壱)依頼

 まったく、どうしてオレの受ける試験はこうも難しい物なんだろう?

 首都圏から遠く離れた所。田舎までは行かないが……とにかく、オレは街の警察署で与えられた試験を見て唸っていた。

 スパイナル・コード国際警察機関――通称S.C.

 政府が秩序を作るのならS.C.は、平和、正義の名のもとにそれを侵すものを排除するために設立した機関だと学校で聞いた。

 S.C.に就職するには、山ほどある試験をクリアしなければならないのは知っているけど。

 でも、その試験。なぜか、オレに対して非常に無理難題を言ってくるの。

 最初は、正体不明のモンスター六八匹を二日で倒せ。前回は、ラボラトリー生化学研究施設から逃げ出した単細胞兵器の駆除、一歩間違えれば死んじゃうかもしれなかった。計十回の内二つ終わらせただけなのに……これから先が思いやられるよ。

 試験はペーパーテスト一〇枚受けて、九八〇点以上とらなければならない難関な物で、国学、地学、数学、生物化学、物理学、哲学、モンスター学、常識A、常識B、常識Cがある。

 次にそれに合格した者は、オレが受けている実技に移るわけだが……。

「もう、一体何なのサ!」

 ガン! ガン! ガン!

 吹き出しそうな怒りを思わす壁にぶつけてしまった。ってもう吹き出しちゃった。

 ゥ……。

 しまった。場所をわきまえるべきだった。

 この街に警察署は一つしかない。善良な一般市民はみんな、白塗りで清潔感漂うここに悩み相談に来るのであろう。

 今もそう。

 待合室の片隅で、壁に向かって蹴りをくらわすオレを見て、チクチクする視線を投げかけてくる。

 フ、フン。かってに思っていればいいのよ。どうせこの街とも試験が終わればおさらばだしね。

 試験! そうだったよ。こんな試験受けてらんないけど、受けないといけないし。


 試験内容

 上記の者アデュ・カーレンは、試験実施期間、三日以内に街の人々、その他大勢に反旗を翻す。赤いスネイキィ蛇人族を処刑すること。

 ちなみに賞金が賭けられているので、速めに倒さないと他の者に先越されて、不合格になるので注意せよ。

 完了した場合、最寄の署まで申し出ること。証拠を忘れずに持参すべし。

 詳細など、何処にいるかは自分で調べるよう。

健闘を祈る。プリテーな担任より。


 アホ担め。

 蛇人族とは、人の上半身とヘビの下半身を持つ生物で、実際に見たことがあるわけではない。辞典なんかには緑がかった皮膚で、人里から離れた所に生息する。知能はそこそこ、語尻に特有の単語をつけるが、一切は不明。人権にかかわることなので研究されていないらしい。

 どうしてかな? 

 友達の見て周ったけど。物探しや、戦うにしてもベテラン警察の人たちと組んでだってゆーんだもん。

 不公平過ぎる!! と怒っても仕方ないのだ。

 実行あるのみ。

 つーことで、オレは情報収拾をするために警察署から出ることにした。無論、受付の先輩婦警ども……さんにも聞いて見たが、収穫はなかった。


 初秋。街にはおいしそうな香りが沸き立っている。

 吹き出してしまいそうな唾液を喉に通しながら人込みを掻き分けた。

 それほど大きくない街と行っても、午後になれば大通りに意味もなく人が集まってくる。

 にぎやかと言えば聞こえは言いが、耳もとで騒がれるとうっとうしい。

 オレは十六歳になっていながら、なぜか身長が低い。男なのに。

 どのくらい低いかと言うと、一四歳の女の子程度だ。

 だ・か・ら。

 人込みは物凄く苦手。おまけに……。

「ね、ね、ね。君どこ行くの?」

「よかったら、一緒に行かない?」

 変なてこなナンパ男まで寄ってくる始末だ。

 自分の容姿にも問題ありなのか? 自分ではそうは思っていないし、思いもしないことなのだが、家族、友人、見知らぬ人までオレのことを女性……女の子と言ってくる。

 人の感性だから、怒る必要もないけどハッキリ言って、意味がわかんない。

 確かに、焦げ茶色の髪もちょっぴり眼にかかっていて長いし、肌も色白だ。

 瞳もどちらかと言ったら、パッチリしているのかもしれない。それはまあ、空を切り取ったような綺麗な瞳と誉められるからいいけど。

 まあ、童顔だと言われることもある。

 おまけに身長も低い……うーむ、人の視線の恐ろしさが窺えてしまうよ。

「ムシするなよぉ」

「するなよぉ」

 バカ面を表に出して、楽しいの?

 自分よりも年上だろう。

 男二人を見上げながら、そう思うより他なかった。

 頭三つある。見上げるだけで、首が痛くなってくる。むやみにデカイって不便だよね。

「連れの人とかいないわけ?」

 この男、まだオレを女の子と思うか。人がせっかく顔を見せてやってんのに、いいかげん気づいてもいい頃だと思うんだけど……?

「いないんなら俺達が連れになってやるよ」

「名前、なんてーの」

「……しつこいよ、あなたたち。いいかげん気づいたら? 自分たちのナンパしてるのが女性じゃなくって男性だって」

 本当に歩きながら耳元で話し続けて来るのに迷惑して、言葉を出してやった。

 それでも、わかってくれるわけない。

 今、思い出したが、声も女のような澄んだ声だった……。

 声変わりしなかったのだ。

「またまた」

「ジョーダンばっか、ってあり」

 男の一人が昼間だと言うのにオレの胸に触って来た。

「もみたかったらもんでもいいよ……ないけどね」

「なんだそりゃー!! ホントにあるもんねーよ!」

 当たり前だってば。

 一人が驚いて飛び退くと、もう一人も一緒になって後ろに下がった。

 ガスッと人の波に当たる。

 ぶつかった人たちは怒りもせず、なにか面白い余興かなんかと勘違いして、周りに輪をかいて群がって来た。

「てめぇ、ふざけんじゃねーよ」

 ふざけてないって、なんにも……。

「お前、じゃなんでそんな服、着てんだよ」

 何を言っている? オレの服にケチつけようってのか……?

