星暦1122年 赤の月11日

第6話 犯人についての考察

 目を覚ますと王国ホテルだった。

 星暦1122年、赤の月11日。魔術師見習いケイゴ・キゲツキに戻った僕は、ふかふかのベットから起き上がると、窓を開ける。


 晴れた空。でも、心が曇ったままなのは、きっと、この後にマルレラから宿題の答えを聞かされるからだろう。


 とは言え、そのままでいるわけにも行かない。

 時計がないので何時なのかは分からないけれど、とりあえず着替えをして、マルレラの部屋に向かった。

 怒られに、そして謝罪するためにである。



「おはよう、ケイゴ君。宿題は?」

「すいませんでした!」

「まぁ、そうだろう」

「え?」


 師匠は笑う。


「何か結論を持ってこれるとは思ってなかったさ。修行だよ、ケイゴ君。魔法は意志の力だからね。知りたいと意識することが大切なんだ。今回は特別に事件の概要を教えてあげよう。とりあえず部屋に入って」

「はい」


 マルレラは机で書き物をしていたらしい。

 僕は促されるままに床に座る。


「それじゃあ、教えようか。まず、現場の灰だが、ダンスホールは木造じゃ無かった。これは、あれが灰に見えて、灰ではなかったことを示してる」


 初耳である。

 あの大量の灰を見て、てっきり木造だと思っていた。


「灰じゃないって、なら、あれは」

「恐らく物質を灰のように変質させる魔法だね。細かくバラバラにする恐ろしい術だ。そうなると、犯人はただの魔術師じゃない。私の見解では君と同じ境遇の人間……異邦人だ」


 衝撃の一言だった。


「ど、どうしてそうなるんですか?」

「物を燃やしたと言うのなら話は分かるよ。熱の操作は魔法の初歩だからね。でも、物質を粉みたいに変えてしまう魔法なんて、私は聞いた事が無い。となると、一番高い可能性としては、君のような人間が持つ、特別な魔法と言うことになる」


 彼女の言う通り、僕は特別な魔法が使える。

 転移した時に知らずに身に付いていた、僕だけしか使えない特別な魔法だ。

 魔術師としては見習いだけれども、それだけは使いこなすことが出来る。


「君の魔法は優しいが強力で、そして君にしか使えない。でも、だからこそ、転移した時に特別な魔法を覚えてしまう異邦人は警戒され、排斥されるんだ。これらの特殊能力に加えて、魔術師並みに他の魔法も使いこなしたら脅威になるからね。君も二ヶ月前に経験したろ?」

「……じゃあ、本当に僕がいた世界から来た人が、この事件を?」

「いや、君のいた世界からとは限らない。でも、とりあえずは異邦人だ。消去法だよ。特別な魔法は、私のように最古の魔術師と呼ばれる者も持っているけれど、今回、ダンスホールを灰だらけにするような魔法を使えるものは、私達の中にはいないのだから」


 沈黙。その後、マルレラはまるで慰めるようにして、言った。


「ただ、犯人の目的は人を傷つけることではなかったよ。犯行時に出たと言う炎は恐らく幻覚を見せる魔法で、破壊は人の避難が終わってから行ったんだろうな。そう言う意味では優しい奴だったかもしれん。灰からもそう言う意思めいたものを感じたし、何より死人が一人も出てない」


 含みのある笑いでマルレラは言って、それから僕の頭を撫でる。


「とりあえず、散歩でもしてきたらどうだ? 心を落ち着かせろよ」

「はい」


 正直、ショックだった。

 犯人が異邦人と聞き、元の世界で感じた三度みたびへの疑惑が、だんだん形になってきたからだ。


 三度みたび恵良えら


 どうして、彼女から現場と同じ匂いがしていたのか。

 やはり、この件に関わっているのか?

 僕は、気分が落ち着くまで町をひたすら歩き続けることにして、ホテルの外へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る