第15話 門をぶち破れ!
そして、私達のパーティは子豚達に案内され、第二の関門があるという村の外へと続く道を歩いた。桜の木の下で宴会をしているモンスター達の声が聞こえなくなるくらい村から離れたとき、第二の関門が私達の前に姿を現した。それは文字通り、門の形をしていた。門は固く閉ざされており、道を通せんぼしていた。そして、その門の真ん中に、的のような模様が描かれていた。白い丸の中に小さな赤い丸があった。
「第二の関門、門ぶち破り~!」
子豚の一匹がクリップボートを掲げる。下手な字で「もんぶちやぶり」と書いてあった。
「やることはいたって簡単! 各々の技をこの門の扉にぶち当てて破って欲しいブヒ!」
「一人につき十秒間。その間にばかすか攻撃を当てて門のライフをゼロにするブヒ!」
「シュッ、シュッ」
言うことがなくなった子豚がシャドーボクシングをしているのを見ながら、関門の内容を理解する。
つまり、ジュセとレイジがいれば事足りるということだ。通常のプレイヤーの二、三倍の結果を出すことくらい、彼らなら楽勝で出来るだろう。
だから、私は出来る事ならヒカゲとミズナの実力を見ておきたいと思った。
「じゃあ、僕からやるね」
事がうまく運びすぎて逆に疑わしく思えてくるが、ヒカゲがトップバッターを務める事になった。
なぜゲームの上手さが捜査に関係あるかというと、実は取り押さえの際に、ゲーム側の仕様に制限は掛けられない。つまりプレイヤーを捕まえるためには相手をゲームの仕様にのっとって打ち負かさなくてはならない。馬鹿馬鹿しいと思うが、これは単にまだフルダイブの法整理が完了していない弊害と言える。だが、逆にこの弊害を利用すれば、上手なプレイヤーがたくさんいることを警察側がアピールすれば犯罪を未然に防ぐことが可能だということだ。
今回はプレイヤーとの勝負にならないことを祈る。確実にこちらが勝ち、相手の罪が重くなるだけだからだ。そんなかわいそうなことはしたくない。
「えーと、ショートソードっと」
メニューから武器を選び、今まで何も持っていなかったヒカゲの手に鞘に収まっている手頃な大きさの剣が現れる。
「そういえばヒカゲ。おまえ格闘系の職業選ばなかったな。道場で鍛えてんだからそっちの方が強そうなのに」
「僕、あの技は遊びで使いたくないんだ」
「そうか。へへ、おまえらしいや」
ヒカゲが子豚に指示された位置に着く。
剣を抜き、スタートの合図を待つ。
さて、そのゲームの腕前を見せてもらいましょうか。
全員がヒカゲを見守る中、子豚がスタートの合図をした。
そして、私達は驚愕の場面に遭遇することになった。
「スタートッ!」
号令が掛かった瞬間、どこからともなく強風が巻き起こった。全員がその強風に怯みながら、確かにそれを見た。
ヒカゲに向かって吹いた風が、ヒカゲを避けていく。それだけではない。避けた風が緑色のグラデーションを身に纏い、目に見えるオーラとなってヒカゲの周りを高速でグルグルと回る。
どんどん風のオーラが集まっていき、やがて球の形になり、ヒカゲを覆い尽くす。
五秒経過と同時にカウントダウンが始まった。
「五!」
球の動きが突然、ゆっくりになる。そしてその形が崩れる。
「四!」
崩れる球。そしてそのオーラの固まりは一箇所に向かって流れ始める。剣へと。
「三!」
ヒカゲが構える。剣を握った両手を右肩に寄せる。剣という名の矢を放つために、弓を引くように身体を動かす。そして、私は強風により細めた目で、剣から漏れ出した風のオーラがヒカゲの靴の裏へと吸い込まれていくのを見た。
「二!」
強風が止む。
「一!」
ヒカゲが息を吐いて、吸う音が聞こえた。
「ゼッ……」
ゼロのカウントダウンがされる前に、ヒカゲの攻撃は完了した。
攻撃の勢いが収まると、ヒカゲは両足で攻撃の勢いを殺しながら着地する。
門の、向こう側に。
ヒカゲは、一撃で門を開けてしまった。いや、開けたというのは表現として正しくない。跡形もなく、門は吹き飛ばされていた。
皆、無言になっていた。
ミズナを除いて。
「おーすげぇすげぇ。運動神経いいから期待してたけど、想像以上だなこりゃ」
そう言いながらミズナはヒカゲに近づいていく。
運動神経がいい? そんな言葉で済めばどれほど良かったか。
攻撃をした瞬間を、ゆっくりと思い出す。
靴のかかとの部分に集まっていた風のオーラは、突撃するための起爆剤だった。前のめりになり、それを爆発させたヒカゲは文字通り爆発的なスピードを得る。
そのスピードと、剣の刃に溜めたエネルギーを、門の小さな赤い丸一点に叩き込む。
凄まじい音が鳴ったかと思うと、門があった場所は、嵐が通り過ぎたような惨状へと変わり果てていた。
風を操る集中力。狙いの正確さ。そして、なにより、風の魔法を爆破に利用し、攻撃力に転換し突撃するなどという荒技を一発で、完璧にこなしたという事実。
天才だ。
全ての要素が上手く噛み合っていなければ、この門を破るダメージには至らないだろう。
ジュセとレイジを見ると、二人とも平静を装っていたが、視線は二人ともヒカゲの姿を追っている。
もし、もし彼女が敵なら、ここにいる者全員でも抑えることは出来ないだろう。
そうならないことを、ただただ祈るばかりだ。
私は、門がある時にはなかったはずの、そびえ立つ巨大な塔を見上げた。
「すっごい大きな塔があるよお姉ちゃん!」
「ん? あ、ホントだ! でっけえ!」
兄妹が塔を見てはしゃいでいる。その光景が、二人が私たちの敵になる予感を消していくようだった。
私の口元が、勝手に微笑んだのが分かった。
暗い部屋にぼうっと青い光が光っている。
モニターから出されるその光は部屋の唯一の明かりだった。
現実世界にあるその部屋は、ゲーム内の賑やかな雰囲気から隔絶された一つの世界となっていた。
モニターに、映像が映し出されている。
子豚三人組に連れられ、塔の入り口へと案内されたパーティの姿が見える。
モニターを見る者の目が、特定の人物を捉える。
長い銀髪の男。コートを着込んだ少年。そして、金髪の少年。
「夏目日影……」
男はそう呟くと、手元にあったキーボードでパソコンを操作し、ヘッドホンのような形をしたフルダイブ用の機器を自分の頭にセットし、起動した。
男がログインすると、目の前には歩く子豚達のうしろ姿があった。
彼らはこれから、魔法で作られた通路を通り、塔の頂上でボスとしてプレイヤー達を待ち構える役目があった。案内役だったキャラクターがこのイベントのボスというアイディアは、男が考えたものだ。
だが、男はその通りにするつもりはなかった。
男は子豚達に声を掛け、振り返ったその時、こう命じた。
「お前たちの身体を貸せ」
子豚達は、ピクリとも動かなかった。いや、動けなかった。
六つの目が、ギョロギョロと動き、小さな子豚達を捉える。
全身が紫色の人型の化け物。それが亡霊のように子豚達の目の前にいた。
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