狂辱
ブギョーナは思わず聞き返した。なぜ、ここでヘレナの名前が出てくるのか。彼女は、すでにドーテ家の側室。法的にも、そんな話にはならないはずだ。
それに、彼女は下級貴族でも下の方の爵位。ネトにとって、正室にするメリットなど皆無。いや、むしろマイナスだ。
唯一の武器は、熟れた
しかし、それもブギョーナの個人的な感想である。別にそんな
……いや、『そこがまたそそる』と言うのは、この際、置いておいて。
「あ、話が全く読めないな。どういうことだ?」
ブギョーナは、オバーサに尋ねる。
「私も驚いておりますが、事実のようです。どうやら、ゲスリッチは、病に侵されているようで、そこで、ヘレナの後見を常に探していたとのことです」
「あ、な、何だと!? そんな話は聞いてないぞ!」
ブギョーナは驚いて大声をあげる。へーゼン=ハイム周辺の関係者については、当然、押さえてある。自身の陣営から数人の秘書官を派遣し、24時間体制で張らせている。
情報収集に不足はないはずだ。
「だから、私は常日頃から言っているのです。私やボーネオ秘書官のようなベテラン秘書官を、もっと採用してくださいと」
「……っ」
どうやら、不足してたらしい。ブギョーナの優先順位はあくまで業務なので、こういったプライベートの業務には仕事のできない新人秘書官を送りがちだ。
顔面採用の弊害がここでも出ているとは。
「あ、だ、だが。なぜ、ネトと?」
「そこは、詳しくはわかりません」
「……」
ブギョーナは肖像画を見ながら、複雑な感情に襲われる。政局的に見れば、これはプラスだ。自身を脅かす分家のトップが、わざわざ下級貴族と婚姻を結ぼうとしているのだから。
だが……いい
困ったことに、ブギョーナは色々と収まりがつかない。へーゼン=ハイムへの復讐から、ヘレナを滅茶苦茶に凌辱し尽くそうとしていたのに、ネトによって守られることになってしまう。
「あ、オバーサ。ネトがなぜ、ヘレナ=ダリと婚姻を結ぼうとしているか調査できるか?」
「わかりました」
ベテラン女性秘書官がお辞儀をして部屋から去ると、ブギョーナは起き上がってベトベトになったシャツを脱ぎ裸になる。
「……あ、どうなっている」
思わず、独り言をつぶやく。ネトは割と抜け目がない男だ。感情的な部分で先走った行動をしたりすることは考えにくい。
当然、ヘレナが目的ではなく、背後にいるヘーゼン=ハイムが関係していることは間違いない。だが、イリス連合国への宣戦布告で、ヤツの敗北は確定的な未来となった。
「あ、勝つと踏んでいるのか? いや、まさか」
エヴィルダース皇太子も即座に関係を断ち切ったほど、今回の戦に勝つ目はない。もはや、ヘーゼン=ハイムの死は確定的でヘレナは後ろ盾のなくなった未亡人貴族として、不安な日々を過ごすだろう。
そのはずだ。
『土下座じゃなくて、土下寝で許してあげますよ』
「……っ」
その時。
ブギョーナの脳裏に、ヘーゼン=ハイムが、かつて放った台詞が飛び込んできた。
『土下座よりマシでしょう? その気持ち悪い腰の動きで、あなたの異常な性欲が満足できるように、土下寝して腰をカクカクと擦り付けるといい』
「……あ、ふ、ふざけるな!」
ブギョーナは叫び、本棚にある本をぶち撒ける。
『大衆の面前で、あなたお得意の自慰行為をなされば、その恥知らずな性癖も少しはマシになることでしょう……私の読みが正しければね』
「あ、あり得ないいい! あ、あ、あり得ないいいいいいいいいいいいいい!」
絶対に。
確定的に。
完全不可逆的に。
ブギョーナは絶叫し、ジッとヘレナの肖像画を見つめる。
仮に。ネトとヘレナが婚姻した場合。奴隷にしてその熟れた
「あ、困ったぞぉ……困った……困った……そ、それどころか……ネトのヤツがあの
裸のブギョーナは、その光景を想像して、ウロウロと部屋を歩き出す。自分の地位をここまで貶めたヤツに、あんな妄言を堂々と言い放ったアイツに復讐ができないなんてこと、あってはならない。
「あ、絶対に……絶対にさせない……あ、絶対に……」
そう何度も何度も連呼しながら。
ブギョーナは再び、スボンのチャックを下ろした。
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