奇襲(2)
コンバル要塞。クゼアニア国とヤアロス国の国境を境にしている堅固な拠点である。地理的な要因から、首都ゼルアークを陸路で進むには必ず突破せねばならない要所だ。
イリス連合国内では、5本の指に入る堅固な要塞として有名である。3万人の兵が常駐できるほどの規模があり、将軍が1人、軍長が8人が配備されている。
ノクタール国の本軍3万は、すでに数キロ先の付近まで近づいた。
夜の闇に紛れ、コンバル要塞側ではその存在に気づいていない。仮に、このまま攻め込めば、物理的には最高の戦果を得ることができるだろう。
だが、それでは意味がない。
ここまで、敵軍にはジオス王の存在を秘匿にしてきた。その存在に気づけば、敵軍がこぞってノクタール国本軍を狙う危険があったためだ。
だが、それも、もう終わりだ。
イリス連合国の本軍は、すでにノクタール国の国境を渡った。むざむざ、極上の
この戦いは。
戦争を陣取りと捉えるか。
それとも……
それらを問う戦いだ。
国というものの概念をどう認識するかの戦い。
そして。
「
ヘーゼンが指示すると、兵たちは高々と旗を掲げる。あえて、燈を灯し、敵軍が認識しやすいように。
ジオス王が大きく手を掲げると、大地が揺れるほどの声が響く。今、この時において、コンバル要塞で寝ている者は跳ね起きているはずだ。
だが。
それでいい。
この戦は
真なる王を決める戦いだ。
「全軍突撃!」
先陣を切って。
その存在を示す。
ここにいる。
戦う王がここにいるのだと。
ジオス王は馬を疾走させる。
「露払いをします。私を信じて止まらぬように。ギザール、戦列を離れる」
そう言い残し、ヘーゼンは手を上に挙げる。
瞬間、元帝国将官ギボルグ=カイナが魔杖、
能力強化型の魔法である。味方に対し、筋力強化と速度強化。この魔法の効果により、より早い進軍が可能だ。
馬の能力を強化し、単騎掛けを行う。瞬く間に、ヘーゼンは先頭へと躍り出た。
右手で長物の魔杖を構え、地面につけながら走る。その先端はジジジジジジジジジ……と奇妙な音を打ち鳴らす。
やがて。
ノクタール国本軍の存在に気づいたのだろう敵の拠点では、慌ただしく怒声が飛び交う。いずれ、門が開き敵兵が出てくるだろう。タイミングは、至極適当である。
あえて姿を現したのは、敵兵をある程度引きつけるため。だから、それでいい。ちょうどいい早さで、ヘーゼンの予測に対し数秒も違わぬことなく、状況が移ろい行く。
やがて。
コンバル要塞の門が開き、数千余りの敵兵が弾けるように躍り出た。数は想定よりも遥かに多い。軍長も5人はいるだろうか。
しかし。
ノクタール国本軍の走りが止まることはない。
ジオス王の猛き背中が。
恐怖を感じることすら許さなかった。
ジジジジジジジ……
ジジジジジジジジジジジジジジ……
先端で擦れている魔杖の音が長く大きく響き渡る。
こちらが主導権を取った時点で、すでに溜めは完了している。あとは、いつ、放つかだ。
「全軍! 攻撃ーー!」
指揮官らしき者が号令をかけるが、もう遅い。
長物の魔杖を地面から離し、斜めに振り上げる。
この一撃は決まる、とヘーゼンは確信をしていた。
この魔杖は膨大な溜めの時間を必要とする。将軍級同士の戦いにおいて、通常、ここまで大きなロスは致命的だ。
だが。
敵兵が順応しきれていない。ジオス王の存在に気を取られ、ヘーゼンの存在に気づかない。奇襲を防ぐべき軍長たちが、その雰囲気に呑まれて視野が狭くなっている。
全ては機動を重視してきた結果だ。
すべては。
この時の。
この一撃のために。
この戦いは。
神速をもって。
奇襲とす。
「
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