3話目 登場人物は語らない
「その姿、君は学生だろう? 早く家に帰りなさい。ここら辺は盗賊が出やすい。一人で歩いていては危険だぞ」
「ええっと、そうですね。良ければ人が多い安全なところまで一緒についていってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わんよ。私の車がそこに停めてある。準備が出来たら乗りなさい」
ともかく。俺は中年と二度目の出会いを終え、その場から離れる事にした。
中年の後ろを追い、少し歩くと、そこには古い軽自動車が停めてある。車内に乗り込むと、中年はエンジンをかけて車を走らせた。
「御親切にありがとうございます。えっと、あそこで何をしていたんですか?」
俺の問いに少々考え込んだ後、中年は首を傾げ答える。
「それが……、私にもよく思い出せない。何か重要な予定があったような……」
重要な予定と言うよりは役割と言った方が正しいだろう。俺の予測ではこの中年は俺を運ぶため、世界の説明をするためだけに作られたキャラクターだ。さぞ偶然を装って登場したが、とんでもない。それは必然のご都合主義だ。
「それにしてもこの世界にも盗賊なんで輩がいるんですね。……少しはファンタジー要素があるのかな?」
「ファン……? なんだって?」
「あ、ああ。いや、なんでもないです!!」
「ふむ。一人であんなところをうろつくなんて感心しないぞ。盗賊の事くらいどこかで耳にしているだろう?」
とは言っても――
俺はポケットの中をまさぐる。
財布は愚かスマートフォンすら入っていない。つまり――
「まあ俺、盗られるものなんて持ってないから襲われても問題ないんですけどね」
そう、俺の所持品は何一つない。
冗談のつもりでそう笑ったが、中年の目は真剣なままに俺に注意を促す。
「奴らが盗るのは物じゃないよ……。危ないところだった。少しは自覚しなさい」
物じゃない? じゃあ他に一体何を盗ると言うのだろう?
「奴らが盗る物はアイデア。それを如何にも自分が思いついたかのように世に流す。まったく、悪どい連中だよ」
「盗作って事……ですか?」
「ああ、世界には正しい人間、清い人間だけとは限らない。他人の作品を盗む者、相互フォローにより成り上がる者、中にはアカウントを大量に作って自演行為に手を染める者もいる」
ちょっと待て待て!! じゃあこの中年ってもしかして……
「あなたはもしかして投稿者……、作家なのですか?」
「ふむ。そうであり、そうでない。キャラクターは作家の半身。作家の知りえる情報以上の事は決して語らないし知りえない。そんな無数のキャラクターが――」
その時。
車が急停止し、俺の付けていたシートベルトがピンと張られた。
突然の衝撃に一瞬胸を締め付けられ呼吸が止まる。
「ゲホッ!! な、なんなんですか急に!!」
「あ、ああ……。済まない。急に人が飛び出してきたもので……」
フロントガラスから前を覗くとそこには一人の少女が立っていた。
どうやら道端から急に車の前に飛び出てきたようだ。
急停車したおかげでなんとか接触せずに済んだものの、少女は口を大きく開け泣きそうな顔をしている。どうやらかなり驚いた様子である。
中年はドアを開けその少女に近づいた。
俺も釣られて外に出る。
「危ないぞ君! ケガはないか?」
口をパクパクさせながらなにか言いたげな少女。
一体どんな理由があれば急に車道に飛び出てくるのか。俺はそれを直ぐに知る事になる。
「あ……う……」
「それにしてもどうしてこんなところに一人で――」
「と、盗賊ーーー!!」
少女が叫んだ時にはすでに遅かった。
俺達は中年の危惧していた盗賊たちに囲まれていたのである。
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