「お前、普通じゃないだろ。変だろ。変態だろ!」

「礼儀知らずな奴だね。オレの着ている服のどこが変だと言う」

 ただの赤い長袖の服と、黒に近い藍色のスカートでないか。それにアクセサリーで胸元に大きめの白いリボン。

 どこをどうしたら変といえるのか。これがオレの一般服だよ。

 確かに、他の人は着ていないけど……。オレから見るとどうして着ないのか? 疑問しちゃう。

「てめえ、オカマだな!」

「カマカマ!」

「カマじゃないってば」

 いちいちしつこいなあ。オレの武器があったら即、斬り落としているのになあ。

 ザンネン!

 人込みの中で愛用の武器を持って歩いたら、それだけで横歩いている人斬っちゃうよ。

 まあ、いっか。丁度人も集まってくれてることだし。

 オレはここでスネイキィ蛇人族のことを聞くことにした。

「ちょっと尋ねたいんだけど、誰か蛇人族のこと知っている人がいたら、教えてほしいの」

 ……

 一向に名乗り出る気配がない。むしろ、去って行く。

 もしかしてこの展開、誰もいなくなった時に話しかけてくるのでは……。

 ちょっと期待しながら、しばし待つ……。

 待つ。

 待つ。

 待つ。

 ……末!

 誰も来ないよ。たった一人その場につっ立っているオレ以外は、人はみーんな歩き続ける。

 情けなどない。勝手にやってろとでも言っているようだ。

 もしかしたら言っているのかもしれない。人って言う生物は、心理的にめんどーなことには首をつっこみたいって思わないもん。

 仕方がなく、オレは歩き出した。立ってるだけじゃ、お宝は手にはいんないし、ガンバろっと。


 それから数時間後。

 なんの収穫もないままホテルに向かった。

 ホテルは試験中に限り与えられるパス・カードを見せると無料で宿泊することが出来る。

 もちろん、S.C.が宿泊料金を払うからといって、豪勢な所に泊まるなどもってのほか、Bランクが関の山である。

「ちょっとよろしいですかな?」

 ……

 もしかして、オレを呼んだのか?

 ホテルを目の前にして正面から、誰かに語り掛けられる。

「もしもし、聞こえていますでしょうか?」

 どうやら、ホントにオレに用があるようだ。

 男性。

 鼻下に白髭を蓄え、真っ白な髪、シワの入った顔の老人である。

 紳士的な黒いスーツを着て、オレの前に立っていた。

 物腰穏やかと思う。

「オレに用なの。おじいちゃん」

「はい。少しお話をしたいと申される方がおりまして、時間があるのならご一緒願いたいのですが?」

 時間はあった。

 どーせこの後、夕食食べて、寝るだけだし……おっと武器くんの手入れもあるよ。

「いいよ。話くらいなら」

 自分で言いに来ないで人を使わせる奴の顔……。

 そして、この老人のしゃべり方丁寧語つかうなんて……なんか、面白くなりそう。

 ほとんど興味本意でオレは答えた。

「そうですか。では、あちらの喫茶店でお待ちになっています」

 ……ハア!?

 老人が指差した茶店は、ホテルの向かいの四軒横にあった。

 一般庶民の入れるような茶店ではなかった。言うなれば、貴族様ごようたしの超高級茶店であろう。雰囲気からそうだ。

 見た目の色彩。

 窓越しに見える広々とした店内には、いい色の木製のテーブルが並べられて、椅子すら、眩い光を放っている。

 細部に渡って、嫌悪感を感じない美しさがそこにあった。

 オレみたいな、S.C.……しかも、候補生が入れる所ではない。いや、入るなと高級なオーラを放っている。

 かと言って招待されたんだし、入らないわけないね。


 待っていたのは二十歳前半くらいの女性……もしかしたら、お化粧してるから二十歳に見えるのかもしれないけど。

 赤みがかった茶髪に薄い緑の瞳、白いスーツを着た、仕事してそうな感じだった。

 清楚、と言うイメージが一番に浮かんで来たが、その隙間を縫うように危険と言う文字もなぜか描かれた。

 野性の感だと思う。

 この女性は表面と違う、やり手の一面があるのかもしれない。

「どうぞ、こちらへ掛けてください」

 彼女は立ちあがり、自分の前の席にオレを促した。

 ますます、商談とか言われることが濃厚になって来たねぇ。

 ……まさか、ワイロ……なんてね。

「ありがとう。もう下がっていいわ」

「はい……」

 女性は老人を席から外し、カウンターの端の方においやった。

「始めまして、ドミニク商会、代表取締役エクセイン・パーカーです」

 ドミニク商会……。

 聞いたことがある。資本金が五六〇〇億F(一Fは日本円にして、およそ一〇三円)だと聞く。世界の中でもトップクラスである。

 噂では、そこの社員のエクセインと言う女性は才女と裏の世界じゃ有名である。これでもS.C.の候補生をやっていたりするものだから、情報がたくさん入ってくるのだ。

 ガキのくせに一五歳で名門大学をトップで卒業し、地べたを這っていたドミニク商会を立った四年弱で表、裏とも頂上近くまで登らせたと。

 運送業を表にして、裏で高利貸し、賭博、売春、殺しの請負と会社の金銭面を拡大して行くと今度は、合法的な商法で金融、ホテル、レストラン、食品、製薬と事業の幅を広めていった。

 今じゃ武器、兵器にも手を出しているとか、それに密輸入も……。

 もしかして、厄介?

「何かお飲みになりますか」

 エクセインにメニューを手渡され、とりあえず何か頼むことにしたのだが……。

 これは……。

 社会の広さを実感してしまう。

 一体何を選んでいいやら、茶店の分際で六ページもメニュー作らないでほしいよ。

「そだねぇ……。あなたのお勧めはなに?」

「お勧め……ですか?」

 よし乗って来た。なんとか恥かかなくてよさそう。

 ヨカッタ、ヨカッタ。

「……そう言えばお名前聞いていませんでしたが……」

 おおう。

 そうだった。忘れてたよ。

「アデュ・カーレンと言うんだよ」

「……アデュは、どれが好きですか?」

 ゥ!!

