第13話 シャナの挑戦…?
黒騎士城滞在十日目、シャナたちは団員たちの家族とともにいた。
訓練場も見渡せる城の庭に敷物を広げ、先日出会ったハロルドの妻、リディアをはじめとした隊長たちの奥方たちに囲まれているのである。
そもそもの発端は、シャナたちに菓子を差し入れてくれたリディアである。彼女と遭遇した他の女性陣が話しているところへ、さらに菓子の匂いにつられたシャナが遭遇したことで、女性陣の興味がシャナに集中したのである。
そして、いつものようにおやつの時間にある、シャナのための小さなお茶会に客人が増えた結果であった。
現在はシャナたちの他に、休憩していたグリードやアシルたちも合流していた。
「……だ~、また駄目だっ!」
「下手くそ」
「ド下手」
そんな中、大きさの違う三つの石盤を持ち出したのはアシルだった。
薄いその石盤は円形で、それぞれ表面には違う種類の魔方陣が描かれている。
「成功したらどうなんの? 何を封印すんの?」
「一つの石になるんだよ。さすがに井戸の魔方陣そのまま使えないからね。封印じゃなくて単に正確に三つが重なったらくっつくようにしてあるんだ」
興味深そうにアシルの手元を覗いていたジークが口を開くと、女性たちと談笑していたカテルが近づいて来て教えてくれる。
「井戸の封印は難易度が高いから、それもある程度高く設定してあるんだよ。おかげで、五人しか成功してないね」
「ふ~ん……。おもしろそうだけどおれには無理だな」
「一回、成功するとこ見てみるか? アシル、それ貸してみろ」
苦手な魔法実技にジークが顔をしかめると、カテルと同じ魔術師の一人が笑った。
そして、その石盤をアシルから渡されると、地面に置いた。
「やっぱり、触らずに魔力を込めるのもむずかしいんですか?」
「俺は、それは案外なんとかなったぞ。その後が上手くいかないんだよな~」
サイラスの疑問にアシルが溜め息をついている。
「要はイメージだな。魔力の方向性をちゃんと考えられれば、それは何とかなる。問題はそのあと、この三つを正確に重ねられるか、だ」
魔術師――ラルフは言いながら、視線は石盤に固定していた。
その数拍後、アシルの時と同じようにその石盤が魔方陣を発光させながら浮き上がる。
「一番下の大きいのは土台、みたいなもんだ。真ん中の小さいのは土台を固定――ていうより、強化か? 最後の中くらいのが、この場合は石盤を一つにする魔方陣。三つ合わさると完全な形の魔方陣になる。一見、簡単そうに見えるが、元々が一つでも一度分けられるとくっつけるのが難しい。おまけにくっつけるための魔力は元々の魔方陣を起動させる魔力と、その倍以上の魔力が必要になる。魔力のコントロールが甘い奴には相当難易度が高いな」
ラルフの言葉に、アシルが罰が悪そうに顔をしかめている。
「見てろ」
最後にそう言って口を閉じたラルフに、全員の視線が石盤に向いた。
一つの石盤が空中で停止する。その上に一番小さな石盤がくるくると回りながら下りていく。その石盤は左右に調整するかのようにくるくると動いてある場所で停止すると、そのまま下の石盤に着地した。
そして、最後の石盤が同じように位置を確認して停止すると、それは少し離れて浮いたまま固定されたように動かなくなった。
しかし、描かれていた魔方陣が明滅している。それはやがて、再び落ち着きを取り戻し――同時に、吸い込まれたように下の石盤にぶつかった。
「うわっ……お?」
「くっついた」
「……なんでおんなじ大きさになんだ?」
最終的に円筒形になったそれに、ジークが首を傾げている。
「だから、もとは同じものなんだって! ――くっそ~、もう一回だ! 先輩、これバラして!」
「お前な……」
アシルが、頭をがしがしとかいたあとで、ラルフに石盤を渡す。ラルフは呆れながらもそれを三つの石盤へと戻した。
そして、アシルが再びその石盤に集中し始める。しかし、今回も三つ目の石盤がくっつくことなく、それによって一つ目と二つ目の石盤も離れて地面に落ちた。
