ダゴゼルガ城


           *


 2日目。ダゴゼルガ城では、すでに戦勝ムードが漂い始めていた。初日は、奇策らしい奇策を使っても来ず、ひたすら消耗戦で陽が沈んだ。そして今日も、布陣を変えずに同じような戦いを繰り広げた。


 互いに戦力をすり減らして、イリス連合国軍は城へと引き上げた。夜襲も警戒したが、攻めてくる様子もない。


 そんな中、城内の軍務室内で、3人の軍長が明日以降の作戦を議論する。


「フハハ! 傭兵団としては強力な部類だが、恐るるに足らず」


 第1軍軍長のガオラスが、微量の酒を飲みながら豪快に笑う。


「残りの傭兵団が一向に動かないのが気になるな」


 第2軍軍長のゾヘンドが冷静につぶやく。彼は、このダゴゼルガ城の軍師でもある。


「……持久戦に持ち込もうとしているのか」

「いや、あり得ないだろう」


 第3軍軍長のバリアが明確に否定する。そもそもの兵力が圧倒的に違うのだ。ノクタール国の状況は刻一刻と不利になってくるはずだ。


「ならば、何を狙っている? さすがに、このような無策で突っ込んでくる策などはしまい」

「……」


 そんな中、伝来が急ぎ足でやってくる。


「ノクタール国の本軍がジオウルフ城と交戦を開始しました」

「2方面攻略か!?」


 ガオラス軍長が驚いた声をあげる。ノクタール国ほどの小国がこれほど大胆な作戦を打ってくるとは。


「それで、戦況は?」

「まだ、大きくは動いていません」

「……」


 ジオウルフ城とダゴゼルガ城。互いに近い地理ではないが、両方とも首都ガニクマサラに到達するための要所でもある。


「小癪な手を打ってきたな。他城の動向は?」

「動きはありません」

「……なるほど」


 ゾヘンド軍長は感心した。イリス連合国は複数の国家の連合体。その弱点をついてきたのだ。


 ジオウルフ城はクゼアニア国の領土だ。近隣の城が他国の領土であるが故に、諸王会議次第では、援軍を出すのが遅くなるかもしれない。


「向こうにはそれなりに優れた軍師がいるようだ」

「どう言うことだ?」

「こちらの援軍を引き止める策なのだよ。編成が傭兵団なのも納得がいった」


 同じくクゼアニア国の領土であれば、即座に援軍を出すことができる。地理的には遠いとは言えないが、ダゴゼルガ城から向かえば十分に間に合う。


 人の心理をついた良い手だ。


「我が第2軍が援軍に向かう。第1軍と第3軍であちらの3団を抑え込めるか?」

「ガハハ! なに、数はこちらの方が有利だ。楽勝楽勝」


 ガオラス軍長が笑いながら頷く。


「……残りの団に強力な魔法使いたちが配備されていたら?」


 バリア軍長が、腕を組みながら懸念を口にする。


「それはない。調べさせたが、炎檄の団。烈氷の団。風花の団だった。割と売れている傭兵団だが、脅威になるほど強力な傭兵団はない」


 ごくたまに、戦況をひっくり返すほどの傭兵団も存在するが、それはかなり稀だ。大抵は軍に所属している。


「いつから出発する?」

「今からだ。予備兵も可能な限り連れて行く」


 夜のうちに移動しなければ、ノクタール国の兵たちが必死でこちらの動きを制してくるはずだ。ゾヘンド軍長は、すぐさま伝令に準備を指示する。


 重要なのは、速さだ。こちらの援軍を警戒していると言うことは、短期でジオウルフ城を落とせる策略があると言うことだ。


「城の防衛は頼むぞ」

「ガハハ! 任せておけ」


 ガオラス軍長はドンと胸を叩く。


「おい、油断するなよ。相手もかなり強力だ。残りの傭兵団も相手にするとなると、戦力的にはかなり厳しい」


 バリア軍長が気を引き締めにかかる。


「問題ない。初日と今日で、人数的にもこちらがかなり有利になった。あちらがどう奮闘したからと言って、巻き返しはさせないさ」

「わかった。では、次に会う時は、勝利の美酒を傾けよう」


 ゾヘンド軍長がそう言って、笑いながら部屋を出て行った。

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