応酬


 まるで竜巻のように猛威を振るう狂戦士に対し、クド=ベルは、必然的に前に立たざるを得なくなった。


 一般の兵はともかく、魔法使いの精兵が削られるのはダメだ。ヘーゼンを警戒しつつになるが、なんとか止めなければいけない。


 戦闘スタイルとしては、狂戦士の方が噛み合っている。自分は死ぬだろうが、なんとかこいつだけでも狩っておく。


「ガルロ軍長! ジナク軍長! ヤツを止めるぞ」

「「はっ!」」


 軍長2人と並び、クド=ベルが狂戦士の前に立ち、すぐさま、自身の魔杖を両手に持ち応じる。


月影ノ剣げつえいのけんは、刀剣型の魔杖である。斬撃を振るえば、鋼鉄すらも真っ二つに切れる。シンプルながら、使い勝手のよい強力な魔杖だ。


莫陽ノ盾ばくようのたては、盾型の魔杖。こちらも圧倒的な防御力を誇る。小型だが、まず斬撃などで貫かれることはない。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「くっ……」


 高速で繰り出される鎖状の剣を、クド=ベルは、莫陽ノ盾ばくようのたてで防ぐ。ただ、そのもの凄い衝撃で、一瞬グラつく。


 なんという膂力。


 この強固な防御力を誇る盾でも、すべてを吸収しきれないなんて。


 クド=ベルは、そのまま突進してくる狂戦士に対し、月影ノ剣げつえいのけんを振るうが、しなやかな身のこなしで躱される。


「……っ」


 全身鎧とは思えない反則だろこんなの。まるで、猫のような柔軟性だ。野獣特有のしなやかな動きと、全く隙のない頑強な装甲。


 クド=ベルも両手持ちの魔杖使いとして頭角を表し、天賦の格闘能力を評価され将軍級まで駆け上がった。


 しかし、目の前の狂戦士は、すべての面で自分を凌駕する。才は圧倒的にあちらが上だ。


「だが……」


土星ノ斧どせいのおのおぉ!」


 隣にいたガルロ軍長が叫び、巨大な斧を振るう。狂戦士は、さらに後退してその斬撃を避ける。その衝撃で、地面は大きく抉られた。


 そして。


清流ノ備せいりゅうのそなえ


 ジナク軍長が魔杖を振い、3者の防御力を向上させる。


「よし」


 クド=ベルは、冷静に頷く。一人であの狂戦士に対抗はできない。だが、この3人ならやりようはある。


 魔獣のように本能的な攻撃は、威力は強力だが、やり過ごしやすい。本物の剣士であれば、その速さに惑わされずに冷静に対処できるはずだ。


 数的な有利も、状況的な優位も作れた。


 それに、こちらは何十年と剣技を積み上げてきた。なんの考えもなく、ただ、闇雲に突っ込んでくるような魔獣などに負けはしない。


「……」


 あとは、ヘーゼンの動向だが、狂戦士が暴れ出した途端、距離をあけて微動だにしない。


「……」


 こちらを観察しているのか。てっきり、足並みを揃えて攻めてくると思っていたが。それとも、この狂戦士と戦うにあたり、なにか制約があるのだろうか。


 とは言え、クド=ベルには目の前の強敵に集中せざるを得ない。来ないのなら好都合。とりあえず、この戦士を狩らせてもらう。


「行くぞ」

「はっ!」


 クド=ベルとガルロ軍長は連携を取りながら、狂戦士に向かっていく。獣などにはできない、本物の剣技を見せてやる。


 よし。


 渾身の抜刀だ。


「……っ」


 鈍い音が鳴り響く。塞がれたのは右手に持っていた鎖状の剣でなく、背中の鞘から取り出した魔剣だった。


 そして、狂戦士は剣が弾かれた勢いを利用して、ガルロ軍長の腕、首、胴体を寸断する。


「はっ……くっ……」


 見惚れるほどの剣技。


 これまで理想として思い浮かべていたほどの軽やかな、そして、異常な切れ味の斬撃だった。強化された防御など、まるでないかのように簡単に寸分された。


 クド=ベルの数十年あまりの努力が、まるで嘲笑われているかのように。


 再び、ヘーゼンの方を見ると、すでに視線はこちらになかった。もうすでに、こちらへの興味は失せて別の戦略に思いを馳せているのだろう。


「うっ……くっ……くそおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 クド=ベルは自身の最高の剣技で狂戦士に立ち向かった。しかし、その凄まじい斬撃は、ことごとく更に素晴らしい斬撃によって跳ね返される。


 戦場における剣士同士の決着は早い。

















 数分の斬撃の応酬を経て、クド=ベルの首は、地面へと落ちた。




 

 

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