第19話◆幼なじみと卒業アルバムの暗号
年末の校舎の大掃除、僕とミウは図書館の奥で付箋のはられた卒業アルバムを見つけた。
その一冊だけに、付箋がはられていたため、僕とミウは何となく不思議に思い、付箋がはられたページをめくってみたところ、ミウが声を上げた。
「これ、お父さんだよ!」
見開きのページいっぱいに、生徒の顔写真が載っているところに、ミウが指で指し示す。そこには「深波カイドウ」と、鼻立ちの整った精悍だが少年の面影を残す男子生徒が写っていた。どことなくミウを男にしたような美少年で、ミウが遺伝的に造型が整っていることを証明しているように見える。
指差したミウが、怪訝そうに眉を上げた。
「でも、どうして名前のところに丸印が……」
深波の前に、黒いボールペンで丸が描かれている。隣の生徒にはなく、意図的に書き記されたことが推測できた。
「なにかの標的にでもされたのかな」
僕がジョーダンをいうと
「標的? 誰の? ストーカー? やだやだこわい。脅かさないでよぅ」
ミウは両手で自分の体を抱きしめ、恐怖に震えるように小刻みに飛び跳ねた。
「でも丸で囲ったということは、何か意味があるんじゃないかな?」
卒業アルバムをミウから受け取って見ると、ミウの父親以外にも、印が付いている生徒がいた。
浅瀬 タケオ
伊藤 ショウマ
石井 リュウ
千葉 コウヘイ
野田 トモカズ
深波 カイドウ
「なんでこの6人だけ、名前の前に丸印が書かれてるんだろうね?」
ミウが小さく呟いた。
大掃除は済み、誰もいなくなった図書館の真ん中の長テーブルに、僕とミウはアルバムを挟みこむようにして座った。
「もしかして、このクラスの女子の誰かが、この6人のうち誰かが好きでうっかり印つけちゃったとか? で、その人を特定されないように、適当な他の5人の名前に印をつけたとか――油性みたいだし」
頬杖をつきながら、ミウはそう言って丸印を指でこすってみた。
「お父さんに聞いてみたら? クラスの女子から告白されたりしなかったか。それか27人の恋愛模様を図解してもらうか」
ミウは僕の提案を納得いかなそうに口をとがらせて聞き、卒業アルバムをペラペラと目繰り返した。
「いきなりお父さんに聞くのは負けた感じするけどね……、あれ?」
ミウは、ページをめくる手を止めた。
「1ページ目、何か書いてあるよ」
卒業アルバムを僕の方に向けて、ページの端を差した。
(1)千葉はL 野田はP
(2)功労者石井を順列の頭に
「同じボールペンで書かれたみたい?」
ミウは、目を細めてその文字を覗きこんだ。
「印がついていた二人のことを指してるなら、おそらくは暗号を解く鍵っぽいね。千葉さんをLにして、野田さんをPにするということは単純にクラスメイトをアルファベットに紐づけるのかも」
○浅瀬 A
○伊藤 B
○石井 C
勝木 D
川谷内 E
木原 F
宮藤 G
桑原 H
小林 I
佐々木 J
高橋 K
○千葉 L
東度 M
中川 N
長野 O
○野田 P
浜 Q
萩原 R
藤井 S
松井 T
○深波 U
谷地 V
山下 W
湯川 X
吉見 Y
依田 Z
和田 ?
「○がついている人のアルファベットを抜き出すとA・B・C・L・P・U。石井さんが功労者だから、石井さんをAに変更する、のでいいのかな?」
ノートに書き写しながら、ミウが首を傾げた。
石井をAに変えるとABALPUだが……、
「わざわざ1と2に暗号を区切ってるのと、2行目に順列って記載があるから、1と2で示しているものは違う気がする。つまり(1)は、アルファベットへの置き換え、(2)は置き換えたアルファベットの並び順を示しているんだと思う」
「だとすると、石井さんのCが最初の英単語を探せばいいわけね?」
僕はうなずいた。
「じゃあ、英字辞典持ってくるよ」
意気揚々と図書室の奥に消えていくミウを見送りながら、僕は回りくどい方法をとらずに済むのではないかと、卒業アルバムを見直し始めた。
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