増強
数時間後。ガダール要塞へ酒場に戻ったヘーゼンは、酒を飲みながら陽気に話すラシードの話をよく聞き、自らも酒を少し口にする。
「ますます意外ですね。
「ヤン」
「なんですか?」
「黙って牛乳でも飲んでおけ」
「キー! なんなんですか!? おかわり」
ヤンは怒りながら、差し出された牛乳をガブ飲みする。
ラシードの話は非常に深く興味深い。歓談の中に散りばめられた情報を、ヘーゼンの保有する情報と繋ぎ合わせる。
そんな中、シュレイが2人の男と1人の女が入ってきた。
「お気に召しましたか? ラシードは」
「ああ。いい仕事をしてくれた」
「もう3団連れてきました」
「傭兵団か」
「ええ。炎檄の団。烈氷の団。風花の団。もちろん、高額ですが、腕は保証します」
「……」
まさか、こんな負け戦に参加する傭兵団がいるとは思わなかった。孤軍奮闘を覚悟してはいたが。
「炎檄の団団長のファルコ=バッダだ。あんたが、ヘーゼン=ハイムか」
ニカッと快活な笑みを浮かべ、大柄で髭の生やした大男で、巨大な斧を背中にぶら下げている。
「ああ。よく、引き受けてくれた」
「シュレイと賭けに負けた時の約束でな。呼ばれた時には真っ先に駆けつけるよう言われている」
「なるほど。契約ができてたと」
「契約? いや、ただの口約束さ。がっはっはっは!」
「ははっ……」
荒々しい笑い声につられ、ヘーゼンも思わず苦笑いを浮かべる。傭兵団には、このようなことがよくあると言う。自分には決してない価値観なので、彼らのような者たちを雇うのは諦めていたが。
「……セナク=バッダだ。烈氷の団の団長をしている」
今度は一際冷めたホッソリとした青年が手を差し出す。ヘーゼンは当然握手に応じるが、同時に怪訝な表情も浮かべる。
「バッダ?」
「ああ。私たちは3人とも兄弟でね。三女のリライ=バッダだ。風花の団の団長。よろしくね」
艶やかな緑の衣服に身を包んだ、派手な容姿の美女が軽やかに声を掛けてくる。先ほどから胸下にザックリと空いた谷間に、酒場中の男が注目している。
「……似てない兄弟だな」
「私以外は、冴えないヤツが多いでしょ?」
リライが軽快なウインクをする。
「団名からすると、属性特化の団か」
「ご名答。私たち兄弟が属性別だったから、いい感じで振り分けができたって……わけ!」
尻を触ろうとする客の側頭部を、リライは回し蹴りでぶっ飛ばす。なるほど、荒くれ者の男たちに囲まれただけあって、人並外れた暴力は兼ね備えているらしい。
モズコールは死ぬかもしれないなと密かにヘーゼンは思った。
属性特化の団は、長所と短所が明確になっている。国家の軍隊として、策士が割と好んで使う印象があるが、傭兵団というのが珍しい。
そんな中、次男のセナクがボソッとつぶやく。
「シュレイと酒を飲んでた時に、『こう言うやり方はどうだ?』と勧めてくれんだ。その時までは、同じ団で組んでてよく揉めてたんだ」
「なるほど」
戦術性の高さも兼ね備えるわけかと、ヘーゼンは感心した。軍師は、大きく2つのタイプに分かれる。前者は、後方から熟慮して戦略を考えるタイプ。後者は、前線で早期戦術判断を下すタイプ。両方ともこなせるのならますます貴重だ。
シュレイは差し出された杯を傾けながら言う。
「彼らはそれぞれ2千人単位の兵団です。イリス連合国将軍級と言うわけにはいきませんが、軍長クラスの実力も兼ね備えてます」
「十分だ。では、そろそろイリス連合国攻略について話そう。君はどう思う?」
ヘーゼンは頷き、シュレイに意見を求める。現状、選択肢は無数にある。ロギアント城から東に位置するジグラス城。西に位置するジオウルフ城。北に位置するドラクエストア城。
いずれも、ロギアント城とは規模が劣るが、頑強な城だ。
ガダール要塞から攻めるとすれば、更に西のダゴゼルガ城が控える。この城の規模は比較的小さいが、3人の軍長が守りを固めているため、攻城が難しい。
「私は、ジオウルフ城とダゴゼルガ城の両方を一気に攻めるべきだと思います」
とシュレイが答えた。
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