新米冒険者フィオンⅥ

『お前は、戦士として大成はできない』


 それは昔、フィオンが育ての親に言われた言葉だった。

 フィオンの育ての親は、人里から遠く離れた森の中に住む、年老いた魔法使いだった。

 生みの親については知らない。フィオンが物心ついたころには、すでに魔法使いのもとで生活していた。フィオンという名も、その魔法使いに付けてもらった名だ。

 後に聞いた話では、フィオンは生まれてすぐに奴隷として売りに出され、売られていたフィオンを育ての親の魔法使いが買い取ったらしい。

 育ての親である魔法使いは、無愛想で口数の少ない人物だったか、フィオンはとてもよくしてもらったと思っている。

 雨風が凌げ、冬でも凍えることのない寝床。飢えることがない程度の食事。人が生きるには不自由なく過ごせる環境を与えてくれた。

 普段はまともな会話を交わすことはなかったが、夜フィオンが寝付けない時には、時折子守唄代わりに古い物語を聞かせてくれた。

 少しかすれたような低い声と、染みついた紫煙の臭いが少しだけ不愉快ではあったが、とても安心させられた。

 魔法使いによって聞かされた物語のほとんどが、国や世界を救った英雄の物語だった。

 蝋燭の光だけが照らす薄暗い寝室。少し聞き取エリスらい老人の声。小さく響く、頁をめくる小さな音。それらが物語を彩り、老人の口とパイプから流れ出す煙が、魔法によってその場面に輪郭を持たせ形作る。

 圧倒的な力を見せつける竜に挑む英雄。暗闇に閉ざされた世界に一条の光を落す勇者。

 どれもこれも、フィオンが夢中になるには十分な話だった。

 幼いながらに憧れ、そのころから森で拾った木の枝なんかを剣に見立て、素振りなんかをして過ごすようになった。

 そんなある日、育ての親である魔法使いに言われた言葉だった。


『お前は、戦士として大成はできない』


 その頃のフィオンにとって、育ての親である魔法使いの言葉は世界のすべてだった。


『お前には素質がない。どんなに努力しようと、決して優れた戦士に離れないだろう』


 どこか冷たく言い放たれた言葉が、言いようのないほど辛いものだった。

 その頃を境にフィオンは一度、剣を持つことをあきらめた。

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