3日目


 3日目。中央門の前では、ヘーゼン率いる第二大隊が最前線に立っていた。そして、眼前に現れたのは、ギザール将軍率いる騎馬隊だった。


 予測通りの行動だ。


 2日目までに、相手方の主要な戦力を削った。そうすれば、長期戦の可能性が出てくる。必然的に対峙することこそが、最良策だと思わせる。それこそが、へーゼンの戦略だった。


 そして。


 ギザール将軍は自らの意思で対峙し。


 へーゼンは自らの意思で対峙した。


 昨日と同様単騎でこちらに向かってくるギザールに対して、ヘーゼンもまた無防備に近づく。それは、まさしく彼の魔杖『雷切孔雀』の間合い内だった。


 にも関わらず、二人とも動じることも、臆すこともなく見つめ合う。


 仮にここで雷切孔雀を発動すれば、ギザール将軍はへーゼンの首を取れたであろう。しかし、それはないと踏んでいた。


 なぜなら、この間合いで、ギザール将軍は負けたことがない。それゆえ、この距離では絶対的な優位性を持つ。


 生殺与奪の権利を与えることで、生殺与奪の機会を奪う。それが、ヘーゼンにとっての一対一の対処法だった。


「初めてまして。ヘーゼン=ハイムと言います」

「……ディオルド公国、将軍のギザールだ」

「もし、よければ一騎討ちで勝負をつけたいと思うんですが、どうでしょうか?」

「いいだろう」

「よかった。ところで、一つ賭けをしませんか?」

「賭け?」

「私が勝てば、ギザール将軍。あなたが私の部下になる」

「……ははっ! ならば、私が勝てばお前が部下になると言うことか」

「もちろん」

「大した自信だな」

「自信ではなく、確信です」


 へーゼンがそう言い切った時。ギザール将軍の表情が変わった。


「……いいだろう。その賭け、受けるとしよう。勝負の開始はどうする?」

「シンプルなのがいいですね……このコインが地面に落ちた時。互いが降参するまで戦闘を行う」


 ヘーゼンは持っていたコインを見せる。


「わかった。それでいい」


 ギザール将軍は戦闘の構えを取る。ヘーゼンもまた、ニイと笑顔を浮かべた。


 契約とは、縛りだ。これで、こちらがいくら事前に準備をしようとも、あちらから攻撃してくることはない。


 ヘーゼンは、堂々と背後に8つの魔杖を出現させた。


「話には聞いていたが、本当なんだな。魔杖を8つ操ると言うのは」

「一つの戦闘ではそこまで多く使わない場合が多い。だが、相手に合わせられると言うのは、有利ではありますがね」


 ヘーゼンは両手にそれぞれ魔杖を握る。


「……銘は雷切孔雀らいきりくじゃく

「なるほど。素晴らしい魔杖だ。さすがはカク・ズの凶鎧爬骨きょがいはこつを破っただけのことはある」

「……彼は素晴らしい戦士だな」

「私の誇りです」


 速度に特化したギザール将軍に対し、凶鎧の硬度が功を成した。そう言う意味では、見事あちらの目論見を打破したのだから。


「お前も、私の雷切孔雀を防ぐ手段があると言うのか?」

「まあ、数個は思いつきますが使う気はありません」

「……どう言うことだ?」

「ギザール将軍。私はあなたが欲しい。だから、正々堂々と実力の違いを見せつけて勝とうと思います」

「……」


 ギザール将軍に勝つという事。それは、小手先で雷切孔雀の隙を突いたり、罠にはめたりする事ではない。


 雷切孔雀に……ギザール将軍に勝つということ。


 それはーー


「あなたの速さ。私はそれを圧倒して勝って見せます」


 ヘーゼンは堂々と言い切った。10等級の魔杖で、少なくとも4等級以上の業物の魔杖を。一介の少尉でありながら、大将軍級の本物を前に、実力の違いを見せつけると宣言した。


「……気が変わった。つまらんやつだったら、その首を撫で斬る」

「クク……どうぞ。勝者には生殺与奪の権利がある」

「聞こう。お前の魔杖の銘を」

「銘……ですか。あいにく、そこまで上等な宝珠がないのでね。それは、カク・ズに譲ってしまった」

「おちょくっているのか?」

「いえ。だが、名ならあります……こちらが磁雷じらい。あなたの雷切孔雀らいきりくじゃくを打ち破る魔杖だ」


 そう言って、ヘーゼンはコインを指で弾く。高く高く舞い上がったそれは、クルクルと廻って地面へと落ちた。


 瞬間、ヘーゼンとギザール将軍は兵たちの視界から姿を消した。



 

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