 やられた。まさかこうくるなんて……思ってたけど。

「ハハハ」

 とりあえず笑おう。

「ふふ、では、これをふたつお願いするわ。

 物が来るまでお話しましょうか」

「ええ、そうしましょ、そうしましょ」

 彼女……遊んでいるのか?

「昼間、大通りで赤いスネイキィ蛇人族のこと尋ねまわっていましたね。

 そのことでお話がありまして」

 ……まさかこんな所で、情報が見つかるなんて、おごりかな?

「我が社の陸運事業でこちらの方に来ることがあるのですが、その度に赤い蛇人族が襲ってきまして、食品なんですが……これ以上損害をあげるわけにはいけないと言うことで依頼して駆除してもらおうと思い――」

「それをオレに……」

「そうです。さっしがいいですね」

 にしても、なぜオレなの。

 他にもはちゃめちゃ強い賞金稼ぎや用心棒とか雇えばいいのに……。金あるんだし。

 それにしても……こんなちんけな所にまで手を伸ばしているのかドミニク商会は……。

「今、なぜ自分がと思っていますね」

 あんがい鋭いかも。つーか女は鋭いものなのって姉貴たち言ってたっけ。

 ちなみにオレの家族と言うのは、父不在、母不在、姉貴五人の六人家族だ。カンケーないけどね。

「ちゃんと腕利きの傭兵は数人雇っています……が、一向にいい返事が聞けないので、新たに私服警官の方を一人雇おうかと思っていたところにあなたが現れたの。

 顔が綺麗だし、ちょうど蛇人族を追っているって言うし」

 S.C.の人も二つのタイプに分けられる。

 一つは組織と言うチーム行動をする制服警官と一般に言われる者である。

 もう一つは、彼女が言った私服警官である。S.C.に所属していながら、制服を着ず、単独で事件を片づけ、庶民に混じって行動する敏腕警官のことを指す。

 しかし、エクセインはオレのことを候補生だと知らないのかな。

「受けて頂けますか?

 もちろん、報酬は支払いさせてもらいます」

 報酬ねぇ……。

「では、五〇〇〇Fでいかがでしょう」

 五〇〇〇ファラット……

 フフーン。いい値、吹っかけて来くる。

 五〇〇〇Fって言えば、一ヶ月なんにもしないでも暮せるちゃうよ。あ、でも遊びまくったらなくなるかな。

「いいよ。それ受けるわ」

 オレは受けることにした。試験のついでに小遣い稼ぎ、一石二鳥である。

 

 次の日、さっそくエクセインに教えられた出没地点に向け、歩き出した。

 その出没地点と言うのは、街から歩いて半日の距離にある森を突っ切る街道である。

 街につながる道は二つあった。

 モンスターのほとんどでない旧街道、山を越える物である。険しく植物さえ住めない霧地帯なのでモンスターも下山しているのだ

 そして、問題の道、山から下りて来た雑魚モンスターがわんさか出る森街道。たいていは、傭兵を雇うのだが、今回のように強暴な者が出て来ると弱小企業は手に負えなくなり、身を退いて行くのだ。

 ……今回か……今回は弱小ならずとも手を妬いているらしいけど。

 出現して、三ヶ月が立つがたち、賞金も高額に跳ね上がったのだが、誰も赤い蛇人族を捕まえることが出来ないらしい。

 旧を使えばいいんじゃない? とエクセインに聞いてみたところ、森の三倍は日数も費用もかかるとか。

「……物騒だけど、最高の小遣い日和だなぁ」

 ここちいい涼しさを持った風がそよぎ、初秋の柔らかい温かさをほぐして行く。

 背中に背負った曲刀も美しく輝いた。

 オレの武器、曲刀は他の曲刀と少しばかり違っている。

 ブーメランのような三日月の刀身に持つ所だけくり抜いた片刃の刀だ。

 名前は月夜見ってーの、よろしくね。

 もらい物だが、湾曲した刃は見た目の通り、プーメランになり、斬りやすい剣にもなる。曲がっているが身長と同じくらいの巨大な剣だ。

 その大きさから、一旦、鞘などに入れると取り出しにくく普段から抜き身のまま置いてあるの。

 これが人込みに持っていったら危ないわけ……ホントに危険ね……。

「あんたかい、エクセインに雇われた。S.C.ってのは!?」

 街道をほのぼのと歩くオレに向かってだろう。静かな空気を裂いて、荒っぽい声が響いた。

 木に寄り掛っている女がいた。カッコつけてるのかな……もしかして。

 りょくはつくろめ緑髪黒眼、褐色の肌をしている。動物の毛を剥いで腰に巻き、頭にはクジャクの羽をむしってつけたようなアクセサリーついた。

 野性、野蛮の二文字が似合いそうな風貌である。

 背中には巨大な戦斧を背負ってたり、ホントに原始人女だったりして……。

「そうだけど……もしかして、エクセインさんの雇った人なの?」

 女は何を思ったか鼻で笑い飛ばし、オレによって来るでないか!?

「いいや、その逆だ。

 あんたの敵! 赤い蛇人族にだ!!」

 言うなり地面を蹴る。戦斧を振りかぶり打ちつけて来た。

 ドガ!!

 土を抉る音を立てて、地面に深々と突き刺さった。

 埃を舞い上げ、片手で軽々と戦斧を持ち上げるとヘビのような視線で、強烈にさして来た。

 お、女じゃないよ。このパワーは!

 オレは態勢を整えられる最低の距離まで飛び下がると、月夜見のグリップを右手で掴み構えた。

「ほほー女のくせに、そんな巨大な剣を使うとはな……面白い!!」

 あなただって、巨大な戦斧使ってるじゃないか!

 オレは踏み込むと、一気に女に突撃した。

 左手を月夜見の背に添わせ押す、威力を増大させながら横に薙ぎ払った。

 刃が擦れあう音は、身の毛がよだち全身にひしめく闘気を燃やす。

 力はほとんど互角。なんか情けない……。

 先に引き下がったのはオレだった。

 剣のように振るわれる戦斧を曲芸師のような身の動きで交わし、距離をとるとすかさず攻撃に移った。

 刃を立てて、地面を斬りるける。衝撃で小さな石っころになった地面の欠片が幾つも飛んで行く。

 斧で叩き落すことなど不可能。

 実際、彼女も叩き落さなかった。

 なんと彼女は、オレと同じ要領で戦斧を地面に叩きつけ、反作用で噴出した土砂を壁にして防いだのだ。

 なかなか出来る。この人。

「ふう、なんとか防ぎきったか」

「あなたスゴイね。バカっぽくっても考えてるんだ」

「んだと!! てめえ、いい度胸してるじゃないか」

 アラ、誉めたのに怒っちゃた?

