第8話 イベント開始

 俺とセピアは中央広場へと足を踏み入れた。

 中央広場とだけあって広場の広さはかなりのものだった。この空間に続々と人が入ってきて、城へと続く道がある門の前に集まっていく。そうして出来上がった人だかりの中にヒカゲを見つけた俺も、そこに引き寄せられるように移動した。

「遅いよ、お姉ちゃん!」

「そんなに急がなくてもだいじょうだっつーの。お前が欲しいもんは逃げていかねぇからさ」

 頬を膨らませて怒るヒカゲをなだめる。そうしているのを見ていたセビアが隣でクスッと笑った。

「ミズナさん。ヒカゲくんとはいつもこうなんですか」

「そうだなぁ。だいだいヒカゲが突っ走って俺があとを追うはめになるな。俺と違って即断、即行動がヒカゲのモットーらしいし」

「いいなぁ。私、一人っ子だからときどき羨ましく思っちゃいます」

「そんなにいーもんでもねーぜ。俺があとで飲もうと残しといたジュース勝手に飲んじまうし、あいつときどき自分の部屋で歌を歌うもんだからうるせーのなんの。あと今回みたいに突っ走ったりして何かやらかしたりするし……」

 俺はブツブツとヒカゲの文句を並べる。だけど、それを聞いていたセピアはもう一度笑顔を作った。

「でも、そのくらい、なんですよね」

 真っ直ぐな青い瞳が、俺を見上げていた。その瞳が俺の心を見透かしているようだった。

「あ、ああ、そうだな……」

「ふふっ、そうですよね」

 セピアは満足そうに微笑んだ。

 その笑顔に釣られて、俺の口元も緩んでいく。

 もしセピアに兄弟がいるとすれば、セピアはお姉ちゃんだろうなと思った……にしてもだ。

 さっきから気づいてはいたが、セピアとの会話が終わると、途端に頭の中がそれに対する意識で一杯になった。

 顔を上げてそれと視線をぶつける。するとそれはサッと頭を別の方向に向ける。それとはつまり、男の視線だった。ってゆうか見る奴多いなおい! この場にいる男全員の視線がこの身体の胸の部分に集中してんじゃねーか?

 試しに視線を逸らし、すぐに元の位置に戻すと、たくさんの男の頭がサッと別方向に向く。まるで軍隊のような統率のとれた動きだった。

 この調子だと、横からも見られてるだろう。むしろ横から見たほうが素晴らしい眺めに……と、横から見たアングルを頭の中で想像した瞬間、俺もやっぱり男なんだな、と思った。

 うつむいていた視線を元に戻す。サッと別方向。

 だからばればれだっつーの! はぁ、やっぱり男ってバカなんだな……ちなみに右斜め後ろからのアングルが個人的に素晴らしいと思います。

 そう思ってると、統率の取れた軍隊の中で乱れが発生していた。当事者の顔を見ると、知っている顔だった。

「またあの女の子の胸見てたでしょ! 信じられない!」

「い、いやぁ……そのぉ……ご、ごめん」

 またお前かよ! ごめんね喧嘩の原因作っちゃって! 何度も言うけど、気持ちは分かるからな!

 女の身体になったと同時にリア充破壊兵器と化した俺は、前方から黄色い歓声が上がってるのに気づいた。男性アイドルでもいるのだろうか。

 チッ、羨ましいぜまったく。こっちは女の子どころかやらしい男の目線を浴びまくってるってのに。……そうだ。

 妙案を思いついた俺はヒカゲとセピアに手招きして、歓声を上げる女性の囲いに入っていく。

 俺の思いついた作戦は、木を隠すなら森の中、だ。女性の輪に入れば自然と男の視線から隠れられる。しかも、だ。それだけじゃない。今、俺は労せずして女性に取り囲まれている。さながら女子更衣室に入ってるかのようだ。このドキドキは決して男の身では味わえないだろう。

