第9話 初戦闘?

「お姉ちゃん!」

 ヒカゲが叫んだ。

 その叫びが告げる、俺に降りかかる危機に対し、俺はどうすることも出来なかった。

 そして、真正面からそれを受けてしまった。

 キラリ光る肌色の頭。腰に巻きつく腕。ん? 荒い吐息。ぶにっとした腹の肉。

「たしゅけてくれ~」

 それは人間の言葉を話した。当たり前だ。だってそいつは、人間なのだから。

 というか、おっさんだった。おっさんが、胸の谷間に顔を埋めて、身体を抱きしめていた。

 俺は思考停止していた。ありとあらゆる情報が頭の中に一瞬で叩き込まれ、処理出来ず、状況を理解できなかった。全ての音が、耳に入ってこない。

「たしゅけてくれ~」

 唯一、おっさんの言葉だけが鮮明に聞こえる。二度目となるそのセリフは俺の脳にさらなる多大な負荷を掛ける。頭が真っ白になり、視界は瞼が降りてきたせいで、暗くなっていた。

 俺、ここで終わるのか?

 こんなことろで、終わるのか?

 嘘だろ。こんなことで?

 いやだ。終わりたくない。

 俺には、弟が、ヒカゲがいるんだ!

『撃退システム、オンライン』

 いつぞやに聞いた電子音声が流れる。

 俺の手の平に、力が漲る。

 おっさんの出っ張った腹の下にあるベルトの両脇を力強く握り、それを持ち手に思いっきり上におっさんの身体を持ち上げる。おっさんの足が宙に浮く。

「およ?」

 おっさんの頭が胸からはずれ、腰に巻きついていた腕も離れる。

 そして俺は、閉じていた瞳を開いた。

 おっさんと、視線がぶつかった。

「うおおおおおおっ!」

 その瞬間、俺は雄たけびをあげながら、そのままおっさんを地面に振り下ろした。

「がぺぱぁっ!」

 ズンッという地面にめり込む音と、断末魔の叫びが聞こえた。

「か、勝った……」

 勝利した俺は、ガッツポーズをあげるよりも前にペタンと地面に座りこんでしまった。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 ヒカゲが側に来て、心配してくれた。

「あ、ああ。大丈夫……」

 気がつくと身体中、汗でびっしょりだった。タオルが欲しいところだ。

 でもいいんだ。またこうして、旅ができるのだから……

「なんだこのイベント」

 そうだな。

 レイジに全力で同意しつつ立ち上がると、ちょうどおっさんがめりこんだ地面から頭を上げたところだった。

 そこにすっとセピアとクラルテが近づく。

 目の錯覚だろうか。二人から凄まじい覇気が立ち昇っているように見えるのは。

 数秒後、おっさんの叫び声が森に響き渡った。

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