軍団Ⅳ

 多くの冒険者たちがたむろする、冒険者ギルドのギルド会館ホールを抜け、奥の第二会議室へと続く扉の前まで来ると、ラシェイは一度ため息を付いた。

「どうした? 入らないのか?」

 扉の前で立ち止まるラシェイを見て、エリスが問いかける。

「いや、この先の事を考えるとちょっとな」

 エリスの元で仕事をするようになってから、今回の様に他PTと共同で行動を行う時、代理の代表として振る舞うことが何度かあったが、いまだに成れないものだと思いながらエリスに答えを返した。

「そうか。すまない」

 感情の籠っていなさそうな素気ない返事をエリスは返す。

 冒険者はその仕事柄血の気が多いものが多く、乱暴者が多い。また、冒険者としての力が、冒険者としての地位に直結することが多いため、身体能力で劣りやすい女性冒険者は軽視されがちになる。

 そのため、こういった他PTと行動する際の代表者として、エリスは自分の代わりにラシェイなど他の冒険者をたて、余計な干渉を避ける。それでも、エリスは冒険者の中でもとび抜けて優れた容姿をしているため、いらぬちょっかいが多く入る。

 ようやく覚悟を決め、ラシェイは扉を開き会議室の中へと入る。

 会議室の中は広々とした部屋に、大きなテーブルが一つと、それを囲うように椅子が並べられ、部屋にはそれ以外に調度品などは置かれていない、少しさみしいものだった。室内にはすでにいくつかのPTの代表と思われる冒険者がおり、無駄に睨みを利かせ威圧するように各々席についていた。冒険者は力が地位に直結しやすいため、他PTと行動する軍団レギオンなどでは、自身の立場をよりよくするため力を誇示するように、このように威嚇する者が多い。

 会議室の室内は戦場とは違う、嫌な緊張に包まれていた。

(この緊張感。無駄に疲れるんだよな……)

 無駄と思える静かな威勢の張り合いに、辟易しながら他の冒険者と目を合わせないようにしながら、会議室の奥へと歩いていき、適当な席に腰を掛けた。

 極力目立たないように部屋に入ったつもりだったが、目を引く容姿のエリスは何もしていないにもかかわらず注目を集めてしまう。そんな、注目の的となったエリスは、周りの視線をどこ吹く風のごとく無視し、ラシェイが座った席のすぐ後ろに控えるように姿勢を正して立つ。

 相変わらず、物怖じしないエリスの態度に、改めて感心する。

(さて、何が出るのやら)

 確認こそしないが、肌に感じる多くの視線から、これから起こるであろうこと想像しながら、頭の片隅で対策を考え始める。

「よぉう。嬢ちゃん、あんたも軍団レギオンに参加するのか?」

 ラシェイがどうしようかどう対処していこうかと考えていた矢先に、一人の男性冒険者が席を立ち、こちらへとやってくると、エリスを嘗め回すようにして尋ねてきた。

 尋ねられたエリスは、一度声をかけてきた冒険者へ視線を向けるが、いつもと同じようにすぐに視線を外し、無視を決め込む。

 エリスのいつもの対応に、何かあった時に備えラシェイは体と椅子を少しずらし、即座に行動できるように備えておく。

「無視はないんじゃないか? これから一緒に仕事する仲間なんだしさ」

 無視を決め込むエリスに冒険者は食い下がるように、ラシェイの隣の席に腰を掛け、続ける。それでもエリスは無視を続ける。

『おい!』

 無視を続けるエリスに痺れを切らしたのか、冒険者は声を荒げ、怒声を浴びせ睨みつける。それでもエリスは無視を続け、しばらくすると睨みつけていた冒険者は舌打ちと共に、テーブルを強く叩き付け、その場から去っていった。

(今回の奴はおとなしかったな)

 去っていく冒険者を視界の端で追いながら、ラシェイはそっと胸を撫で下ろす。

「お前さ。もうちょっと穏便な躱し方できないのか?」

 去っていった冒険者を見送ると、ラシェイは小さな声で悪態をついた。

「何もしないで去って行ってくれるのだから、大分穏便だと思うが」

 エリスは静かに答える。

「お前、それで前乱闘になっちゃじゃねえか」

「あれは相手に問題があった」

「それで巻き込まれるもののことも考えてくれ……」

「これも仕事だと思って諦めてくれ」

 容赦なく切り捨てるとそれ以上話すことはないとばかりに、エリスは口を閉じ、目を瞑った。

それで、ラシェイは仕方なく追及を諦めた。

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