税
あまりにもな発言に。誰もが続けるべき言葉を見失う。唯一、隣のヤンが口をパクパクさせながら、「
そして、なんの反応もないことに対して。
「一応、わかったと思えばいいかね。まあ、わかりやすいルールだからね」
とつぶやく。
「「「「「……っ」」」」」
確かにわかりやすい。
でも、
そんな中、この区域の代表のような老人がスッと立ち上がった。
「君は?」
「ダリルと言います。ここの取りまとめ役をしている老ぼれです」
「なるほど」
「あの……要するに、あなたの言うことに従えばいいということですね?」
老人は戸惑いながらも、気を落ち着かせて尋ねてくる。
「その通り。まあ、区内の司法、行政、立法における諸々は後でヤンに見直しさせ、足らない部分は起草させるとして、大まかな指針だとそうなるかな」
・・・
「はい!」
圧倒的な沈黙が周囲を支配する中、大きな声で手をあげる者が一人。大きな眼鏡をかけた長身でスレンダーな体型の美少女である。少し吊り上がった瞳が、理知的な雰囲気を纏う。几帳面に揃った前髪は、そのきちっとした性格を如実に引き立たせていた。
「あっ、シオンちゃーん!」
ヘーゼンの隣にいたセシルは元気よく手を振って返す。
「なんだ、知り合いかね?」
「はい! シオンちゃんって言って、すごく頭のいい子なんです。天才なんです」
「ほぅ」
ヘーゼンは、視線をシオンという少女に合わせて観察する。
「税率はどうなりますか?」
「まあ、君たちが気にするのはやはりその辺だろうな。ヤン、一般的な税の相場は?」
「……ここより一割ほど高くなってます」
「ふむ……では、まずは平均に戻すところから始めようか」
「「「「はっ!?」」」」
人々の顔色が困惑から怒りに変わる。今までは、あまりの暴言ゆえに実感すら持てなかった。しかし、税率に関しては生活に直結する問題であり、それがいきなり一割も上がると生活することすら厳しくなる。
しかし、ヘーゼンの表情が変わることはない。
「少なくとも小金貨3枚は必要なのでね。先ほど、詳細の資料を確認して計算したが、今の税収であればそのくらいはいる」
「そ、そんな。なんとかなりませんか? 何卒……何卒……」
「ダメだ。小金貨2枚は必ず上納する必要がある。城の運営には1枚は必要だ」
「ふ、ふざけるな! ここの土地は作物が取れないからその分税が低いんだ!」
真っ先に立ち上がったのは、農民の大男だった。ダリルの息子であるバズッドという男で、父親とは違って大柄で筋肉質な身体つきである。
「違うな。低くしたのは前領主ホランダという貴族の独断であったそうだよ。しかし、彼も収益が上がらずに、そのまま蒸発した。彼の日記に残っていたよ。税率を下げたのにも関わらず、君たちはそれすら満足に支払わなかった……随分と楽をしてきたんだね君たちは」
ヘーゼンは冷徹にバズッドを見下ろながら答える。
「そ、そんなのは前が高すぎたんだろ!」
「だから、相場だと言っているじゃないか。よかったら、その資料をヤンに持ってこさせようか?」
「ぐっ……」
「呆れた民度の低さだな。自分たちの力量不足の要因に目を向けずに外部のせいにするなんて。前の領主がなぜ、税率を下げたのか教えてあげようか? 前の領主はね、君たちをペットだと思ってたからだよ」
「ぺ、ペット?」
「ああ。君たちに餌をやれば懐いてくれて、働いてくれると思っていたんだよ。愚かな領主だ……ペットだって、しつけをしなければ働かずに怠惰になるというのに」
「ふ、ふざけるな!」
屈辱に身体を震わせた大男は、今にも殴りかかってきそうな目で睨んでくる。
「違うのか? まあ、人というのは狡猾なものだからね。ペットとはひと味もふた味も違うということをわかっていなくてはいけなかった。君たちは領主の甘さにつけ込んで、卑怯にもその誠意に背き、彼を失脚とさせた。君たちが前の領主を蒸発するまでに追い込んだ」
「くっ……ふ、ふざけるな! そ、そんなの絶対に従わないぞ」
「はぁ。君とはどうやら倫理的な会話ができないようだ。まあ、好きにするといい」
両手に魔杖を出し。
「従わない者。全員出てこい。杖刑10発……安心しろ。死なない程度には、治癒魔法をかけ続けてやる」
ヘーゼンは不敵な顔で笑った。
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