ぼくのプレゼント

こんぶ煮たらこ

ぼくのプレゼント

「ツチノコ、海に行きませんか」


ある日いつもの様に地下遺跡に遊びに来たスナネコがそう言いました。

でも当のツチノコはあまり乗り気ではないようです。


「…断る」

「えーどうしてですか?」

「俺はここにいるのが落ち着くんだよ」

「たまにはぼくのようにおひさまの光を浴びないとからだに毒ですよ?」

「…お前は夜行性だろ」

「はい」


早くも飽きてしまったのかスナネコは冷めたようにそう言いました。

熱しやすく冷めやすい…そんなスナネコの事だからどうせ今回も飽きたらすぐ自分の住処へ戻っていくだろうと思っていたツチノコでしたが…。


「困りましたね―。博士達が海の近くの洞窟に遺跡っぽいものを見つけたと言っていたのですが…」

「なにぃッ!!?」


ツチノコの目がギラン、と光ります。

そう、ツチノコは何よりも遺跡が好きなのです。


「よしッ!!行くぞ!!さっさと準備しろ!!」

「え、行くってどこにですか?」

「決まってんだろッ!!う、み、だ、よ!!」

「おぉ~」


ようやくスイッチの入ったツチノコを見てスナネコも目を光らせます。

そう、スナネコもまたころころと表情の変わるツチノコを見るのが何よりも好きなのです。

















「これとこれと…あとこれも持っていくか」


出発は今日の夕方。

いくら夕方とあっても砂漠を越えるとなると暑さに弱いツチノコにとっては容易な事ではありません。

それまでに入念に準備を整えます。

探索用のかばんの中にジャパリまん、水、ロープと様々なものを詰め込んで…。

ふぅ…とようやく一息ついた時、ポケットからチャリンと音を立てて何かが落ちました。



「あぶないあぶない、こいつを忘れるところだった」



かばんちゃんとサーバルが初めて遺跡にやってきた時に拾ったジャパリコイン。

ツチノコにとってこのコインは他のコインとは違う特別なものです。

あの日からツチノコの生活はガラリと変わってしまいました。

元々外にも出歩かず誰とも接点を持たなかったツチノコ、そんな彼女でしたが奇妙なことにかばんちゃんと出会ってから不思議と遺跡を訪れるお客さんが多くなっていったのです。

初めはスナネコ、次に帽子泥棒を追っているというアライグマとフェネック…そして気が付けば自ら外に出て沢山のフレンズと一緒にパークの危機に立ち向かいました。


そんな出会いや感謝を忘れないために今でもこのコインは大事に持ち歩いているのです。



「なんですかそのコイン」

「…ん?これはジャパリコインと言ってだな……ってう゛お゛わッ!?い、いつからそこにいた!!?」

「ツチノコが準備をしている辺りから…」

「最初からかよッ!!」

「それよりそろそろ行きませんか~。ぼく待ちくたびれちゃいました」

「まだ外は暑いだろ。もう少し日が落ちるのを待て」

「むぅ……。ツチノコだって早く遺跡に行きたいのではないですか?」

「そ、それはそうだが…」


ちょっと早いように思えましたが準備も終わったのでツチノコは重い腰を上げると立ち上がりました。



「お前また途中でまんぞく…とか言って帰るなよ」

「?ぼくはツチノコといられるだけでまんぞくですよ」

「そ、そういう意味じゃなくてだなぁ…」




ぽりぽり、と頭をかきちょっと照れ臭そうにするツチノコ。

さぁいよいよ海に向けて出発です。















「ぜぇ……ぜぇ……」


太陽の日差しが真っ直ぐツチノコのからだに降り注ぎます。

時刻はちょうどお昼を回った頃でしょうか…どうやらふたりは運悪く一番暑い時間帯に出発してしまったようです。


「や…やっぱりもう少し待ってからの方が……」

「うみ、楽しみですね~」

「はな゛しきけよッ!!う゛っ…!?」


急に怒鳴ったせいで頭に血が上り、更にツチノコの体力に追い打ちをかけます。

そしてとうとう耐えきれなくなったのかツチノコは砂の上に倒れてしまいました。


「あ、ツチノコ大丈夫ですか」

「お、オレはもう無理だ……一歩も動けん……」

「じゃあちょっとあそこで一休みしましょう」



運良く見つけた洞穴、そこにツチノコを運ぶとスナネコは隣にちょこんと座りました。

陽の光を遮れる洞穴は砂漠にとってちょっとしたオアシスのようなものです。



「大丈夫ですか?」

「た、頼む……水を……」

「お水ですね。分かりました」


ツチノコに言われた通りかばんの中を漁ります。




がさごそ、がさごそ…




「うひぁ」



突然スナネコが素っ頓狂な声を上げてかばんを放り投げました。

どうやら中に入っていたペットボトルに驚いたようです。


「これ、捨ててもいいですか…」

「バ、バカ言うな……。それを早くよこせ」

「で、でもこれあんまり触りたくないというか…」

「……?あぁ、そう言えばネコは何故か水の入ったペットボトルを嫌がると聞いた事があるな…」

「おぉ~どうりで」


しかし感心している場合ではありません。

今はツチノコが干からびてしまう前に何とかしてこのペットボトルに入った水をあげないといけないのです。

しかしペットボトルを触った事のないスナネコにとってキャップを捻って開けるというのは至難の業。

仕方がないのでキャップの部分を爪で切り取りツチノコの口元へ持っていきます。


「ツチノコ、お水ですよ。あーんしてください」

「う…うぁ……」


しかしツチノコは中々口を開けてくれません。

心なしかさっきより顔色もよくないように思えます。

さすがのマイペースなスナネコもちょっと焦りはじめました。


「う~ん…そうだ」


何かを閃いたスナネコ。

すると持っていたお水を何と全て自分で飲み干してしまいました。

これにはダウンしていたツチノコもビックリ!


