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