 ズゴゴゴゴ!

「ヌおおおワああああああああ!!」

 今度はなんだよう?

 横手、森の奥に山が見える側から、凄まじい音とそれに負けない大声を張り上げた何かが向かってきて来る。

 音の大きくなり具合からすると、どうやらこっちに向かってきているよーだし。

 次から次と、一体なんなのさ!

 いつの間にか女は消えていた。

「いっけない! 追っかけてアジト探ればよかったのに! ショック」

 そうこう言っている間に音は近くに迫っていた。足に地響きが伝わってくる。

 逃げている時間はある!

 しかし、そこで逃げてしまっては、音の正体が何かわからないままだ。身体がムズムズしそうな謎は、さっさと見るに限る。

 ……

 ……見えた! ちょこっと。

 木々の隙間、ほんの少しだけだがこっちに走っている人がいる。顔は……血相をかいている風にも見える。

 ガズ! バコ! バキィ!

 この音、木が盛大に倒れているのかな?

「うおおおおい! そこに誰かいたら逃げろおお! でえぇっかい岩が転がって行くからなあああ!」

 フフーン。予想通りね。

 逃げろと言われても、岩と聞いて逃げるようなら人ではない!!

 断言する。

「アラァ? ホントに大きいや」

 その大きさに目を見開いた。

 まだ遠くだろうと言うのに木の上から岩のてっぺんが見えた。空気を切り裂き……と言うか潰して、もの凄い速さで向かってくる。

 あの人……ケッコウ足、速い。

 そろそろ、来る頃だろうと思い月夜見の背に左手を添え水平に構える。

 体勢も低くして、足に力を入れ易いようにする。いつ来ても大丈夫さ。

 ん? ふと気づいたんだけど。あの人なんで岩の進行方向に走っているんだ? 横に行けばよけるなんて簡単なのに、人間の心理かな? それって……。

「おおい! 何してんだよ、逃げろっていたのが聞こえなかったのか!?」

 男だった。

 走り人はそう言いながら、オレの横を抜けて、人情の欠片も見せず、走り去ろうとした。

 にやり。

 逃がすわけないよ、もちろん。

 すれ違いざまにちょいっと足を出しただけで、ものの見事にずっこけてくれた。

「なにすんだあああ!!」

 何するもなにも、のうのうと逃げて行くのを見て、ちょっとムカっときたから転がしたに決まってるじゃない。

「金金金金金金、カネ―! カネー! カネー! かねええええええ!!」

 なんか、お金にお祈りしてるし……。

 でも、みすみす、カネ男君と心中する気はない。脅かすのか目的。

 ズガァァ!!

「来た!」

 木々を強引にぶち倒しながら、巨大な岩は盛大な音を立て、転がって来た。

 ゥ……!

 物凄く加速してるし……。

 深く考えている暇はない。勝負は一瞬にして決まった。

「きゃう!」

「かでっ!」

 ……

 ズゴゴゴゴ!

 岩は何事もなかったかのように、去って行った。

 ……

「なにする! コラァ!!」

 オレはよろめきながら立ち上がり、足に引っ付いているカネ男を思いっきり蹴り上げる。

 こともあろうにこの男。岩が目の前に来た寸前、オレの両足に抱きついて、転ばせたのだ。

 無論、二人は下敷き。

 オレは、なれてたから大丈夫だったけど……。

 若い、もしかしたら十代後半かもしれない。オレは倒れている男を仰向けにした。

 血相を掻いていた時は崩れていたが案外しっかりした顔つきだ。だが、そんな物はどうでもいい、人の耳があるところにはなにもなく、髪をわけ頭から生えて入るではないか。

 焦げ茶色の髪よりも少し薄い先の尖った耳が……。

 この男……ドックス犬人族? かな?

 ドックス犬人族とは、人と犬の特別変種だ。なぜこうなったか、誰もわからない。

 人から耳をとって、頭に犬の耳、尻にシッポをつけた者だ。見た目は人と類似しているが、幾つか犬の特性をもっているらしい。鼻がきくとか、なにかを集めるとか、仲間内の身分は絶対だとか。

 人の血を多く含んでいるのだろう。人間の臭いがする。

 特別変種はイヌに始まったわけではない蛇人族もそうだが、もっと多くの動物が人間社会に溶け込んで来ている。

 中にはあからさまになんの祖先を持っているかわかる者もいれば、この男のように人間の血を多く持ち、祖先の特性が薄くなっている者もいた。

「うう、全身いてええ!」

「当たり前だって」

 大岩に踏み潰されて平気だって人いないでしょ。

 男はオレを見るとすくっと立ち上がり、背負っていた大きめの革リュックから一枚の紙を取りだし突きつけた。

 薄い黄色のコットン紙には、書かれたばかりのようなインクの滲んだ文字がずらずら並べられている。

「てめえ、よくも足かけてくれたな。おかげでこっちは全身骨折だ」

 骨折って……立ってるじゃない。

「慰謝料、治療費、足掛け費、転ばせ費、巻き添え費、潰され費、接触料、顔見料、人情料。計一〇〇〇万F。耳揃えて払ってもらおうじゃないか。ええ?」

「は?」

 なにそれ……?

 慰謝料や治療費はまだいいとしよう。だけど、他の意味がわかんない。

 なんで足掛けに金払わないといけないのか? つーか人情料ってなに?

「は? じゃねーよ。今すぐとはいわん。分割で一日五〇〇〇F.それを十年で許してやろう」

「ち、ちょっと待って、なんでそうなるの。だいいち分割にしたら一〇〇〇万F楽々過ぎるって」

「利子みたいなもんだ。いちいち気にするな」

「気にするって……その前になんでオレがそんなの払わないといけないの?」

 男は人差し指を立て、チッチッチと振ると紙を目の前にもって来た。

 赤い汚れの所を指した。

 それは汚れではなかった。近過ぎではっきりと見えなかったが離して見ると親指だろうか押しつけたものがあった。

 え……っと、まさかね。

 オレは恐る恐る手の平を見た。

「お前は、払わなければいけないんだ。わかったか!?」

 うっ、おもいっきり右手の親指赤いよ。

「で、どうしますかい? 分割、一括」

 い、いつつけた。そして、なんでついてんの?

