第11話 怒り込み上げて
道を走るにつれ、森が深くなっていき、頭上には緑色の天井が出来ていた。走りながら俺は、忌々しいあのおっさんを思い出していた。
そういえば、あのおっさん、曲がりなりにも「助けてくれ」って言っていたな、と。
木に縛り付けられる直前まで命からがら逃げてきた、という演技をしていたおっさんから考えられるのは、おっさんはモンスターから逃げてきた、ということだ。
そして、おそらくおっさんは村人Aだ。その村人Aが逃げてきたということは、村がモンスターに襲われていると考えるべきだろう。そして、眼前で上がる黒い煙が俺の推理が当たっていることを知らせている。
嫌な予感がした。
パーティ一行は村の入り口であろう人の手が加えられて作られた木のアーチを見つける。そのアーチの下で呆然と立ち尽くすヒカゲのうしろ姿があった。すぐにヒカゲの元へと全員が走る。
「なっ…」
そして、ヒカゲと一緒に横一列に並んだチームメンバーも目の前の光景に、呆然と立ち尽くすことになった。俺はその光景に釘付けになる。
そこには見るも無惨に破壊されつくした村と、転がる村人の死体が……
無かった。
目の前でピンク色の花が舞う。桜だ。
リアルでは約一ヶ月前には散った桜が、目の前で咲き誇っていた。
だけど俺の視線は、いや、おそらくパーティの視線はそんな美しい桜よりも別のものに向けられていた。
「乾杯ーッ!」
「イエーッ!」
「プハー! うめぇー! どうですかオークさん! もう一缶開けちゃいましょうよ!」
「お! 人間、いい飲みっぷりじゃねぇか。だがな、人間、一つだけ言っておくぜ」
「な、なんですか……」
「敬語は無しだ」
「……プッ」
「クックックッ……」
「アーハッハッハッハッハッ!」
「アーハッハッハッハッハッ!」
「飲もうぜオーク!」
「おうよ人間!」
酔っ払いが桜の木の下で騒いでいた。
その酒臭い二人以外にも様々な種族のモンスターがブルーシートの上でつまみを食い、酒を飲み、配達されてきたピザに歓声をあげていた。
よく見ると、そんな光景が村の一部であろうこの大きな広場の所々で見られた。皆一様に桜の木の下で異種族同士、酒盛りをしていた。
これを見たパーティの反応はというと、各々様々な形で顔の表情を「ポカン」という表現で統一していた。
ヒカゲ、クラルテ、セピア、以上三名は口を小さく開けてポケッとしている。
フウとライはまったく表情が見えないが、あのバケツ頭の中であんぐりと口を開けていることだろう。
ジュセは相変わらずだと思ったが、眉間にしわが寄っている。
最後に、隣にいるレイジを見ると、彼はプルプルと震えていた。何か言葉を吐き出したくて仕方のないように見える。
「な……」
そう声を漏らしていたので、俺もそれに合わせて、言葉を吐き出すことにした。
俺の身体も、震えていたからだ。
「なんだこのイベント!」
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