軍団Ⅱ

「それにしても、普段より完全装備の人が多いですよね。何かあるんですか?」

 改めてギルド会館のホールの中を見渡す。ギルド会館は普段から冒険者の交流の場として使われたりするので、一定数の冒険者はいるが、完全装備の冒険者は仕事に出る前くらいで、普段のギルド会館ではめったに目にすることはなかった。

「お前、今までの話ちゃんと聞いてたのかよ」

 フィオンの質問に対して、ラシェイが呆れたように答えた。

「えっと、冒険者の遠征軍の話ですか? 今すぐ出るんですか?」

 フィオンはラシェイの方を見返して尋ねる。ラシェイの姿は、薄手の洋服に腰に腰のベルトに数本のダガーと、二本のシミターを刺しているだけで、鎧などは一切身に着けていない。完全装備とは程遠いいでたちだった。

 隣のエリスの姿を見てみても、黒地の神官服に不釣り合いなロングソードを二本帯刀している程度で、完全装備ではない。

「そんなすぐ出られるわけないだろ。ここで完全装備の奴らは、どこかのPTに拾ってもらいたいと思って、アピールしにやってきてるんだよ」

「なる、ほど」

 ラシェイの答えで、ようやく普段とは違うギルド会館の空気の訳に納得がいった。

 冒険者のほとんどが少人数のPTを組むが、常に一つのPTに留まっているわけではない。怪我や死亡による人員の離脱でPTが成り立たなくなったり、PTメンバーとのいざこざや、実力や志の違いから自らPTを離脱し、より高い、自分に合ったPTを探すものも多くいる。

 そういった別のPTを求める者たちが、別のPTに入るのは難しい。多くのPTは必要な人員を確保していることが多く、力のあるPTなどは特に人員不足とは遠くなる。

 しかし、こういった冒険者による規模の多い集団――軍団レギオンなどを組む場合、力のないPTが、それに参加するために追加の人員や、複数のPTを合併させて補強して参加したり、力のPTももしもの為に追加の人員の補充を行うことが多いため、このように新しいPTや、力のあるPTに入りたい者たちなどが集まり、売り込んでくるようになるのだ。

 そして、そうなった場合、自らの強さ、ステータスを示す一番の基準がどれだけ良質な装備持つかとなる。それは、実力と実績を持つ冒険者はそれだけ今までの稼ぎが多くなるため、より質の良い装備をそろえられるようになるからだ。

 そのため、自身を売り込んでくる者は、必然的に完全装備となる。

 そういったことを示すかのように、一部の冒険者たちは自らの装備を見せびらかし、別の冒険者はそういった人たちを品定めする。中には、広々とした場所で自らの武器を引き抜き、振り回し技を披露する者さえいた。そんな今のギルド会館には、普段感じることのないピリピリとした空気に包まれていた。

「俺たちのPTも人、増やすんですか?」

 多くの冒険者が自らの存在をアピールする姿を見ながら、何となくフィオンが尋ねた。

「人は増やさないよ」

 フィオンの質問に、先ほどまで座っていたベンチに座りなおしていたエリスが答える。

「え、でも」

 エリスの返答にフィオンは驚く。

 通常冒険者のPTは4~5人程度が適正だと言われる。主とする仕事などによって人数は多少変化するが、それでも3人PTは少なく、危険だと言われる。こと軍団(レギオン)などを組む時は、指揮系統の関係からある程度人数の多いPTでの参加が望まれる。

 軍団参加のPTにしては人数が少なく、通常PTの適正人数にも満たないことに驚いてしまった。

「他にPTの人がいるんですか?」

 先日のオーガ討伐の際は2人だけだったが、それは何らかの理由でその場にいなかっただけで、フィオンの知らないPTメンバーが丘にいるのではと思い、フィオンは尋ねた。

「私のPTは、私とラシェイと君だけだよ」

 少し呆れたようにエリスが答える。

「まぁ、あれだ。エリスは人付き合いが苦手なんだ。だからめったにメンバーを増やしたりはしない。そんなところだ」

 エリスの足りない言葉を補うように、ラシェイがそう続けて答えた。それに対し、エリスは余計な事とばかりに鋭い視線を向け、ラシェイはそれを、苦笑いを浮かべながら流した。


「ねえ。あなたたち」


 ちょうどそんなやり取りをしているときだった。フィオンたちに向けてよく通る声で、声をかけられた。

 フィオンたちが声のした方へと視線を向けると、そこには奇抜な格好をした女性が一人立っていた。

 女性は深い紫色をしたローブに、同色の大きなとんがり帽子を被り、手にはクォーター・スタッフを携えていた。

「あなたたちのPTに私を加えてみない? 軍団。なんかするのでしょ」

 奇抜な格好をした女性は、フィオンたちを真っ直ぐ見つめたまま、そう問いかけてきた。

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