 ……ああ、なるほど。男がオレに抱きついて来た時にか……納得、納得。

 納得してられないってな。

「詐欺師? あなた」

 オレの言葉に男は目をつらせた。

 ……オレに負けず劣らず、綺麗な青い目。

 ム……。

「失礼なことを言うな。オレは誠実、素直、知的、三拍子揃ったビジネスマンだぞ!

 ガーン。誠実なのに名前も名乗らなかった。

 耳の穴かっぽじれ!

 歯を磨け!

 ハナほじるなあ!」

 ほじってねーって……。

「ウィルシュ・コーギー・ペンブロー様じゃあ! アハハハハ、恐れいったか!?」

「わかった。あなたウィルシュ・コーギー・ペンブローグね!」

 でも、あまり聞いたことないわね。そんな名前のイヌなんて……?

「なんのことだあ!? オレの祖先はシェットランド・シープ・ドックだぞ」

 シェットランド……?

 シェットランドって言ったら、賢くって上品なあれ?

 全然違うじゃない。とりあえず納得して、話を進めた。

「そうか……ワン太、金ポチ、ワンタンどれがいい?」

「……え、そうだな……ワン太……かな?」

 ウィルシュは悩みに悩んだ末、ワン太を選んだ。

 その隙にオレはとんずらを。

「じゃねぇ。

 またどこかであったらよろしく」

「逃げんなバカ。女と思ってなめてると請求できないぜ」

 あらぁ、やっぱりムリか。イヌ賢い!

 ウィルシュはオレの手首を掴み、強引に引き寄せた。

 身長は、相手の方が頭二つ高いか。オレの顔を覗き込み、不敵な視線を送ってくる。

 う……。ハナ息かかってるって、発情期?

「お前、かわいいから売ったら金になるかも……」

 このイヌ、頭の中、金だけなの。

「昼間っから密着してるなんてお熱いわね」

 ……

「ふぐッ!」

 オレはウィルシュの腹を蹴って突き飛ばした。

 辺り所がよっかたのか。ワン太はうめきながら後ろに倒れ、その拍子に後頭部を木に強打し、気を失ってくれた。

 耳に涼しげな音が聞こえる。川のせせらぎだ。

 ウィルシュの足を無造作に掴むと、オレはズリズリと引っ張って音のする方に歩いた。


 数一〇歩、歩いたところに川原はあった。

 川に沿って一面に敷かれた小石は陽に照らされ、温かかった。

 潤った風が涼しい。

 そのままウィルシュを引っ張って行く。

 ここまでくれば、わかるだろう。オレにも人の心はある。

 水は冷たく肌を引き締め、顔を洗いたくなる。

 流れは以外と速く、川底もオレの首くらい深い物である。

 水浴びしたら気持ちいいでしょ……。

 ウィルシュはまだ気絶したまま、チャンス!

 オレはウィルシュの両足を抱え、思いっきり投げ飛ばした。中央付近に狙い通り落ち、川の流れに身を任せ漂って行った。

 まだ気づかない。

 オレも人の子、自分に詐欺的な慰謝料ぶん取られるくらいなら、いっそ水に流す!

「酷いわね、あなた……」

 後ろから声がした。

 旅をしているから、人との出会いは多い。ふとしたきっかけで知り合うことがある。

 今日は変なのと知り合ってるし、今度はまともだといいな。

 オレは振りかえった。

「さっき『密着してる』って言った人?」

「そうさ」

 男の次は女の人か……。

 紫髪、血の色した深紅の瞳の神秘的なオーラを放っている女だった。

 耳は頭の横にちゃんとついていたが、長く尖っている。エルフかと思ったが、少し違うようにも見える。

 頭部から、馬を走らせる時に使う革製の鞭に似た物が、黒ずんで伸びていた。

 感だが、妖しい。そして変だろう。

 変は変を連れて来る。

「言っとくけど、別にホ――」

 ホモじゃないかなね。オレの声のトーンを遥かに上回る声で、女は話し掛けてきた。

「きっ、キャァァァァァァ! なにそれ、物凄くかわいいこ娘じゃない。

 よかったぁ、話しかけて。うんうん、予感してたのよね。今日、運命的な出会いがあるって!!」

 この女……なに?

 近づいて来たと思ったときには、もうオレの肩を掴んでいた。

「全て、私の思った通りだわ!

 ねねね、名前なんて言うの、お姉さんに教えてよ!」

「あ、アデュですけど」

「アデュ!! 覚えたわ。もう忘れない、離さない。私とあなたは一心同体よ!」

 今日もまた、変が変を呼んでくる。

 字足らず……涙。

 ゼッタイ、レズだ。レズに違いない!

 そして、オレのことを女の子と思っている……。

 逃げたい、逃げたい!

 オレの身体は今日、最高の嫌悪感で震えがきた。

「アデュも嬉しいのね。震えるくらい、私たちは愛し合いましょ!」

 ムカムカ、イライラ! 勘違い!

「愛し合うって言うのに名前、教えてなかったわね」

 聞きたくない!

 聞いた瞬間、世界が終わりそうで怖い!

「私の名前は、シンシア。人呼んで走る青春美少女!」

 どう見たってはたち二十歳過ぎ、少女と言えるのかしら?

 ……あっ……聞いちゃった……。

 まあいいよね、変の一人、二人……よくないかも。

 そんなことより、間違いを正さないと!

「あのさシンシア!」

「呼び捨て、いいわ。そっちの方がよけいに接近しちゃう」

「……さん……。

 オレのこと、女の子と思ってるようだけど。オレ、男ですよ。間違ってます」

「照れちゃって、もう……あらっ、変ねえ本当に胸が平地だわ」

 なぜに間違える人って胸で判断するんだ!? 女って胸だけじゃないでしょ!