 まさしく一石二鳥。この作戦を立てた脳内の俺に勲章を授与して互いのゲスい笑顔を見せ合いたいくらいだ。どおれ、作戦に貢献してくれたアイドルの顔でも拝みますかね。

 周りにいる女の子より身長が頭一つ分抜き出ている俺はそいつの姿をはっきりと見ることができた。

 長い白銀の髪が最初に目に留まる。そして青いマントが翻ると黒ずんだ革でできた防具が見え、さらに背中に何かを背負っていることがわかる。肩口から飛び出している武器の柄を見て、それが剣のようなものだと推察する。そして長い前髪の間から時折見える、敵意はないが鋭い金色の目が地面を見ていた。

 身長は俺よりも少し大きいくらいだ。そして、その身体の影から女性が飛び出してきた。

 ひと目で俺は、その女性があの男の従者だと分かった。なぜなら、メイド服を着ていたからだ。丈が長く、ふんわりとしたスカートに胸の部分をしっかり閉めた本格的なメイド服から、彼女がどうゆう人物なのか、想像がついた。

 プロデューサか何かなのだろうか。その人物はどうやら女子の軍団を近づけさせないようにしているようだった。ポニーテールを揺らし、男と同じような鋭く赤く輝く瞳がファンを近づけないようにしていた。

 ん? あの顔、どっかで見たような……気のせいか。

「キャーッ! ジュセ様ー!」

 耳元で甲高い声がしてビックリする。さっきからあの男の名前を呼ぶ声は聞こえてはいたが、これではっきりと覚えた。見るからにクールそうなあいつの名前はジュセというらしい。メイドさんの名前も聞きたかったが、さすがにそんな暇はなさそうだ。

 そんなことを思っていると、どこからともなくガッチャガッチャという音が聞こえてくる。俺はその音を聴いたことがあった。噴水にいた時に来た、あの全身を鎧で身に纏った二人が動く度に鳴っていたのを覚えている。

 だが、今鳴っているこの音は、どう考えても二人分ではなかった。

 遠くの方からその音は近づいてきた。そっちの方を見ると、音の発生源に対して道を譲る人達が見えた。音の発生源は、全身を鎧で包んだ集団だった。鎧は全員同じデザインで固めており、そしてあの二人と同じ見た目をしていた。二人はきっと、あの中にいると予想した。

 どうやらあの集団はこちらに向かってくるらしい。一体何の用があるんだか、と思っていたが、ジュセが歓声を上げる女子達を通り越してその集団を見つめているのを見かけた。

 先程と同じ敵意のない瞳を揺らぐことなくその集団に向けていた。いや、あるいはその集団をも通り過ぎて誰かを見つめているかのようだった。

 鎧の集団がジュセを取り囲んでいた女子達に近づいていくと、異様な雰囲気を感じ取った女の子達はジュセの後ろに回りこむ。俺はというと、その回り込む流れに押されてジュセの近くまで身体を動かされ、いつの間にかあのメイドさんの次にジュセに一番近いポジションに居座ることになった。どう考えても俺がいていい場所ではないが、仕方なくそこで事の顛末を見届けることにした。

