第7話 新たな仲間
「ヒカゲ、その子は?」
「さっき立ち寄った店で見かけてね、連れてきちゃった!」
「つ、連れてきちゃったっておまえ……」
こっちはこっちでなんちゅーパーティ勧誘しとるんだ。だがまぁ、こんな小さい子が一人でこのゲームをするには言っちゃ悪いがかなりシビアそうだ。ヒカゲが声を掛けて正解だったかもしれない。一応、本人の意思確認をしておくか。
「これから俺達で冒険に行こうと思ってるんだけど、君もどうだい。一緒に来る?」
「……は、はい! よろしくお願いします!」
ブンっと頭を下げてそう答えたその子は、声からしてどうやら女の子のようだった。
助かった。女の子がいてくれれば俺の中の男が刺激されて、この身体から意識を逸らせる。まぁもうそんなおおげさにこの身体のことが気になってるわけではないが、どっちにしろ女の子がパーティに入ってくれるのは大歓迎だ。
「僕のお姉ちゃんのおっぱいすごい大きいよね!」
え? このタイミングでそれ言うの? なんで?
俺は無視して自己紹介する。
「俺の名前はミズナ。こっちのふしだらな男は俺の弟、ヒカゲだ。君の名前は?」
「わ、私の名前は……」
「あ、本名はシーッだぜ。シーッ」
「あ、あわわ、そうでした。私の名前は、セピア、です」
自己紹介を終えると、セピアは被っていた白いフードを首の後ろに垂れ下げた。すると、ショートカットにした栗色の髪の毛が現れた。青い瞳が輝く顔を覗き込むと、まだ幼さが残っている顔つきだった。現実世界のヒカゲと同じ雰囲気が漂ってくる。そのため、視界内に二人を入れると、同じ雰囲気を持ってるからか、兄妹のように見えた。
「うし、じゃあ、改めてよろしく。セピア」
俺は握手をしようと手を差し出す。
俺はフルダイブゲーで誰かがパーティに入る際は、その人と握手をすることにしている。
ゲームとはいえ、他人という要素が大きく関わるゲームだ。人付き合いが苦手な人ももちろんいることだろう。そして、そんな人がパーティーを組まざる負えない時がある。
だから、なるべく握手をすることにしている。これをしておくと、理由は分からないがその後、その人が案外、すんなりと溶け込めるようになったりするのだ。それを実感して以来、俺はこれを心の中で、よろしくの握手と勝手に呼んでいる。
「はい。よろしくお願いします。ミズナさん」
セピアの小さな手が俺の手を握る。
安心したのか、彼女は自然と笑顔をこぼしていた。握手する手に、文字通り手応えを感じた。
「ところでミズナさん」
「うん?」
「ず、ずいぶん男っぽい喋り方するんですね」
しまった。いつもの調子でしゃべりゃあそう思うわな……ま、いっか。この方が楽だし。適当に誤魔化しとこう。
「あー……そう。そうなんだよねー。喋り方だけ父親譲りなんていわれる時とかあるからさー」
「あ、ご、ごめんなさい。気にしてましたか?」
「いやいや。全然、これっぽっちも。これはこれで需要があるらしいしね」
「じゅよう?」
「なんでもないです」
「セピアちゃん、セピアちゃん。僕ともほら、握手握手」
そう言って節操なく手を差し出すヒカゲ。勢い良く出した腕はピーンと伸びている。
まぁなんやかんや、俺も少しは回復魔法が出来るとはいえ、それほどじゃないしな。どちらにしろ回復役というのは必要だったかもしれない。このパーティなら上手くやっていけるだろう。
「その前に、ヒカゲくん」
「へ?」
その場で二人同時に、同じ声が出た。理由はわかる。
二人とも、セピアの雰囲気が一変したのを感じ取ったからだ。
そして、セピアは人差し指をビシッとヒカゲに向け、大声でこう言った。
「男の子が、女性の胸に向かってあんなことを言ってはいけませんッ!」
