第12話 オンライン・ステージ
レイジとの同時ツッコミを果たした俺は、先程鳴った爆発音を思い出す。
そうだ、あの凄まじい爆発は、確かにこの村からだったはずだ。それなのに村人はオークやらハーピーやらと酒を酌み交わしている。
どこかがおかしい。
すぐに周りを見渡すと、すぐにその爆発現場は見つかった。
そこは小さな湖だった。青く透き通った水の上に黒い煙が漂っていた。
だんだんと煙が晴れてくると、なにやらステージのようなものが見えてきた。
どうやら、煙の発生源はそのステージの真ん中、切り抜かれたその部分からようだった。
おそらく、そこから爆発する何かを水に落としたのだろう。煙は水の中から湧いている。
ちなみに、湖の前には大勢の観客がいた。
観客……そう、観客だ。
パーティは歩いてそこに近づいていく。その時、マイクのスイッチが入った。
『さぁこの水中爆発脱出マジック! 爆発からまもなく五分が経過しようとしています! 果たしてマジシャンは脱出出来たのでしょうか!』
「やべぇよ……しゃれにならないくらいの大爆発だったぞ……」
「火薬の量間違ったんじゃねぇか……」
湖の前に集まった観客から、不安の声が漏れ出した。村がモンスターに襲われていると思って走った俺の苦労が無駄だったことを痛感しつつ、それを聞いていた。
その時だ。
カツンッと靴音がした。
観客が一斉にその音がした方を見る。
いつの間にか出来ていたお立ち台の上に、綺麗な女の人が立っていた。
金色の九本の尻尾が風になびき、同じ色をした獣耳がピンッと立っていた。
狐だ、と思った。
『……プリンセス天狐だーッ!』
奇跡の生還に、観客がドッと歓声があがる。
「ウオーッ!」
「やりやがったぜあの姉ちゃん!」
「天狐ー! 好きだー!」
思い思いの声援に手を振りながら笑顔で応えつつ、これまたいつの間にか作られたステージへと続く橋のようなものを渡り、ステージに上がっていく。天狐がステージに上がるのを見て、司会者は天狐に近づいていく。
『いやー! 大成功でしたね! プリンセス天狐さん!』
「ありがとうございます。まぁ仮想現実なのでインチキし放題なんですけどね。えへへ」
客席から笑いの渦が巻き起こる。
「うそうそ。このマジックは正真正銘本物です。マジシャンの総本山『マジマジマジック』からも公式で認定されているものです。この脱出マジックだって万が一失敗すれば、命を落とす代わりに私のアカウントは停止、マジシャン人生はそこで終わりとなります」
天狐の説明を、観客達は神妙な面持ちで聞いていた。
「もちろん不正行為などもってのほかです。どんな小さなことでもしてはなりません。だからこそ、現実に近い感動やスリルを味わっていただけるのです」
顔を見るに、俺とそんなに歳が離れていないんじゃないかと思った。けれど、醸し出される雰囲気はプロそのものだと思った。
『その通り。それを皆様が分かって下さっているからこそ、私達もこうして本物の歓声をあげることが出来るのです』
「ありがとうございます。では皆様、私はここでおさらばいたします!」
「えー! 行っちゃうのかよー!」
「スケージュールが一杯一杯なので!」
そう言って彼女は、懐から球のような物を取り出し、手に握る。
「種も仕掛けもございません! 失敗すればそこで終わり! 成功すれば拍手喝采! 『マジマジマジック』楽往支部からプリンセス天狐でしたー! 本日はお集まりいただき、ありがとうございました! それでは皆さん、おさらばっ」
手に握ったそれを床に投げつけると、瞬く間に大量の黄色い煙がステージ上に充満し、すぐに消えて無くなると、プリンセス天狐もその場からいなくなっていた。
『けほっ、けほっ、み、皆様、これにてマジックショーは終了となります! プリンセス天狐さん、ありがとうございましたー! 続いては、オークとエルフの夫婦漫才コンビ「クッコロコロズ」です! それでは、どうぞ!』
司会者が進行を続ける。観客が次の演者を拍手で迎える。
俺達はぼーっとイベントを見ていたが、全員魔法が解けたように本来のイベントを思い出した。
漫才が始まる前に全員そこから離れる。すると、入れ替わるように何人かがこのイベント会場に入ってきた。改めて観客を見ると俺達メンバーと同じような冒険者の格好をした人達がほとんどだった。つまり、本物の人間が今のショーを見ていたのだ。そして、今しがた人が入ってきたのを見ると、このステージは無料で見れるライブ会場のようなものだと理解した。
他のゲームでもそうだが、こうしたイベントは珍しくない。今駆け出し中の芸人やアイドルにミュージシャンにマジシャン、様々なエンターテイナーの世界にいる人達が活躍しようとこうしたイベントに参加し、夢を掴もうと頑張っている。
そして、ステージ上で漫才を繰り広げているオークとエルフのようにフルダイブでしかできない見た目の変更を武器にする人達もいたりして、表現の世界は広がるばかりである。それだけフルダイブが世に浸透しているとも言えた。
「ミズナ、行こうぜ」
レイジが手招きをしていた。いつの間にか皆、向こうの方で集まって何者かと話していた。どうやら俺はまたぼーっとしていたらしい。
「おう」
俺の口調にレイジは何の反応もしない。女の身でありながらまったく素を隠さずガンガン男言葉で話すこの俺もパーティに浸透したと言えるだろう。最初はどうなることかと思ったが、この調子なら最後までやり過ごせそうだった。
そう思い、安心した俺は笑い声が沸き起こるイベント会場をあとにした。
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