「何よ! 私たちのジュセ様鑑賞会の邪魔しないでよ! バカ! 地獄に落ちろ!」

「汗臭いのよ! 臭いだけしか特性のない無個性共が!」

 容赦なく罵詈雑言を浴びせる女子達に、心の芯まで冷やされながら次の展開を待った。

「うう…ぐすっ……」

 どこからかすすり泣きが聞こえてくる。まさか……

「お……俺、仮想現実に来ても臭いのかな……」

「やっぱり、仮想現実に来ても俺、モテないんだろうな……」

 鎧を着込んだ男達の間からネガティブな言葉が漏れ始める。しまいには大声で泣き出す者まで出てきた。どうやら彼の心は着ている鎧よりも防御力が格段にないようだった。

 女子の言葉だけで生み出されたこの惨状の中で、一人の男の声が上がる。

「てめーら! しゃきっとしやがれ!」

 声の太い男共の泣き声で出来た海の中から少年のような声がした。その一声により男達の泣き声がピタリと止む。どうやら、声の主はこいつらのボスらしい。

「だいたい心弱すぎだろ! 小学生でも言い返すかなんかするわ!」

 まったく、と呆れながらその声の人物が男達を掻き分けて出てくる。

「はぁーあ。俺の登場の仕方もいまいちパッとしねぇしよ。どーにもやるせないぜ」

 出てきたのは、青いスカーフを首に巻き、黒いシャツの上に茶色のコートを着込んだ少年だった。カウボーイという言葉が頭に浮かんだ。

 平均的に高い身長に大きな身体を誇るこの鎧軍団の中で彼の身長は小さいような気がした。ヒカゲより頭一つ分大きいくらいか。だが、どうやら身長というものは彼らにとって些細な問題でしかないようだ。この少年には、この集団を率いるカリスマがあるのだろう。

「よお、ジュセ。元気にしてたか」

 少年はジュセと知り合いらしい。どうゆう交流があったかは知らないが、二人を取り囲む人々の違いを見れば分かるとおり、違う世界を生きてきた人間同士が知り合うことが出来るのは、オンライン、はたまたフルダイブによる恩恵だろう。

「フルダイブプレイヤー高校生の部、一位のジュセ・オリジンにはそろそろ場所を譲ってもらいたいもんだがね。そろそろお前の才能って奴を越してみたいところなんだ」

 へぇ、と俺は思った。こいつがランキング一位を独占していると噂のジュセ・オリジンかと。

 フルダイブプレイヤーランキングというものがある。ランキングはどう決まるのかというと、まず、フルダイブアカウントは、プレイしたゲームのデータを全て集める役割を持っている。運動能力、対応力、判断力、等々、様々な項目が統計され、ランキングが決まる。

 それはゲームをたくさんやればやるほどランキングがあがる、というものではない。

 ありとあらゆるゲームで、そのゲームに対して優秀な動きがいかに出来るか、の、度合いでランキングが決まるのだ。つまり、大雑把に言うと、オリンピックの種目全部金メダルみたいなものだ。それがこのジュセ・オリジンってわけだ。

「このゲームはプレイヤー同士の戦いは出来ねぇみてぇだけどよ。どんなゲームでも今度こそ一位を取らせてもらうぜ。二位に甘んじるのは、もうごめんだ」

 どうやら彼は二位らしい。ランキングというものにまったく興味のない俺は、彼の名前を見る機会はなかった。

 ジュセはさっきから黙ったままだった。目の前の少年が見えていないのかってくらい静かだ。ちなみに、女子勢の罵詈雑言は続いている。

「ったく、なんか喋れよな。なんか一人で喋ってるみてぇで、恥ずかしくなってくるぜ」

「あの子は」

 黙っていたジュセが口を開く。見た目からも、ランキング一位という肩書きからも程遠い、弱々しい声だった。

「あの子は、まだ目覚めないのか」

 その言葉を聞いた少年は真面目な顔で、こう答えた。

「まだ、だぜ。今度、顔見せにこいよ。あいつも喜ぶ」

「ああ。明日、お前も予定が空いているのだろう?」

「そうだな。午後からまた見回りだから、明日の午前中に、あそこでな」

「ああ」

 意図せずして盗み聞きしてしまったが、どうやら二人はリアルで知り合いらしく、険悪な雰囲気は皆無だった。代わりに、どうしようもない悲しみが二人の間にあることが分かった。

 俺はあの雰囲気を知っている。母さんが亡くなったことを思い出す日影が出す雰囲気に、よく似ていた。

『皆様、大変長らくお待たせしましたー!』

 男の声でアナウンスが流れる。日影が大好きな、西光寺社長の声だ。どうやら時間になったらしい。

『ソルテカランテ初のイベントにご足労いただき、誠にありがとうございます! では、早速、イベントの説明を致します!』

 隣を見ると、ヒカゲがこの街に入る前のような興奮と緊張が入り混じった顔になっていた。

 セビアの方に顔を向けると、ヒカゲとは対照的に落ち着いた表情だった。顔を向けたのに気づいたセビアが「頑張りましょうね」と笑顔で声を掛けてくれた。

 ここに来る途中で確認したが、彼女は高校生で、フルダイブゲームは初めてらしい。丁度ベータテストを行っていたこのゲームに目をつけ、思い切って飛び込んでみたそうだ。そして、どうしていいかわからず彷徨っていたところをヒカゲに声を掛けられたというわけだ。