 シンシアは、ペタペタっと胸に触ってきた。まだ、股を触られるよりいいけど。

 もっと雰囲気とかでわかるはずなのに、心で性別を感じればいいのよ。

 オレなんか野性の感が冴えちゃって、鋭いんだから。スパッと……。

「こ、こんなの卑怯よ。落盤だわ。生き埋めよ」

 見る見る内にシンシアの顔が曇って行く。心もだろう。

 さっきまでの勢いはどこへやら、うずくまって石を川に投げている。

 なんか、悪い気がしてくるね。

 暗すぎ……。

 まったくもう、ちょっと気合を入れてあげるか。

「シンシアさん……そんなことで――」

「そうよ、そうだったわ!」

 ガフッ!

 うかつに近づいたのが間違いだった。

 急に立ち上がるから、顎打ってしまった。もんのすっごい痛いし、舌噛んだし。

「あなた性転換すればいいのよ! 私知ってるわ、一口食べれば一瞬にして性別が変わってしまう木の実を……。しかも、嬉しいことに一度変わってしまったら、元に戻らないのよ!」

 じ、冗談!

 同情するんじゃなかった。勝手に性別変えないで!

 そんなの食べたら、ホントの女になる。間違われる以前の問題だ。

 と心の叫びが彼女に届くわけもない、当たり前だが。舌が痛くて呪いを吐くことも出来ない。

「でも、木の実のなっている所って知らないんだ……どうしよう……」

 ホッ。オレは胸をなでおろした。

 イヤ、安心している場合じゃない。とにかくここから一刻も早く逃げなくては!

 こっちはまだ試験アーンド依頼のまっ最中。アホにかまっている暇はない!

「どこだったけなぁ? 確か島だった気が……」

 今の内にコッソリ、静かに……。

 ……逃げろオ!

 オレは彼女を背に一目散に駆けて行った。


 とにかく今日中に敵のアジトは突き止めておかなくてはならない。

 変人たちのせいで、半日潰れてしまった。

 オレは二人に見つからないように木の上で、遅いの昼食をとっていた。

 昼食はエクセインさんの差し入れだ。弁当付きの依頼は昼食代がうくから好きな方。

 いつもは自分で作って持ってこなくてはならなかったが、その手数もなくなった。しかも、ちょっと豪勢ね。

 いつもはオニギリ一個にメザシだけ。今は肉あり、草あり、魚あり、う、嬉しい……。

 オレは平らげるとすぐにカバンに入れ、出発準備に取りかかった。

 と言っても、カバンと月夜見を背負うだけ。

 カバンは、必要最低限入れられくらいの物だ。小さくなく、大きくない。

 動くのに邪魔にならないように身体に固定して、月夜見の下にしてある。

 名前なんて言ったっけな? 方形のカバンの中には、お金、薬一式、そしてゴミ。ゴミとは、勘違いしちゃダメだ、弁当箱のことを言う。使い捨てなのだ。

 自慢じゃないけど、地図なんか持ったことないよ。全て、感! 当たるも八卦、当たらないのも八卦。

「さて……」

 オレは枝から飛び降り、赤いスネイキィ蛇人族に雇われた女を探しに行くことにした。

 あの女なら、アジトの場所を知っているはず。そして、ラッキーでアジトを見つけてしまったりして……!

 行くべし!!

 今は自分の感を頼りに進むしかない。

 ほとんど出没地点が限定されているこの付近がクサイ、クサイ。


「うーっ!」

 ガス!

 力いっぱい、木の幹を殴りつけた。

 あれから何時間過ぎたことか! もう太陽は傾いて空が朱色に染まっているではないか……綺麗だけど……。

 たくさんの見つからないが渦巻いて、怒りと安心が火花を散らしている。

 見つからない一つ。嬉し、変人二人の目にはまだ止まっていない。

 見つからない二つ。怒! 赤いスネイキィ蛇人族のアジト……試験、落ちちゃうよう。小遣いも当らず。

 小遣いより、依頼だ! 約束してしまった以上それは、果たさなければならない。

「あー、ちょいとちょいとおマイさん。

 旅の方さん、私と友達にならないかナ?」

 後から、声掛けられたよ。

 変わったノリの女性の声だ。

「ゴメンネ。オレ、依頼受けて、それ終わらせないといけないの」

「おやまあ、それってどんな依頼だナ。よかったら教えてくれヨウ。何か手伝えるかもしれないしナ」

 そうか……世の中には変でもいい人がいるんだよな。

 諦めないで探さなきゃね。

 ……ッ。

 現実に戻った途端、木を殴ったばち罰が当った。忘れていた痛みが伝わって来た。

「あ、あの……ね……」

「うんうん、なにカナ?」

 痛みにどもりながら、言葉を出していった。

「オレね。あ、赤いスネイキィ蛇人族って言うのを探してっているんだ。知ってたら教えてね」

「うぅぅん……」

 やっぱ、ムリだね。にしても痛いなあ。

「探し人……目の前にいるジャン」

「ハア!?」

 げ!

 オレは半信半疑振り向くとホントにいたし……。

 上半身は人の女、下半身は赤い皮膚の蛇。長い赤髪、鋭い瞳はやっぱり赤だった。

 身体の半分が深紅に煌き、目に悪い。

 赤い蛇人族はそこにあった。

 一瞬、目を疑った。本当に蛇人族なのかと。

 身体の色の問題ではない。赤なんて着色すればいくらでも変えられる。そんなことより、一番驚くべきことは腕が両側に三本づつあることだ。

 人の腕がある所に二本、少し外れて背中に一本づつ腕が付いていた。

 変種だったとしても腕が増えると言うことは起こりえるのだろうか? 指がないって言うのは聞いたことあるけど……。

 見た目、腕以外はまるっきりスネイキィ蛇人族。赤い身体のこれがウワサの者なのか?

 まさか、あなたが賞金首のスネイキィ蛇人族さんですか? なんて聞けるわけないよね。

 いきなり殺して、違ってたて言うのになったら、シャレになんないしどうすべきかな?

「あたしぃになにかようナ?」

「エ、ああんと……」

 どうしよ……。

 そうだ、人探し作戦で行こう。それがいい、決定!

