新しい同室者

漆目人鳥

新しい同室者

筆者が病院の大部屋に入院したときの話。



夜中、25時過ぎた頃に突然何者かに起こされた。


声をかけられたのか、ベッドを揺すられたのか、

良く覚えていない。


寝ぼけ眼で『はい』と返事をする。


薄暗い病室の中、ベッドを囲むカーテンの足下側の隙間から、

立ってこちらを伺っている人影が見える。


「夜分すいません」


男性の声。

顔は良く見えないが立派な顎鬚が印象的だった。


「今度同室させていただきます〇〇と申します。よろしくお願いいたします」


そう言うと、視界から消えた。

カーテンの陰になって見えなくなったと言う雰囲気だったので。


『ご丁寧にどうも……』と言おうとして、

上半身を起こし、ベッドの上を四つん這いで行ってカーテンをめくってみたら、

誰も居ない。


夢?

良く考えてみたら、こんな夜中に自分で歩けるような病人が入院して、

挨拶に回ると言うのも変な話。

同室のほかの人達も何事も無いように寝息を立てている。

気にせずそのまま寝直した。


翌日、昼過ぎ頃、うちの大部屋に急患が運ばれてきた。


交通事故で足の骨を折ったとの事。


で、良く見ると……。

その患者……凄く立派な顎鬚を生やしていた。


しかも、その名前が……。

よくある苗字では有るのだが……昨日の『訪問者』と同一だった。

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新しい同室者 漆目人鳥 @naname

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