第7話 意外な再会
外を歩き、数時間。
時刻は昼に近づきつつあった。
気がつくと、僕は道行く人の中に
いや、いるはずが無い。
彼女がこちらに来ていると決まったわけではないのだ。
ともかく僕は歩き続けて、そして……
迷子になっていた。
「せめて、文字が読めれば」
場所を示した看板の前で、僕はがっくりと膝を着く。
日本語なんて書いてあるはずもない。ホテルの場所が分からないのである。
知らず知らずの内に人気のない場所まで来てしまい、僕は悲観にくれていた。
ふと空にフクロウが飛んでいるのに気づく。
「フクロウって、昼にも飛ぶんだなぁ」
異世界なのでありえるのかも、と思ったその時、僕の目の前に立ち塞がる者がいた。
仮面をつけた女性である。
その人は何故か無言で、それでも驚いた様子で僕の顔を数秒見つめると、言った。
「お前が、平穏なる魔術師の弟子なのか?」
「あなた、誰です?」
「……こちらに来てもらおう」
デートのお誘いなら嬉しかったが、女性の声はどこか事務的である。
好意らしきものは全く伺えない。
何より、仮面を着けているので怪しさ大爆発である。
「断ったら?」
「力ずくでも連れて行く」
瞬間、その女性は僕に対して鋭い意思をぶつけて来た。
これは、以前にも感じたことがある。
殺気だ。
「手荒な真似はしたくない。まともな魔法は使えないと聞いているが、大人しくしないのならば、容赦はしないぞ」
女は手元にあった石を拾うと、目の前で粉々にした。
魔法であることは、僕が見ても分かった。
そして、まるで灰のように床に散ったそれを見て、僕は思いついたことを言った。言わなくても良い言葉を、言ってしまったのだ。
「舞踏会襲撃事件の、犯人?」
「……そうだ」
てっきり、
彼女は魔術師だ。
足の速さには自信があるけれど、駆け出して逃げられるようなものではもちろん無い。
「僕が魔法を使えないと言う情報は古い。どうしてもと言うのなら、抵抗させてもらうけど」
「嘘だな。だったら、どうして足が震えているんだ?」
ハッタリは効かない。完全に意識を飲まれている。
魔術師の戦いは、意志と意思のぶつけ合いだ。
戦士が筋肉と筋肉でぶつかり合うように、魔術師は魔法を使うための精神力のようなものをぶつけ合うのだ。
「痛いことはしない。こちらに来てくれ」
「じゃあ、せめて教えてください。僕を、どこに連れて行くつもりなんですか?」
「それは教えることは出来ない」
「だったら、お断りします!」
僕は体を翻させると、走った。
ダメだと分かっていても、もはやこれしか方法が無い。
人通りの多い場所にさえ行けば、あるいは助かるかもしれないと。
だが、それは甘かった。
女は苦もなく僕に追いつくと、僕の頭に触れる。
それと同時に、僕の体は前のめりに転げてしまった。
「ごめんね」
先ほどとは打って変わった謝罪の言葉を聞く。上空に飛ぶフクロウの影が地面に映っていて……
そして、その思考が最後となって、僕はまるで眠るようにして意識を失った。
○
ぼんやりと目を覚ますと、そこは、酷く真っ暗で、臭くて、湿った空気が流れていた。
「な、何で、こいつがここに」
どこかで聞いた声を聞く。
これは、誰の声だったか?
「ねぇ、あんた、起きてよ。なんでこんなところにいるの?」
僕は顔を上げ、そして見た。
場所は牢獄としかいえないような場所で、遠いところにある窓から、僅かな光がチラチラと差し込んでいる。
しかし、それでも、そんな僅かな光源しかなくても、僕は声の主が誰だか分かった。
「
犯人ではなかったけれど、転移はしていたのか。思うと同時に、彼女の、あまりにも悲惨な姿に、僕の朦朧としていた意識は
床に残る血痕。
体中が傷だらけで、手足は鎖で繋がれている。
肌には裂傷の跡があり、火傷の跡があって、なおかつそれが人為的につけられた傷であることが分かるような様々な拷問器具が、彼女の周囲に設置されていた。
「み、見ないで」
三度は手で胸を隠そうとした。
その手の指の爪が、全て剥がされているのに気づく。
「
「見ないでって言ってるでしょ! お願いだから!」
それでも目が離せないのは、彼女の傷があまりにも痛々しく見えたからだろう。
どうしてこんな牢獄にいるのだろうか。
僕も捕らわれの身であるらしく、手足に彼女と同じ鎖がついた枷が付けられていたけれど、それでも
そして、再び頭が朦朧としていく。
気のせいではない。
目の前の
多分、転移が始まったのだろう。起きている状態で移動するのは久しぶりだ。
酷く気分が悪くなるので、あまり好きではない。
しかし、僕はこんな状態のまま元の世界に帰るのかと思う。
でも、転移は抗いようも無くやって来て、僕らの意識を元の世界へと連れて行った。
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