「赤い蛇人族に雇われたって言う、友人を探しに来たんだけど。知らない?

 戦斧振りまわしている乱暴な人なんだけど……」

「雇う……ナ?」

 どうかしのがせてください。カネ、カネー!

 って、オレはいったい何を思ったの? カネだなんて、ウィルシュじゃあるまいし……。

「おおウ! ジェシカの知り合いナ。そかそか、よく来たね。茶でも飲むよ、せっかく来たナし!」

 この人……話し方ゼッタイ、変!!

 そう思っているとその鋭い目で、オレを刺し動けなくした……喰う気ね!

 違うでしょ。早とちりはいけないよ。

「あたしィの名前、マリリンって言ってかわいいのうね! あなたどうかいナ?」

「か、かわいいのカナ……」

「キャゥゥゥゥゥゥ!!」

 歓喜の叫びを上げるとオレを六本の腕で抱きかかえ、くねくねと下半身を滑らせ、森の奥へと走り出した。

 なんだ、いい人じゃないか?

 どこが反旗を翻すだ! S.C.に訴えないと気がすまないよ。

 それとエクセインさんにも言わないとなあ。『悪質な嘘です! 赤い蛇人族の名を使った別の人が犯人です!』ってね。言う前にい他の波かだったりするから確かめないとけjぢめ

「ひゃああああ!」

 木の間をすり抜けて突き進んで行く、マリリンの前に抱かれていると、心臓がドキドキして止まらない。

 ベリイ、スリリング!

「キャッホウ!」

「どうダ? 面白いだろいいだろナ?」

「サイコー!!」

「む! あぶナぁい!!」

 へ?

 なんのことか尋ねる間もなく強烈に押されていた。

 風の唸りが耳を塞いでいるが、キラリと光る物がチラッと見えた!

 べちぃっ!

 や、厄日だ! 鼻っ面が潰れるような音がして、オレの身体は木にぶつかっていった。

 なんでこんなに痛い思いや変な奴と会わないと行けないの!

「何者するか!?

 ……ジェシカ! お前何する、トモダチ連れて来たっていっとうナ?」

 叫び声を上げるマリリンに目覚め、ゆっくりとオレは立ち上がった。

 ジェシカ……? あの野蛮な女?

 ジェシカは木の枝に立ち、こちらを見下ろしている。目がいかつい感じに細まった。

 マズイ状況になって来たな……。

「マリリン! 何言ってっかな! 騙されてるぞ。そいつ、あたしの友人とか言ってお前に近づき、殺すつもりだったんだ!」

 半分当ってる。最初は殺す予定だったけど。

「なんですナ!?」

 マリリンはこちらを向き、六本の手を広げた。鋭い牙と爪が怒気にさらされ鈍く光る。

「お前ウソついた……許されないナ!!」

 髪を逆立て強襲をしかけて来た。

 さすがヘビ、滑らかな動きで一瞬に間合いを詰め、眼光を飛ばして威嚇する。

「キライ! どっか行けくナ!!」

 渾身の一発は、加速して身体を捻りシッポが唸りを上げた。

 横腹を打ち、オレの身体はやすやすと浮き上がり、気づいた時には空の彼方に飛ばされていた。


 どこまで飛ぶんだろう……? 

 日は暮れ、空には月が顔を覗かせていた。瞬く星は美しく、食欲を誘う。

 空から見下ろす地上の景色、見上げる景色は互いを際立たせていた。

 できることなら街まで一直線がいいんだけどな。

 ありえないよねえ……。

 オレは腹をさすりながら、マリリンのことを思い浮かべていた。

 確かにしゃべり方は変だ。だけど、悪さをするようなオーラは感じられない、裏があるのか……それとも、あれが本性か。

 ……信じられないのはエクセインの方も同じなのだ。多額の報酬につられたとはいえ、あくどいことならなんでもする女性と聞いている。油断して、いつの間にかお払い箱……死ね、ってのはキツイよね。

「アアー! 見つけたぁ! どこ行くのよ。私の運命の人!」

 ……聞こえない、知らない……。

 遠くに街の光が見えてきている。

 ホントに街に着陸できそうだ……アラ?

 風のうるさい叫びが次第に薄れて行く。

 これはひょっとして、ひょっとすると失速……。

 身体が下に傾き出したのがわかった。石を投げるのと同じで、落下時も距離は伸びているが、どう考えても街につくことは不可能である。

 街につくかどうか、以前の問題が浮かんで来た。

 着地方法。

 アリの視点で考えると、家の二階辺りから飛び降りたのと同じかな。

 外骨格の蟻なら生きてる確率は高いだろう、下は土だし……でも、オレは人だ。加速のついた状態で木にでも突き刺さったりしたら……皮膚は簡単に突き抜けるだろう。

 だいたい人間の皮膚が固ければよかったのに! 無茶か……。

 どんな強靭な肉体の持ち主だったとしても、上手く着地しても骨は折れる。

「どうする……」

 方法は見つかった。

 だが、その方法あまり乗り気になれない。

「竜……呼ぶしかないのかな」

 呟いた時だった。

「ぷううふ、ぶ、ぷうううう」

 それは現れた。

 チョウチンアンコウ!?

 茶色っぽい身体。たるい両目の中心部から、ほのかに明るい光の灯火が気だるそうに輝いている。

 全長はオレのおよそ六倍。超巨大な魚類だ。

 いや……これは魚類じゃない。普通のチョウチンアンコウってチョウチン、光んないはずでは?

 それは悠然とムナビレをなびかせ、オレに向かって漂ってきた。

 世界って広い! 未知なる動物がいるんだから!

 そいつは頬まで裂けた口をゆっくりと開き、吸引し始めた。

「来ないで……」

 応答なし。

「つーか、アンコウってそんなに動かないはじゅっぷっ」

 めい一杯口が開かれたと思った時には、口の中だった。

 ヤモリもビックリの早技で、吸いこんだ瞬間、口を閉じて逃げられないようにした。

 感心したいところだが、そんなことできる状況ではない。

 舌はぷよぷよして気持ち悪く、足を上げれば粘っこい液体が糸を引いた。

 上顎からは臭い液が垂れ、鼻の頭を掠める。

 くっつかなくてよかったけど、ずっといたい気になれない!

