軍団Ⅲ
「あなたたちの
奇抜な格好をした女性は、フィオンたちを真っ直ぐに見つめたまま、そう告げた。
明らかに一般的とはかけ離れた格好に、余りかかわらない方が良いのではないかという考えが、フィオンの頭をかすめる。
同じように考えたのか、エリスはすぐさま奇抜な格好の女性から視線を外し、あらぬ方向へ視線を向けた。そんなエリスの態度を見かねてか、ラシェイが一度ため息をしてから口を開いた。
「君は、どちらさん?」
ラシェイに問い返されたことに、気分を良くしたのか女性は小さく笑みを浮かべる。そして、よくぞ聞いてくれましたとばかりに自己紹介を始めた。
「私はマリア=エレナ・フロリーディア。赤の魔術の会の紅蓮魔術師よ」
そして、軽くポーズを決めるかのように、手にしていた杖を軽く振り回すと、弧を描く杖の頭が空を裂くと同時に、尾を引くようにどこからともなく炎が舞いあがり、通に炎の線を引いて、消えた。
「どう? 興味を持った」
マリア=エレナと名乗った女性が、自らを紅蓮術師と告げると同時に、微かに辺りがざわめき、多くの視線が彼女に向けられた。
周りの異常とも取れる反応にラシェイは苦笑いを浮かべ、エリスは小さくため息を付いた。
魔術師――魔術、魔法を操るもの。その存在はとても貴重で、数が少なく、ことさまざまな仕事で特異な環境や状況に置かれることの多い冒険者にとっては、のどから手が出るほどのスキルの持ち主だった。
それだけに周りの反応は当然の反応と言えるものだった。
過度な注目によって、無下には出来ないと判断してか、エリスは再びマリア=エレナに視線を向け、口を開いた。
「なんで私たちのPTなんだ? 魔術師ならほしがるPTは多いだろうに?」
「理由は二つある」
エリスの質問にマリア=エレナは、格好を付けるように指を二つ立てて答える。
「一つはPT内に女性がいること。私も女性だからね。同性がいてくれる方が安心できるし、ありがたい」
立てた指の片方を倒しながら答える。
「もう一つは、弱いPTには興味はない。この中であなたたちが一番強いPTだと思ったから」
マリア=エレナは自分を注目する者達を睨み返すようにしながら答えた。
「なぜ私たちのPTが強いと判断した?」
何か気に障ったのか、エリスは少し声に怒気を孕ませて、マリア=エレナに鋭い視線を向ける。
「『
エリスの鋭い視線をどこ吹く風のごとく受け流し、マリア=エレナは答える。
『
フィオンがエリスやラシェイの方へ視線を向けると、彼女たちが腰に下げている剣から、本来空気の様に無色透明で視認できないマナが剣にかけられた魔法と干渉して赤色の靄のようになって、漏れ出ていた。それは紛れもなく二人の武器が魔化された武器である証拠だ。
魔化とは魔法によって武器や防具のなどの性能を強化さえることだ。それだけに魔化された武器、防具は扱いやすく、切れ味や打撃力が強化され、耐久性能などが向上している。
魔化された武器はその性能と希少さゆえに高価で、それだけに魔化された武器を持つことは冒険者の力を示すうえでのステータスとなっている。
ざっとギルド会館のホールを見回してみても目に見える武器や防具のほとんどは、魔化された武器特有のマナの不自然な揺らぎは見ることができなかった。
「どう?」
マリア=エレナは自身に満ちた表情で、エリスに答えを促す。エリスはマリア=エレナを見返したまま、考え込むように間を取り、口を閉ざした。
普通に考えるなら魔法という貴重なスキルを持つ魔術師が、自らPTに入りたいと申し込んできたのなら断ることなんてしないだろう。それも、実際に『魔法感覚(センス・マジック)』を用いて魔化された武器を見抜いて見せたのだから、魔術師を語った偽物ということもないだろう。
エリスはしばらく考え込んだ後、深くため息を付いた。
「わかった。君を歓迎しよう」
エリスが答えを返すと、マリア=エレナはゴツンと杖の底で地面を叩き「交渉成立」と周りに宣言するように口にした。
マリア=エレナの宣言を聞いた、野次馬の様に集まってきていた冒険者たちは、悔しさと諦めなど様々な表情を隠すことなく浮かべ、いくつかの舌打ちと共に離れていった。
散り散りに離れていく冒険者の姿を見届けると、マリア=エレナは小さくため息を付いた。
「悪いね。迷惑かけて、改めて自己紹介。私はマリア=エレナ・フロリーディア。マリアで良いよ。名前長いから」
マリアはそう言って、握手を求めるように手を差し出してきた。
「エリスだ。目立つことはしたくなかったんだがな」
エリスは握手を返すことなく、少し睨むようにして自己紹介を返す。それを受け、マリアは少し困ったような表情を浮かべる。
エリスが自己紹介を終えると、ラシェイがマリアの手を取り自己紹介を始める。
「俺はラシェイ。お隣さんはあれだが、綺麗な女性とお近づきになれるなら。俺は歓迎するぜ」
笑顔を浮かべ握手をするラシェイに、マリアは手を大きく振り、振り払うようにして「悪いけど私。男には興味ないの」と答える。
「それで、あなたは?」
エリス、ラシェイと自己紹介を終えると、マリアはフィオンの方へ向き、握手を求めるように手を差し出し尋ねた。
フィオンはマリアの顔と差し出した手を見比べ、少し迷ってから握手を返した。
「俺はフィオン。新米だけど、よろしくお願いします」
「私も冒険者としては新米だから、お互い頑張ろうね。新米魔術師さん」
マリアはフィオンの手を握り返し、何か含みのある笑みを浮かべて返事を返してきた。
マリアが何気なく返した言葉に、フィオンは引っ掛かりを覚えた。『新米魔術師』。そのことあの意味を問い返そうとフィオンは口を開く。
「あの、俺は――」
『お知らせします。間もなく
ホールの奥に備え付けられた壇上の受けから、メガホンを手にしたギルド職員が大きな声で告げていた。
「時間だ。行くよ、ラシェイ」
知らせを聞くと、エリスはゆっくりと立ち上がった。
「やっぱり、俺もいかなきゃダメか?」
ラシェイは少し嫌そうな表情を浮かべながらエリスの言葉に返事を返した。
「頼む」
「わかったよ」
ラシェイは最終的に小さくため息をして、答えた。
「お前たちは、後で伝えることがある可能性あるため、残っていてくれ」
ラシェイの了承を得ると、エリスはフィオンとマリアにそう言い残し、踵を返しホールの奥、第二会議へとラシェイを連れて歩いて行った。
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