「お前ほんとに下手だな」
「アシルは雑念が多すぎるんだよ」
「……」
「――アシアシ、へたっぴー! シャナがやったげりゅー!」
「――は?」
頭を抱えるアシルにラルフたちが呆れていると、突如アシルの横でシャナが叫んだ。
シャナは先程まで独占するようにいくつかの菓子を抱えて、頬張りながらアシルたちのやりとりを見つめていたはずである。
「無理に決まってるだろ!」
「むりじゃにゃいもん!」
「無理!」
「れきるもん!」
「まぁまぁ、アシル。一回渡してみ?」
「面白そうだね」
シャナと言い争っているアシルを止めたのはラルフとカテルだった。そしてラルフが石盤をシャナに渡すと、シャナはそれを一つずつ地面に並べた。中央に土台となる石盤を置き、左右に残りの二つを置くと、シャナは満足そうに笑った。
そして、シャナは唸り始める。
「むむぅ~~」
「魔力の放出はできるんだ」
「駄々漏れだが」
その場の全員が、面白そうに、心配そうに、困ったように、シャナと石盤を見つめている。
どれくらいたったのか、シャナが目をつむって、唸っていると、やがて、石盤が発光し始める。
「うそだろ!?」
アシルも皆も、驚いたようにその光景を見つめている。
しかし、そんなアシルたちの気持ちに構わず、石盤の一つが浮き上がった。
「マジか。……ん?」
浮き上がった小さい石盤を見つめていた面々は、少しして首を傾げた。
その石盤は浮き上がったと同時に、地面に落ちかけて、また持ち直す。そして、ふらふらと不安定なまま隣の石盤に向かっていく。
そこで、一番注意深く見ていたラルフとカテルは、その石盤の周りに小さな影があるにの気付いた。
そして、その影は徐々に濃くなっていく。それはやがて、誰の目にも明らかになる。
「え」
「なにあれ」
「……本当に面白いな」
「興味深いね」
新たな驚きに包まれる中、シャナだけは相変わらず唸っている。
「むぅ~」
そして、一つ目の石盤が中央の石盤に到着する。
――どこからともなく現れた、
羽が生えた者、丸い体型の者、他にも、石盤を運ぶのを手伝う者たちを見守るかのように、周囲には妖精たちの姿がある。
やがて、無事に石盤が固定されると、別の妖精たちがもう一つの石盤を持ち上げた。
「シャナの魔力を使ってるのか?」
「姿が見えるのも、シャナの魔力のせいだね」
普段は意図して姿を隠している妖精たちは、今はくっきりと姿形が見えるようになっている。
彼らはシャナと同じように、石盤に夢中で、見られていることにも気づいていない。
彼らは、シャナの魔力を自身の力に変えて、石盤を運び、魔方陣を固定させているようだった。
そして、最後の作業が終わるとはらはらしたように石盤を見つめている。
「あ、くっついた」
「成功、したの?」
「~~、? ――れきたったっ!」
「――はぁ!?」
ジークとサイラスの言葉に、目を開けたシャナが叫んだと同時に、妖精たちの姿はかき消える。
そこに残ったのは、一つになった石盤だけ。
満面の笑みを浮かべて喜ぶシャナに、声を上げたのはそれまで黙っていたアシルだった。
「反則! 今のはどうみたって反則っ! シャナ、お前の反則負けだっ!」
「負けってなんだ、負けって。だが、勝ち負けで言うなら、シャナの勝ちだな」
「えへへー、シャナすごいー?」
「ああ、すごいすごい。立派な妖精使いだな、シャナ」
「あそこまで願いを聞いてくれることなんて、滅多にないんだけどねぇ」
「ちょっと! ずるくない、今の!? ていうか、シャナに甘すぎでしょ!」
アシルの言葉も気にせず、照れたように首を傾けたシャナを、ラルフやカテルがとりあえずといったように褒めた。
そして、その場にはアシルの無情な叫びが残るのだった。
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