 そうゆう成り行きを聞いた俺は、この子もヒカゲ同様、見守る程度に、しかし全力でサポートすることにした……とかなんとか言って、逆に助けられちゃあ俺の立つ瀬がなくなる。

サポートしつつも、サポートされるように立ち回ることを肝に銘じることにする。

『……以上で説明を終わります! では皆さん、ご武運を!』

「え、あれ? 説明終わった?」

「終わったよ、ミズナお姉ちゃん。これからイベントステージにワープするんだって」

「ワ、ワープってした後もちゃんとパーティ組んだ奴と一緒になれるんだよな?」

「うん。そうだって。ルールはあとで説明してあげるね」

 おう、と返事を返すと足元に魔法陣が現れる。転移魔法を発動するための、もといプレイヤーをステージへと移動させるための装置が発動した。


ステージへの転送が終わると、そこは俺が、この世界で最初に足を着けた場所に似ている森の中だった。違いがあるとすれば、上を見上げると天井がなく、太陽の輝きを確認することが出来るようになっていた。

「8から10人のチームになるとは聞いたが……」

 俺はヒカゲから受けた説明を思い出しながら、自動的に選ばれたチームメンバーを見回す。その内の二人が、俺に気づいて手を振った。

「ねぇさんおひさっす!」

「うげっ」

 見た事のある手を振る鎧男二人を無視して、他の顔触れに注目する。

 まず、俺の隣には、ジュセ・オリジンが腕を組んで佇んでいた。

 イベントが始まっても仏頂面を崩さないジュセを見て、俺はこいつは何が欲しくてイベントに参加したんだろう、と疑問を浮かべた。

 そして、そのジュセの影にまだ名も知らぬメイドさんがいた。ジュセを挟んで視線が合ったメイドさんはさっきまでファンを近づけさせなかった表情を崩し、微笑むと丁寧に一礼した。突然向けられた笑顔に胸をドキドキさせながら、俺も釣られるように一礼を返す。

