激務
社交会が終わり、ヘーゼンたちは馬車で帰る。
「
ヤンが呆れ顔を浮かべる。
「主な目的は調査だな」
「社交会なんだから、社交しましょうよ!?」
「したよ」
「めちゃくちゃ嫌われてるじゃないですか! しかも、直属の上級貴族に」
心当たりはまったくないが、どうやらヤンはそう捉えたらしい。極力愛想良くしていたつもりだが……『解せぬ』と言う想いがヘーゼンに溢れた。
「まあ、別にいい。見定めたが、取るに足らぬ人物のようだし」
「だから、何をしに行ったんですかと聞いているんです!」
「敵味方の選別」
「……っ」
ヤンはガビーンとした表情を浮かべるが、事実なので致し方がない。味方ならば、絡め手で取り込む必要があるが、敵ならばむしろ敵意を増やした方がやりやすい(
グレーの存在をなくすという作業が、すなわちヘーゼンにとっての社交だった。
「ヤン。主従関係を結ぶ上で最も不要なものは、無能な主だ。そのためには、さっさと選別して、不合格ならば、どんどん交代させていく」
「ど、どの立場でものを言っているんですか!?」
「僕は僕だ。それ以上でもそれ以下でもない」
当然、ヤンの能力ならば、ある程度の妥協と協調は必要だろう。この少女の見た目は幼児だし、魔法も使えない。そう言う意味では、敵を作らない戦略が最適だと言える。
しかし、ヘーゼンはある程度の戦闘能力もあり、ツテもある。それを考慮しないで立てられる戦略など、たかが知れているし、自らの能力を最大限活かす方が理にかなっている。
実際、ヘーゼンも妥協するところは考えている。上級貴族の例えば、ドネア家クラスの爵位ならば、ある程度馬が合わなくても、力関係を考えて引くべきところは引かねばいけない。
しかし、上級貴族であろうと、最底辺の、しかも無能に慮る必要性などは感じない。それだけのことだ。
「でも、嫌がらせされると思いますけど」
「むしろ、好都合だよ。隙は攻撃した時に起きやすい」
「……っ、鬼畜」
「それよりも。シオン、君は平民という立ち位置だが、今後もヤンに従って社交に行く場も増える。次からは、この未熟者の足りない部分を補うような立ち振る舞いができるよう意識しなさい」
「は、はい!」
シオンは、未だ現実味がなさそうな返事で頷く。
「さて、やることは山ほどある。農地については、夜に死兵を召喚して開墾させる。これは、僕しかできないから僕がやる」
「りょ、領主自ら開墾ですか!?」
「適材適所に身分など関係ない。荒れ果てた農地は、そこで整備するので、シオン。君は、あのガブラという男から農地のことについて聞き出して農民たちに広めなさい」
「あ、あの……教えてくれなかったら」
「いつでも言ってくれ。調教には慣れてるから」
ニッコリ。
ヘーゼンは爽やかな笑顔を浮かべる。シオンはヤンと同様驚愕の表情を浮かべるが、やがて、『私がやらなきゃ』と意味不明な独り言をつぶやき、使命感たっぷりな顔で頷いた。
「絶対教えてもらいます! 私に任せてください」
「いい返事だ。頼む。ヤンは、奴隷ギルドに潜り込んだサンドバルと連絡をとってくれ。仕切ってる者の内部情報が知りたい。護衛にはラグとカク・ズをつける」
「ふ、二人も要ります?」
「ラグという男は実力が知りたい。可能であれば、2人を指揮して仕切ってる者を生捕りにして奴隷ギルドを壊滅させろ」
!?
「できる訳ないじゃないですか!」
「カク・ズを使えば可能だ。できればでいい。いいか、生捕りだぞ?」
「い、生捕ってどうするんですか?」
「奴隷牧場を作るから。その人員に充てる」
「……っ」
信じられないような表情をヤンが浮かべるが、ヘーゼンはまったく気にしない。
「解放した奴隷は、可能であれば住民にしたい。領主になれば戸籍の偽造も可能だから、後で諸々と捏造してもらうが、今はいい」
「あ、頭がクラクラしてきた」
「あくまで、意思を確認した後だ。故郷に帰りたいとの要望があれば、そのように取り計らえ。偽善は君の得意技だろ?」
「失礼すぎる……」
「夜は徹夜だから少しだけ寝る。なにかあれば起こしてくれていいが、基本的にはギザールに指示しろ」
「お、俺も48時間寝てないんだけどなぁ!?」
と、馬車を運転している御者の叫びを無視して、ヘーゼンは数秒で眠りについた。
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