縁談
*
「あ、はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……でひゅー、でひゅー」
30分後。ひと通り落ち着いたブギョーナは、賢者のような表情を浮かべて、汗を拭う。そして、あらためてヘレナの肖像画をマジマジと眺める。
「……あ、ふぅ」
よくよく見ると、なんてことない顔だ。とりわけ、綺麗な訳でも、不細工でもない。どこにでもいる、なんてことない女だ。
「……」
・・・
更に30分後。
「でゅふ……」
いい
「でひゅ……でひゅひゅ。でひゅ、でひゅ」
ブギョーナは肖像画を見ながら、歪んだ笑みを浮かべた。ヘーゼン=ハイムがイリス連合国との戦争に負けた時、即刻、ヘレナの夫であるゲスリッチ=ドーテに鬼プレッシャーをかけて
「はっっひょぉ……」
嬉しい。妄想で悔しがる墓場のヘーゼン=ハイムを想像して、ブギョーナはエアで腰を振る。この愚か者は、権力というものを甘く見た。その報いは、ヤツとその母親に受けてもらう。
「あ、ふん! ふんふんふん! ふんふんふんふん! あ、ふん! ふんふんふん! ふんふんふんふん! ふんふんふん! ふんふんふんふんふんふんふんふん! あ、はぁ……はぁ……あ、どうだぁ……あ、どうだああぁ!」
ブュギョーナは何度も何度も腰を振り、エアでまだ見ぬヘーゼンの母親を犯す。まだ見ぬ
所詮は格が違うのだ。
更に30分後。
体液(涎、汗等)でベットベトになった地面を見ながら、ズボンのチャックを閉めながら、ブギョーナは賢者のような表情を浮かべる。
「……あ、ふぅ」
そんな中、メイドのオバーサがノックをして、部屋に入ってきた。
「あ、どうした?」
「……ロリーはどうしたのですか?」
「あ、と、特段仕事がなかったので帰らせた」
「はぁ……最近の若い子は。気づかないものですかね、この青臭ささが」
「あっぐっひょ!?」
しまったぁ、とブギョーナは目をガン開きにする。執務室で致すとは、我ながらイキ過ぎた行動だった。あまりにも暇すぎて、暇すぎて。
暇すぎると、やはり、ダメだと思った。
「そこの床だって、なにやらベタついた……なんでしょうね。ゼリーでも食べましたか?」
「あっひょおおぉっ!」
怪訝な表情を浮かべるオーバサに対し、ブギョーナは地面のベトベトに向かって腹からダイブした。
「……あ、ま、まあいいではないか」
「はぁ……ご主人様は優しすぎます。そうやって、メイド研修生の至らなさを身体を張ってかばうなんて」
「あ、ま、まあ……入ったばかりなんだから、ほどほどに……でひょ…… でひょひょひょ、でひょひょひょひょひょひょ」
ズーリズリと。床を全身の服で拭いながら、ブギョーナは脂ぎった笑みで、オバーサを誤魔かす。
「あ、そ、そんなことよりも、どうした? あ、今日は屋敷での担当のはずでは?」
這いつくばりながら尋ねる。
「分家筆頭のネト=ゴスロですが、このたび、新たに夫人をもうけるようです」
「……あ、なるほど」
貴族は血筋同士の結びつきで勢力を伸ばす。分家だからと言って侮っていれば、いつの間にか大きな力を持ち、足下をすくわれ、宗家よりもデカい顔をするなんてこともザラに起きる。
その中でも、ネトはゴスロ家の中で存在感を示してきた。勢力としては、ブギョーナの次点で発言力も強い。
一方で、ブギョーナ自体の影響力が、急激な勢いで落ちてきているので、ネトと上級貴族の結びつきによっては相当に警戒しないといけない。
「あ、どこの上級貴族か? バオ家? まさか、ジュクジォ家?」
バオ家は事前に根回しをしておいた。ジュクジォ家もまた、ブギョーナとは懇意にしているので、心配はないと思うが、最近、養子になった若い夫の腹が読めない。
しかし、オバーサはその問いに首を横に振る。
「いえ、違います」
「でゅふ……あ、そこでなければいい。他の結びつきなど二線級だからな」
ゴスロ家と縁談までして結びつく名門家は限られている。むしろ、他であれば取るに足らない影響度だ。
ブギョーナは高速で頭を回転し始める。この半世紀の間、自分は最前線で権勢の移り変わりを見てきた。権力闘争において、ネトのような若造に負けるばすがない。
「一応、報告しますと、ヘレナ=ダリという下級貴族です」
「あ、えっ?」
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