 俺は隣にヒカゲがいることを確認する。ヒカゲの隣にはセビアがいた。

 最後に意図的に視界からはずしていた鎧男二人の方を見る。丁度、こっちに向かって歩いてくるところだった。鎧男二人の前にはあのガンマン風の少年がいた。

「ジュセと一緒のチームか。競い合いがなくなっちまったぜまったく」

 文句を言いながらも少年は、たまにはこうゆうのもいいか、といった感じだった。

 こうして、チームメンバー全員が顔を合わせた。

 こりゃ楽勝だな、と思った。なんたってあのランキング一位二位が揃っているからだ。

 ……俺達いらないんじゃないか、と思うくらいだ。それに二人は顔見知りだしでどちらにも顔をしられていない俺はなんだか居心地が悪くなってきた。

 て、いかんいかん。何をネガティブになっとるんだ俺は。こうゆうときこそ前に出ないと。

「あー、はじめまして。俺の名前の名前はミズナ。みんな、よろしく……」

「お姉ちゃんお姉ちゃん」

「ん?」

「なんかみんなキョトンとしてるよ」

 そう言われて全員の顔を見ると、約二名を除いて全員がキョトンとしていた。その顔は、初対面のセピアを相手にしていた時の顔に似ていた。ああ、そうか。男言葉、だな。

「俺の口調は親父譲りだから気にしないでくれよ。はい、次」

 ヒカゲに自己紹介の番をまわす。

「僕の名前はヒカゲ。よろしく。はい次」

 早っ。

「え、あ、私の名前はセピアです。皆さん、よろしくお願いします……え、えっと……」

 自己紹介のバトンを渡す先を失ったセピアが戸惑っている。

 しまった、と思った俺がフォローをしようとしたその時。

「次は私、ですね」

 メイドさんが名乗り出てくれた。

「私の名前はクラルテ。今回は皆様の後ろで後方支援、もとい、ご奉仕させていただきますね。よろしくお願いいたします」

 セピアのフォローに入ってくれたクラルテに、心の中で礼をした。そして、続けてクラルテはジュセの紹介をした。

「彼の名前はジュセ。私のパートナーですわ。彼はこの通り寡黙な人なので近づきにくいかと思われますが、根はいい人なんですよ。ね、ジュセ」

「いい人ではない」

「こうして冷たい態度をとることも多々ありますが、心の中では照れているのですよ」

 ふん、とため息をつくジュセからは呆れのようなものを感じた。だが、どうやらまんざらでもなさそうだった。

「次は、あなたですわね」

 クラルテは目線をコートを着た少年に向ける。

「俺か。俺の名前はレイジ。職業はハンター。銃を使って戦うけど、戦士とかと一緒で前に出て戦うぜ。で、こいつらは……」

「フウ!」

「ライ!」

「だ。俺よりでっかい銃を使うのが好きな連中だと思ってくれ」

「よろしく! ねえさん!」

「……俺かよ! 俺だけかよ!」

 俺の中で眠っていたツッコミの魂が跳ね起きて、男二人からのアピールを跳ねのける。

 男からの好意受け取るくらいならそこら辺の雑草むしってた方が幸せじゃい、と心の中で毒を吐く。

「よし。じゃ、ダンジョンに向かって行くとするか。ま、気楽に行こうぜ」

 レイジが、イベントクエストの順路であろう真っ直ぐな道を進もうと歩き始めた。全員もそれに続こうと歩き始める。

 こうして、緩い空気が流れる中、イベントが開始した。フルダイブゲームで行われるイベントの数多くはこうしたゆったりとした雰囲気で始まるのだ。

 そして、ダンジョンまでの道のりを歩く時間は、他のパーティの人と話が出来る機会でもある。

 今回の相手は、あのメイドさんにしようと思っていた。先に言っておくと、俺がこういったイベントの類で女の子に話しかけるのは今回が初めてだ。いろんな女の子に手をつけてきたわけではない。断じて。というかそんな度胸がない。

 だが、何の因果か女である今なら男の時よりは気軽に話しかけられるだろうと踏んでいるのだ。つまり、機会は機会でも絶好の機会というわけだ。さっそく、話しかけることにする。善は急げだ。

「ねぇ、クラルテさ……」

 その時。

「油断するなよ」

 レイジがぴたりと足を止める。それに合わせてパーティの足も止まる。

「もうイベントは始まってるらしいからな」

 レイジの静かな口調により空気が張り詰めた。そよ風が流れる穏やかだったはずの森が俺達を飲み込む化け物に変わっていくような気がした……が、何も起こらなかった。

 なんだ、何も起こらないじゃないか。びびらせやがって。

「お姉ちゃん!」

 ヒカゲが叫ぶ。

 それと同時に突然、森の中から何かが俺に飛びかかってきた。


 現実世界。階段の踊り場。

 杉村は無事にイベントの説明を終えた社長を見届けると、ソルテカランテに関するスタッフがいる部署へと続く階段を降りていった。

 杉村はその部署がある階を通り過ぎて、さらに下へ降りていった。

 一階に辿り着くと、周りに人がいないことを確認する。確認を終えると、地下へと続く階段に置かれた関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を無視して進んだ。

 明かりのない階段を手すりを頼りに降りていく。

 わずか一階分の階段を降りると、そこには真っ黒な扉があった。その扉の上に小さな監視カメラがあった。

 そこに向かって、杉村が呟く。

「ソルテカランテは始動した」

 カメラがレンズを狭める。次の言葉を待つかのように。

「そして全てが終わるのだ」

 ガチャリ、と音がして扉の鍵が開いた。

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