領地経営編2
経営報告
バルク領クラド地区、ノヴァダイン城。ラグ=ユーラムは、毎日の巡回をしていた。元々はしがない衛兵だったが、ある日突然、ヘーゼンから領主代行に任命された。
しかし、やることがまったくわかっていない。
クラド地区の人々は喜んでくれた。当然だ。あんなヤバい
とりあえず、地区で1番頭のいい眼鏡少女、シノンが内政全般を請け負っている。四苦八苦しながらであるが、長老ダリルと話を進めているので、なんとかできてはいるのだが。
「はーっ……重荷」
ボーッと、なんの気なしに景色を見ていると、一頭の馬車が近づいてきた。
こんな寂れた領に来客。城主代行としてなにをすればいいかもわからないのでオロオロしていると、少女の声と……恐ろしく冷たい、淡々とした声の応酬が聞こえてきた。
「……っ」
ヘーゼン=ハイムだ。
「はわわわわっ……ど、どうしよう」
と、とりあえず。
城主代行として、みんなに
ラグは全力で走って、麦畑農家の1人に声に向かって叫んだ。
「た、た、た、たたたたいへんだ! へ、へ、へーゼン様が来たー!」
「えっ! えええええええええっ!?」
「俺はすぐに戻るから、みんなに伝えてくれ!」
「わ、わかった」
よし。これでいい。
それから、ラグは猛ダッシュで戻り、ノヴァダイン城へと戻る。秘密のルートを使って密かにヘーゼンを追い越し、玉座の間へと滑り込む。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」
「久しぶりだな、ラグ」
「お、お久しぶりです……はぁ……はぁ……」
間一髪、間に合った。息を切らしているが、なんとか。しかし、そんなラグの心配をよそに、ヘーゼンは淡々と話を進める。
「麦畑の開墾は進んでいるか?」
「はい。ガマノじいさんが、農民たちにいろいろと教えてくれるようになり、収穫量も倍ほどになりました」
最初の頃は渋々であったが、今は毎日怒鳴りながらも充実した生活を送っているようだ。
「それはいいな。予測以上の収益だ。それなら、納税は問題ないな」
「はい。ですが、長老のダリルがゴネてまして」
「したたかなあの老人らしいな。少しでも納める税を減らしたいのだろう。以前、ダリルは自身のガリガリの身体を見せてきて、ことあるごとに、自分たちの苦境を訴えてきた」
「あの……私としては、汲んでいただけると言いやすいんですが」
「いや、減税はできない。だが、異論・反論は受けつけるから、僕のいる間にここへよこしてくれ」
「め、めちゃくちゃ嫌がると思いますけど」
「なぜ?」
「……っ」
ラグはかなり言いづらかった。ハッキリ言って、ヘーゼンと対峙するのが怖すぎるためである。
「まあ、どっちでもいいが。来なければ、ダリル長老の要望が通ることはない。そうとだけ伝えてくれ」
「……わかりました」
確実に、ダリルは黙ると思った。
そんな中、キャッキャと黄色い声が聞こえてきた。
「シノンちゃーん」
「ヤンちゃーん」
黒髪少女は、嬉しそうに眼鏡少女の元へと駆け寄って抱き合う。
「茶番は終わったか?」
「か、感動の再会を恐ろしくデリカシーのない言葉で台無しにしないでくださいよ」
ヤンの苦言を完全に無視して、ヘーゼンはシノンに向かって尋ねる。
「奴隷牧場はどうなってる?」
「えっ……ええっと。一応、稼働してはいますが」
「行く」
「わ、わかりました。すいません。でも、あまり、上手くは」
シノンは言いづらいそうに案内する。少女に任せるのは酷な仕事だと思うが、他に適任がいないので仕方ない。
奴隷牧場に到着した。まあ、牧場とは言っても、単なる大きな掘立て小屋である。人数は50人あまり。1人2畳のスペースが、申し訳程度の仕切りで分けられていた。
そこには、半ば現実逃避を試みて、放心状態の人々がありふれていた。
「正直、スペースには余裕があるので、各々一部屋を割り当ててもいいと思いますが」
シノンが言いづらそうに報告する。
「いや。これからもっと拡充する予定なので不要だ。人は落差が大きい方がやる気が下がる。それなら、最初から低水準であるほうがいい」
奴隷牧場の満面は、元上級内政官のバグダッダを初め、奴隷ギルドを運営していた幹部たち。いわゆる、悪の巣窟である。
そんな輩に人権がないと言うのが、ヘーゼンの主張だ。
「サボらせたらダメだぞ? 鞭は効果的に使わなくてはいけない」
「む、鞭ですか……いや、でもなぁ」
ラグは難しい表情を浮かべた。奴隷がいるのは、承知だが、なかなか厳しい扱いには抵抗がある。
「はぁ……仕方がないな。管理者を増やそう」
「えっ?」
「バライロというパワハラ上司がいたので、壊してなんでも言うことを聞くようにした。今度、そいつが罷免になるから、奴隷牧場の管理者として呼ぼう」
「……っ」
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