 叩き切って、刺身にしようと月夜見に手をかけた時、臭い空気を押し流し、まともな空気が入って来た。

 足元から光が射し込み、口が開かれる。

 すぐに口から出たオレは目の前の景色にビックリした。

 見たことがあった。街の入り口の側、今朝ここから出発したのだ。

 眠そうな顔でオレを見つめるアンコウに視線を向ける。

「あなた……オレを運んでくれたの?」

 ムシ……。

 なんの反応もないまま、目を閉じただけだった。

 オレはありがとうの意で口の上をぽんと叩く。

 それが原因かどうかわからないが、アンコウは光に包まれたかと思うと粒となって、弾けて消えた。

 シャボン玉のように跡形もなく……。でも、シャボン玉は水滴が落ちるか……。

「これって……フンフン……?」

 どうやら臭いはつかなかったみたい。

 よかったぁ。この服、結構お気に入りなんだ。


「見つけたぜぇ」

 暗く、陰気な声を聞かされたのはホテルに戻ってからだ。

 夕食をとりにホテル内にあるレストランに行ったのが運のつき、見たくない顔ベスト一〇〇に入る奴がいた。

「ワン太……しつこいよ、いいかげん諦めたら?」

 オレはそいつの名前をイヤそうに行った。実際イヤなのだが……。

「諦めるだと? 冗談、久々にたかれる絶好のカモを見つけたのに、みすみす引き下がれるか。川流され料、追加ね。三千F! それからオレをワンと呼ぶな」

 じゃあオレは、誰にたかったらいい?

「とりあえず、こっちに来て食えよ。おごるから……」

「いい、どうせ高い利息つけて返せって言われるだろうし……席は使わせてもらうよ」

 一般的な夕食の時間が過ぎていると言うのにレストランは満席だった。

「着席料……」

 ホントに殺すか?

 ふぁワン太のボソッと言った言葉を聞いていない素振りで交わし、さっさと椅子に座る。

「着席料……」

 しつこい。

 構わずウエイトレスに食事を頼んで、持ってきた水をクイッと喉に通した。

「着席料……はいいとして、お前名前は?」

「ある」

「そうじゃねえ、名乗れって言ってんの

 ……恥。

 しかし、いいのか!? スゴイ、天変地異でも起こりそうな予感だよ。そこでオレはガツーンと反撃に出た。

「名乗料ちょーだいっ。三万!」

「いや、いい」

「アハハ! 冗談、冗談。オレの名前、アデュよ」

 ホントに変な人、上手く使えばこき使うこともできそうね。

 バカとハサミは使いよう……か。

「で、アデュ……」

「言っときますけど、お金払えないからね。オレまだ、S.C.の候補生だから、そんな大金持ってないよ」

 先手必勝、言われる前に言わなきゃ、相手のペースに乗せられちゃう。ただでさえバカなんだから。

「それは一生たかるとして……。

 ってことは、試験期間中か?」

「そうだよ……」

「お待たせしました」

 ズズズ。

 よからぬことを考えてるんじゃないだろうね?

 パクパク。

「……(と言うことは、S.C.のことも知っているかもしれないな。上手く利用して、内部情報を聞き出し、売りさばけば結構なカネになるな、こりゃ)ふふふ」

 ゴクン。

「なにが可笑しいの?」

「イヤなにも……それよりさ……お話でもしようぜ。出会いを祝して」

「ごちそうさま!」

 オレは注文した料理を平らげ、席を立った。

「アッ、ちょっと! いつの間に食ったんだ!?」

 あなたが考えごとしている時にだつーの。

 後ろで騒いでるウィルシュをほっといて、部屋に戻ることにした。

 今日は疲れたもん。明日、一発勝負でなんとかしないと試験に落ちちゃうよ。


 夜中、寝てる途中で目が覚めることなんて一度もなかった。

 そのせいで学校の夜間演習の全てをサボったと言う記録を残してしまった。

 本来、昼寝れば夜は起きていられるが、学校じゃお昼寝の時間は設けてくれない、自分で管理しなければならない。

 それなのに今日にかぎって起きてしまった。

 イヤな予感プンプン漂わせながら、夜風が窓から部屋に入り、初秋の涼しさを身体に浴びせてくれる。

 月の光がカーテンの網の目を縫い、床に明りを灯した。

 ベッドと円テーブル、ドレッサー化粧台、窓が二つ。特別いい部屋と言うわけではないが気に入っている。五〇階と言う高さにだ。中身はともかく高層と言うのはいいもの。

 不自然に騒がしさと静かさが混じらない地上から離れ、静かな空に続くこの部屋が好きだ。さすがにこの街は工場が多くないから空の空気が美味しい。しかし、どうもスッキリしないな。機械化が進んでいる街とモンスター、進化していない動物が住んでいる自然。二つを行き来していると時の流れがときどき狂ってしまう。

 みんな仕事、仕事って急いでる。みんな静かに自然と溶け合っている。

 ……

「ふう」

 オレはスカートとリボンを外しただけの姿で、非常時に備えて眠る。

 誤解しないでほしい。

 スカートの下はスパッツを履いているから、パンツで寝ると言うことはしていない。

 シュッ、ガコ!

「……」

 静寂をぶち壊さない程度で、窓の外に何か取りつくような音がした。

 物音を立てずに身なりを整え、月夜見に手をかけた。

 ここは一一階、そうそうに妙な音など聞こえるはずがない。

 キュウウウウンッ。

 壁にへばりつき、カーテンの隙間から探る。

 音はあいも変わらず同じ大きさ、寝ていれば気がつかないくらいの静かな物だ。たまに『キュル』と言う音も聞こえる。

 釣り糸を巻き取っている動作に近いと思う。見てみないと断定できないけど……。

 なにも見えない……?

 確かに音はしているのに、あるはずの姿が見当たらない。

 幽霊なんて期待してないから……来ないでね。

 ……

 ……アラ、止まったわ。

 全ては夜に呑み込まれた。

 オレのいる部屋の外になにかがいる。いくら見えないからと言って、気配を探ればバカ正直に存在を教えてくれる。

 意を決してカーテンを開けようと手を動かした時だそいつが来たのは。

 ドゴオッ!!

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