候補
この上位悪魔と出会って、何度目だろうか。ヘレナは、またしても我が耳を疑った。
「あの……ちょっと理解ができないのですが」
「まあ、義母さんの頭では仕方ないよね」
「……っ」
なんて、失礼な男だろうか。
「単純なステップアップだよ。今までは、貧乏の最下級貴族だから、位の低い下級貴族にしか嫁げなかった。だが、
「はっ……くっ……」
こいつ。まるで、人間の扱いではない。まるで、投機物であるかのように自分を扱ってくる。
「いえ、でも、その……あの……夜のお相手なども?」
「当然だよ。だって、結婚するんだから」
「……っ」
ニッコリと、笑顔で、ハッキリと答える。
息子が、母に『寝取れ』と命令している。
恋人がいるのに。彼とは、愛し合っているのに。見知らぬ、しかも、後妻としてベッドを共にしないといけないなんて。
嫌だ。絶対に、嫌だ。
なんとかしなきゃ。なんとか、やんわりと断らなければ。ヘレナは笑顔のヘーゼンを、それとなーく探る。
「でも……その、私にそんな真似……できるかしら?」
「……」
突然、ヘーゼンはヘレナの髪をガン掴みした。そして、壁に強く叩きつけて、鋭く冷た過ぎる瞳で睨む。
「ひっ……ひぎぃ!?」
「やれるかしら? 違うだろう? やるんだ」
「ひっ……ひいぃ」
「何か勘違いしてないか?
「ご、ごめんなさいごめんなさい」
ヘレナは涙目で、何度も何度も懇願する。
「想像できるか? 奴隷としてお前に売られた者だって、イカれた趣味の性的愛好者の慰み者になったかもしれない。それこそ、物扱いすらされず、家畜以下の酷い扱いでだ」
「ふっ……ふううううぅ」
もう、わかっている。わかっているのに、何度もこの男は責め立てる。後悔している。後悔している。申し訳ない。申し訳ないと思っているのに。
なのに、なぜ一向に許してはくれないのだろうか。
「女だろうが、子どもだろうが、外道は外道。僕はクズを差別しない。奴隷牧場で一生過ごすかい?
「……っ」
衝撃的過ぎる怖さを目の当たりにし、ヘレナが怯える。
『寝とれるか?』ではない。
『寝取る』のだ。
そう決意させるには、十分な追い込みを受けた。
「わ、わかりました! なんだってやります」
「そう? ヤる気になってくれてよかった」
「……っ」
怖っ。
従順に従う時と、従わない時の落差で、耳がキーンとなった。どうやら、この男は完全に人間を辞めたらしい。ヘレナはそう考えることにした。そう考えて、なおのこと完全な忠誠を誓い、前のめりに屈服することにした。
「じゃ、話を続けようか。今回は少しハードルが高い。今までは可能な条件からこちら側が選定していたが、今回は選ばれる側だ」
ヘーゼンはそう言って羊皮紙をベッドに置く。
「これが、候補リストだ。顔見せしてない貴族もいるだろうが、一言一句間違えずに覚えてくれ」
「こ、こんなに……」
「下手な弓矢だろうが、数を射れば一発は当たるさ」
「……っ」
誰が下手な弓矢だ、なんてことは口が裂けても言えない。
「第一候補はゴナスッドだ。地位は下級の中でも上から3番目。妻が5人いるので、第6夫人という立ち位置だな」
「だ、第6夫人」
そんな立ち位置から……困難なミッションであることは言うまでもない。
でも、ヤらなければ。
さもなければ、
「これは、完全な政略結婚だ。持て余すほどの財産を持った未亡人の下級貴族。側室として迎えるにはピッタリな条件だ。義母さんはまだ若いしね」
「い、いやそんな私なんてもう30越えで」
外見的にそう見えるのは、女として少し嬉しいが、世間的には手放しで若いとは言えないお年頃で――
「若いんだよ。相手は70歳越えてるから」
「……っ」
超ジジイ。
すぐに、ヘレナは高速で候補者リストを眺める。
「……っ」
というか、ジジイばっか。
「持病を抱えていたり、死にそうな奴らから集めたからな。年齢平均は65歳だ」
「……っ」
「先方も財産目的だ。義母さんに性的魅力を感じているわけでもなんでもないので、そう身構えることもないんじゃないかな」
「ぐっ……」
清々しさすら感じる失礼さ。いちいち、デリカシーというものを粉々に粉砕して話してくる。
「精力があるかどうかは、微妙なところだしな。まあ、相手は全員魔法使いだから、可能性もなくはないが」
「……」
一般的に言われているのは、魔力が強ければ強いほど、老化に強く若々しいということだ。さすがに200歳越えという事例はないが、高位の魔法使いは100歳を超えてもピンピンしている場合もある。
「まあ、ただ覚悟だけはしておけ。いざ、ことに及べば全力でことを為せ。得意だろ?
「……っ」
息子が母親を○乱扱いしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます