第2話
教室に戻ると沓子が待っていた。
「あれ?お昼はどうしたの?」
「なんか山下に買ってきてもらうことになって」
「ふぅーんそっかー」
なんてニヤニヤしながら顎をさすってこっちを見るから
「その笑い方やめなさい。」
と沓子の前の席に座り、椅子だけを沓子に向けて沓子の机に肘をつく。
「っていうか、山下に伝言頼んだのあんたでしょ?」
「そうだけどさー」
「なんで山下?」
「さっきの数学の時間仲良さげだったじゃーん。」
「あれは、ちょっと助けてもらっただけで、別に、」
「照れなくてもよろしいですよーだ。」
山下意外と綺麗な顔してるもんね、なんて勝手に自分で納得してる沓子。
「茜もそう思うでしょ?」
「え?いや、うん、まぁ」
「わー、ついに茜も恋すんのかー。」
「そういう沓子だって隣のクラスの子どうなったのよ」
「私はいいんだって。」
なんて緩く恋バナをしていると教室のドアが開く
「あら、王子様のお出ましだね」
「ちょっと沓子。」
山下が笑いながら入ってきて
「な、なに?」
と聞くと
「お前ら声デカすぎ、廊下中響いてたぞ」
しまいには口元を手で押さえて声を出して笑うもんだから沓子も私も恥ずかしくなって
「そんな、笑わなくたっていいじゃない、ねぇ?茜」
そんなことより、あの話、山下の顔が綺麗云々の話が聞こえてたかもしれないってことじゃないか。
そんなの恥ずかし過ぎる。
「どこから話聞こえてたの?」
恐る恐る尋ねると、大きな手で私の頭をぽんと撫でて
「俺は、自分に都合のいい事しか聞かないし、覚えない主義だから、そんな心配しなくて大丈夫。」
と優しい声でふわっと笑った。
「あれ?あれれー?」
と沓子が面白がる声が聞こえたけれど、それをつっこんでる場合じゃなくて、
私の頭に乗った手が優しいことも、あったかい事も、私の顔を林檎みたいにするのには十分で、
「あ、あのお昼、」
やっとの事で口から出た言葉は何とも食い意地の張ったお昼ご飯の心配で。
「忘れる所だった、はい。」
「あ、ありがとう。」
袋を渡される時も手が当たりそうでひやひやして、でも当たることなく終わった。
「じゃあ、俺帰るわ、また明日。」
緩くひらひらと手を振って教室を出る山下。
お金を払ってないことに気付いて、慌てて追いかける
「山下っ」
廊下を曲がりかけた山下を呼び止めてそこまで走る
「なに?どうしたの?」
「お金、忘れてた。」
と財布を出してお金を渡そうとすると、手で制止される。
見上げると
「いいよ、俺小銭いらない主義だから。」
それは小腹が減った時用に残しときな、とまた大きな手でぽんと撫でて歩いていった。
「ありがとう、また明日っ」
歩いていった山下の背中に声をかける。
すると手を挙げて応えてくれた。
それだけの事が嬉しくて、口元がにやけてしまう。
ああ、私、恋してるんだな。
このまま教室に戻ったら沓子にいじられるな。でもいいか。今、とっても幸せだから。
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