イリス連合国

           *


 その日、イリス連合国軍40万の大軍勢が集結した。将軍級は総勢20名。軍長は100名越え。15カ国から精兵を一点に集中させた。


 ヘルバナス国のロシクア城は食料が豊富で、ノクタール国のどの城からも距離が近い。


 一方でノクタール国軍の拠点はジオウルフ城、ダゴゼルガ城、ロギアント城、ギザール要塞、そしてサザラバーズ城の6つ。これらに兵を割り当てれば、敵国が捻り出せる戦力は、数万が限界だろう。


 まさしく、象と蟻のような戦力差だ。


「よくも、ここまで集めたな」


 イリス連合国軍の筆頭将軍に任じられたガリオス=シウグがつぶやく。


「やり過ぎだとは思うが、徹底的にやらねばナメられる。そう言うことだ」

「しかし、さっさと攻め込めばいいものを。なぜ、ここに来て待機しているのだ?」

「ヤアロス国のアウヌクラス王だよ。ダゴゼルガ城を奪還してヤアロス国の領地にするまでは連合国軍に手を出させたくないのだろう」

「……なんだ、それは?」

「政治だよ。仕方がない」


 隣にいた筆頭軍師のケイオス=ビルドがため息をつく。まさか、ここまで時間がかかるとは思わなかった。恐らくは、相手方の軍師が意図的に引き伸ばしているのだろう。


 見事にハメられている上層部に腹が立ちつつ、一方で仕方ないとも思う。


 やがて、盟主のシガー王は失脚する。もうレームダッグが始まっているのだ。多少の不満を抱えつつも、諸王は次期盟主になるであろうアウヌクラス王に逆らえないだろう。


「……まあ、これだけの大軍勢が一気に攻撃をかければ、ノクタール国の滅亡は確定的だ」


 連合国側の足並みの乱れは想定済みだ。それを織り込んでも、今回の戦は十分過ぎるほど余裕がある。


「申し上げます。ヤアロス国軍が、ダゴゼルガ城から撤退しました」

「やっとか。では、出陣するか」


 立ちあがったガリオス将軍が振り返って歩き出すが、それを軍師のケイオスが制止する。


「明日にしろ。クゼアニア国で開かれる諸王会議で、開戦の決議が取られる」

「……ふー。せっかくの大きな戦なのに、盛り上がらんな」


 ガリオス将軍は拍子抜けした様子でつぶやく。


「こちらだって、同じ想いだ」


 軍師ケイオスもまた、大きくため息をつく。イリス連合国の足並みの悪さがなければ、すぐにでも蹂躙できたはずだ。


 例えば帝国などの強大な敵に対しては、力を結集させて協力しようとするが、ノクタール国などの弱小国に対しては、互いの国が利益を取ろうとするため上手く連携が取れない。


 その時、伝令が急ぎ足で走ってきた。


「ノクタール国のジオウルフ城から敵軍が出ました」

「兵数は?」

「総勢で約3万です」

「進路は?」

「恐らく、クゼアニア国の主城カルキレイズ城かと」

「……」


 一か八かで攻勢をかけてきたのだろう。だが、タイミングが悪い。明日には、40万の大軍勢がノクタール国に向かって進軍する。


 戦力を分散させず、大軍勢をもって一気に殲滅する。1ヶ月後には、ノクタール国の主城サザラバーズ城を落として終了だ。


 敵軍が戦っている間に、全ての領土を取れる。


「援軍を出すか?」


 ガリオス将軍が腕を組みながら尋ねる。


「そうすれば手堅いがな。だが、明日の諸王会議では、そうはならないだろう」


 シガー王は、とにかく諸王からの評判が悪い。クゼアニア国を防衛するために、わざわざ集結させた戦力を割かないだろう。


「まあ、クゼアニア国にはグライド将軍がいる。我らの助けなど不要だ」


 イリス連合国の者ならば、誰もが十分に防衛できるという判断を下す。それだけ、規格外の化け物なのだ。


 今回の大軍勢はイリス連合国の国威を見せつけるため。そして、無謀にも大国に刃向かった愚かな弱小国を徹底的に蹂躙するためだ。


「周辺勢力の動きは?」

「ありません」

「やはり、ハリボテか」


 最近、ノクタール国は、ゴクナ諸島、タラール族、さらにゴレイヌ国を加えた同盟を結んだと公式発表した。


 だが、そんな急造の絆など、圧倒的な戦力差を見せつければ容易に断ち切れる。どの拠点もノクタール国への進軍に対して、援軍などは出してこないだろう。


「判断は変わらない。明日の諸王会議の開戦指示を待つ」

「はっ!」


 伝令は、大きく返事をして去って行った。


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