雷切
*
ギザールは『雷切』を使用し、ヘーゼンの元へと高速移動する。ヘーゼンもまた、『磁雷』の能力で別の場所への移動している。
その瞬間、ギザールは自身の勝利を確信した。
遅い。
宝珠が10等級と言うのは、
つまり、視覚、思考すらも超速に対応すると言うことだ。
コインが着地してからの反応は、ヘーゼンの方が早かった。しかし、速度が少なくとも10倍以上違う。一度の移動で判断を変えることは出来ないが、次の移動で追いつくことができる。
「……」
しかし、あの自信。これだけの能力差をあちらも想定済みだとすれば、どこかで勝機を見いだしているはずだ。ヘーゼン=ハイムはどちらかと言うと策士のような印象も受けたので、向かう先に罠が張ってある可能性も考えられる。
ギザールは、目的地に到達した後、中間地点を設けてヘーゼンの元へと向かうことにした。
「……っ」
しかし。
すかさず雷切を発動した時、明らかな異変に気づく。ヘーゼンがその位置にいない。視界を広げると、すでに別の位置から移動を始めていた。
なぜだ。速度はこちらが圧倒しているにも関わらず、ヘーゼンが消えた。そして、今も移動している速度は鈍い。これならば、目的とする位置を間違えることなどない。
ギザールが目的地に到達した瞬間、迷わずヘーゼンの元に向かうよう、更に雷切を発動した。
「バカな……」
いない。すでに、ヘーゼンは右斜め10メートルほどの位置からノロノロと移動を始めている。速度は、やはり遅い。しかし、雷切は途中で目的地を変えることができない。それをするためには、もう一度、雷切を発動させなくてはいけない。
そんなギザールの心情を見越したように、ヘーゼンはゆっくりとした速度で、ニヤッと笑いかける。
「くっ……」
挑発に乗るな。自身に何度もそう言い聞かせて、一旦遥か後方へと引いた。そして、高速での移動中にヘーゼンの行動を監視する。相変わらず、動きは鈍い。そして、目的地に停止したところで、完全にヘーゼンの動きが停止した。そこからは微動だにしない。
瞬間、ギザールは笑みを浮かべる。停止の瞬間を捉えることができれば、こちらは勝ったも同然だ。いつも通り、雷切を発動してその首を取ればいい。
「終わりだ」
目的地に到着した瞬間、間髪入れずに雷切を発動した。
「……なぜだ……なぜだあああああ!」
ギザールは移動中にもかかわらず、取り乱したように叫んだ。そこにいるはずのヘーゼンがいない。いないのだ。今度は視界にすら入っていない。
そんなことはあり得ないのだ。
速度を見誤っていた? いや、
現に、視認できる移動速度も鈍いと感じるほどのものだ。もちろん、停止した瞬間には、次の動きまで常人となるので、そこを狙えば確実に捕捉できるはずなのだ。
なんだ。
いったいなにが起こっているのだ。
目的地に到着し、周囲を見渡そうとした時、背後に気配を感じる。
「わかりませんか?」
その声は、低くギザールの腹に響いた。
ギザールは瞬時に雷切を発動して、振り向きざま剣を振るう。しかし、ヘーゼンの姿はなく、すでに別の場所へと移動していた。
もはや、なにがなんだかわからなかった。
わかるのは、確実に今、背後を取られていたと言うことだ。それは、致命的にこちらの負けだと言うことだ。完全におちょくられていることもわかった。しかし、ギザールは認められなかった。
これは、ヘーゼンが言った速さでの勝負ではない。なにか奴がおかしなことをしている。そう自身に言い聞かせて、戦闘を続ける。
それから、ギザールは何度も何度も雷切を発動した。それこそ、数百回を超えるほど。しかし、一度としてヘーゼンを捉えることはできなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……なぜだ?」
やがて、ギザールが雷切の発動を止めた。
「わかりませんか? あなたが遅いんです」
後ろの方から、ヘーゼンが答える。距離感はわからないが、確かに背後を取られた。雷属性の者であれば、背後を取られると言うことは即敗北を意味する。もう、すでに3回。本来であれば殺されている。
「遅い?
「違いますよ。遅いと言ったのは、あなたのことですよ。ギザール将軍」
「私が……」
そこで、ギザールは気づいた。
気づいてしまった。
遅いのは、雷切自身の速度ではなく、魔法の発動速度だと言うことを。
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