参列者(2)
ヘレナは非常に動揺した。まさか、あの男性がネト=ゴスロ? えっ、嘘……イケメン。しかも、上級貴族の名門家系である。胸の鼓動がトクントクンと高鳴る中、必死に落ち着きを取り戻そうとする。
確かめなくては。
すぐ、側にいたベテランメイドに尋ねるが、『見たことがない』という。彼をジッと観察していると、葬列に参加している者たちとも知り合いがいない様子だ。
他にも数人に聞き回ったが、誰も知らないという。
ゲスリッチは、
と言うことは……
ヘレナは、イソイソと化粧室へと向かいメイク直しをする。眉を整え、唇をルージュに塗りながら、状況を整理する。
「……」
彼もまた、何かの変態なのだろうか。
言わずもがな、
「……えっ、嘘。私」
幸せになる? そんなバカな。あの
でも。
湧き起こる乙女心が止まらない。さっきから、心臓の音がうるさい。そもそも、あの
と言うことは……
「落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃでしょ!」
ヘレナは何度も何度も言い聞かせる。ただ、この胸の鼓動が。乙女心の高鳴りが、一向に治らない。
ただ、直接名前を聞く訳にもいかない。あくまで、主役は正室であるアミンカと長男のナンドモクチだ。側室であるヘレナの役割は、陰ながら葬式を取り仕切ることで、葬列者との会話などもっての外だ。
強引に気を落ち着かせて戻るが、足取りがフワフワしておぼつかない。あの男性の事が気になって、チラチラと見てしまう。
そんな中。
葬列者の一人が遅れて入ってきた。全身が汗だくで、なにやら焦って来た様子だった。ただ、驚くべきは、その奇妙な風貌だった。
服装のセンスとかではなく、純粋な
老人にしては体格がよく、ポッカリとお腹が出て丸々と太っている。頭が瓢箪形で、奇怪な風貌している。
圧倒的な顔面力。
一度見たら忘れられないほど、強烈な不細工だ。
「でひゅ……え、間に合ったぁ」
油汗をかきながら、丸々と太った不細工老人は、こともあろうに、あのイケメンの隣へと立ち、何やら会話を始める。
「……」
丁寧な会話の中でも、若干のギスギスと距離感があるようにも見える。
「お、おい。あの方……ブギョーナ様じゃないか?」
「馬鹿を言え。そんな訳ない。なんで、ゴスロ家の宗家筆頭が、ゲスリッチなどの葬式に参加するんだ」
「し、しかし。あのインパクトのお強い顔面は、間違いない。間違いなく、そうだ」
「……」
参列者のコソコソ話を聞きながら、ヘレナの脳内は高速に回転する。通常、参列者は家ごとに固められる。序列によって左に並ぶので、宗家筆頭であるブギョーナの隣には分家の当主が並ぶのが自然だ。
……と言うことは。
間違いなく、
ヘレナは瞬間、狂喜した。まさか、こんなことがあるなんて。人生と言うのは、本当に何があるかわからないものだ。
参列者が次々とゲスリッチの死を偲ぶ中、そんな想いに胸を躍らせていた時、
「……」
近くで見ると、なお、顔面がキツい。
そもそも、血縁でありながらこうも違うものなのかと、2人を見比べながら思う。そんな中、ブギョーナが深々とお辞儀をする。
「え、このたびはお悔やみ申し上げます」
「わざわざ足をお運び頂きありがとうございます。まさか、主人がゴスロ家の方々と縁があったとは」
「え、い、いや。彼と親交を結んだのは最近で。でひゅ……でひゅでひゅ」
奇妙な笑い方をしながら、脂汗をかき続ける不細工に悪寒が止まらない。生理的に気持ち悪い。
そんな中、ブギョーナはこちらの方をジッと、撫で回すように見つめてきた。湧き起こる鳥肌を抑えつつも、ヘレナはお辞儀をする。
「え、君の名は?」
「側室のヘレナ=ダリと言います。このたびは、はるばるお越しいただきありがとうございます」
「でひゅ……お気になさらずに」
「……」
「あ、あの……ところで、ブギョーナ様の後ろにいる方は?」
ヘレナは耐えきれずに質問する。
「え、違います」
「えっ?」
「え、申し遅れました。ネト=ゴスロです。ブギョーナ様とはよく間違われまして……でひゅひゅひゅ。で、後ろにいるのは息子です」
「……っ」
瞬間、ヘレナは気絶した。
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