一瞬、その場の時間が、止まった。
突然、いや突然でもない女性なら至極当然の怒りの噴出に、俺達兄妹は圧倒されていた。
「いや、でも僕、おん……」
「わかりましたかっ!」
「は、はい!」
正体をばらしそうになったヒカゲを見事に言葉で押さえつけてみせる。面倒事にならずに助かった反面、俺の正体がばれたらえらい目にあうかと思うと、尚更この身体の誘惑に負けてはいけないと固く決心せざる負えなくなった。あとでヒカゲにこっそり正体ばらし禁止令を発令しておくべきだろう。
それよりも驚くべきはセピアの変わり身の早さだ。ヒカゲの、この胸に対しての発言が彼女の怒りのトリガーを引いてしまったらしい。だが代わりに、怪我の功名とも言うべきか。セピアがより俺達のパーティに溶け込んだような気がしている。
「よろしい。まったく、これだから男の子は」
面目ない。
「じゃあ、よろしくね。ヒカゲくん」
「う、うん。よろしくね。セピアちゃん」
こうして俺達は無事、パーティ結成の儀式を終えた。
「ミズナお姉ちゃん、握手」
「ん」
し忘れていた握手も無事に終え、俺達は人が行き交う街道に出た。
「さぁーて! いっちょ冒険に出かけますか!」
俺の呼び掛けに二人が答えようとしたその時、女性の声でアナウンスが流れた。
『午後三時より、イベントクエストを開始します。ご興味のある方は中央広場にお集まりくださいませ。詳細についてはソルテカランテ公式ホームページに記載されております。尚、クエストクリアの暁には、様々な報酬の中から一つを選ぶことが出来ます。ベータテスト後に引き継げる豪華アイテム、ゲームオリジナルの衣装、満点の星空を眺めながら入る露天風呂体験コースに……』
「ふーん、イベントねぇ……」
どうゆうことをやるのか、まったく分かっていないが恐らく最終的にダンジョンの奥にいるボスを倒す、という内容になっているんだろうな、と目星をつけた。
問題は、様子を見るにセピアもそうだと思うが、まだ冒険にも出ていない戦闘経験ゼロのパーティであることだ。出来ることならモンスターを倒す練習がしたいところだ。だが、時間を考えると行って戻ってくるのはなかなか難しいことではあった。
ま、二人に聞いたほうが早いってこったな。
「どうする? イベント、参加してみるか?」
「私は、どっちでもいいですよ。まだモンスターと戦ったことはないですけど、魔法の使い方はちゃんと覚えてきましたから。ヒカゲくんはどう?」
「うーん。僕は……」
『……スポンサーである楽往商店街から贈られる、トラベルレンジャー隊員と怪人フィギュアセットにさらに、実際に撮影現場で使われた採掘場を再現したパノラマセット引換券。こちらの報酬は、ショッピングエリアにて開かれているおもちゃ屋「夕暮れ」にて、とある手続きをしたあと、輸送し、実際にあなたの部屋に飾ることが出来ます。以上が本イベントの報酬となります。それではイベントへのご来場、心待ちにしています』
「行こう! お姉ちゃん! セビアちゃん!」
イベント告知が終わると、俺の予想通り、俺が返事をする前にヒカゲは猛ダッシュで中央広場へと走っていく。まるで風のようだった。
「はっはっはっ、行っちまったなぁ」
俺は暢気にその後姿を目で追う。隣を見ると呆然としたセピアがいた。
「ヒカゲくんて、ヒーローが好きなんですか?」
「ものすごい好きらしいぜ」
「ふーん……じゃあ、目的は決まりましたね」
「ああ、そうだな」
「行きましょう、ミズナさん。ヒカゲくんのお手伝いに!」
「おうよ!」
意気投合した俺達は、イベント会場へと歩き始めた。
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