「お、おい…!?何でお前が飲んで…んぷっ!!!??」


突然ツチノコの口にふわっと柔らかい感触が伝わってきました。

くちびるとくちびるが引っ付き一瞬何が起こったのか分からなくなるツチノコ。

すると今度は一気にスナネコのお口からさっき飲んだはずのお水が流れてくるではありませんか。

そう、スナネコは自分で飲む事が出来ないツチノコの為に口移しでお水をあげたのです。


「な゛ッ!?ななな何゛や゛っ゛て゛ん゛だオ゛マ゛エ゛ぇ゛ぇ゛!!!?!!?」

「おぉ~もう元気になった」


全く状況が読み込めず困惑するツチノコ。

そんな彼女をよそにスナネコはさらにたたみかけます。


「じゃあ次はもっと元気が出るようにジャパリまんを食べさせてあげますね」モグモグ…

「い、いやもうよくなったからだいじょう…んむぐぅぅぅ!!?!?」









「ふぅ…まんぞく…」


スナネコの手厚い介抱によりどうやらツチノコの“体調”は無事元に戻ったようです。


「やっぱりツチノコは見ていて飽きないのですきです」

「………お…俺はもうお前がトラウマになりそうだ……」

「でもあんまり無茶はしないでくださいね。ツチノコが倒れちゃった時ぼくどうしようかと思いました」

「元はと言えばお前が…」


そこまで言いかけてやめました。

確かにスナネコが海へ行こうなんて言い出さなければこんな事にはならなかったかもしれません。

ですが彼女も彼女なりに考えて一生懸命介抱してくれたのです。

そう考えるとどうしても怒る気になれませんでした。


「べ、別にオレはあれくらいでくたばったりなんかしないけどなッ!」

「相変わらずツチノコは素直じゃないんですね〜」

「なッ!?そういうんじゃねぇ!!」

「分かってますよ。ツチノコ、海に行ったらいっぱいお水かけっこしましょ」

「あ!?おい、待て!!」




さぁ目的地の海までもうちょっとです。















『おぉ~』


白く輝く砂浜に雲一つない晴れ渡る空、そして先の見えないどこまでも続く青い海…。

その久しぶりの解放感に思わずふたりは声を揃えて口を開きました。



「見てくださいツチノコ、この砂ぼくんちの砂漠と随分違いますよ」

「お、おい!あんまりはしゃぐと転ぶぞ!」

「平気ですよ。ぼくスナネコですから……わぷっ!?」


流木に躓いたスナネコが頭から砂浜にダイブしてしまいました。

言わんこっちゃない…とツチノコが駆け寄ります。



「何これ~きれー」


しかし当のスナネコは転んだ事など気にもせず何かを見つけたようです。

ツチノコも近づいてみるとそこには水色や緑、茶色など色とりどりの透き通った石が光っていました。


「何でしょうこれ。サンドスターみたい…」

「あぁ…それはシーグラスと言ってだな…」

「わぁ~こっちにもたくさんありますよ」

「だからきけよッ!!」



割れたビンやガラスなどが長い年月をかけて海をさまよい、やがて石のような形になってできるというシーグラス…。

どうやらスナネコはその神秘的な魅力に取り憑かれてしまったようです。

それから暫くツチノコはシーグラス集めに夢中になるスナネコを黙って眺めていました。

あのスナネコが珍しく夢中になっている…不思議な事もあるものだとツチノコは思っていましたが、すぐにその理由が分かりました。



「ふぅ…まんぞく…」

「(お、ようやく飽きたか…)一体何をそんなに夢中になってたんだ…ってこれは…!?」







そこにはシーグラスを集めて作られたツチノコの顔がありました。

日の光に照らされたそれは、まるで本当にサンドスターを受けた新しいフレンズのように煌々と輝いていました。







いつもスナネコに振り回されてきたツチノコ


いつだって自分勝手で自由気まま、飽き性で熱しやすく冷めやすい


今日だってまたどうせろくな事にならない…そんな風に思っていました


でもそんな彼女を何故かツチノコは嫌いになれなかったのです


それはスナネコがいつもどこかでちゃんと自分の事を想ってくれていたから


そんな真っ直ぐで素直なところが好きなのだとようやく気付いたのです


今までずっとひとりで誰ともかかわらずに過ごしてきたツチノコだからこそ、彼女の目に見えない優しさに気付けた


そんな事を考えてるとつい目頭が熱くなってきて…








「クソッ…!!それならオレはこうだ!!」シュババババ

「おぉ~これはぼくの顔ですか?やりますね、じゃあ今度は…」















「ここすき…」

「あぁ…そうだな。綺麗な夕日だ」


ひとしきり遊び騒いだふたりは海岸の砂浜に腰を下ろしました。

気が付けばあんなに高く上っていたお日さまももう海の向こう側に沈みかかっています。


「また遊びに来ましょうね、ツチノコ」

「…フン。気が向いたらな」

「ツチノコ~尻尾がぶんぶん動いてますよ〜?」

「なッ!?ちが…!これは生物学的な生理現象であって別に嬉しいとかそういうんじゃ…!!」







そんないつものやり取りが大好きなふたりぐみ。

次の日ツチノコのポケットの中にはしっかりとジャパリコインと一緒にキラキラ光る新しいたからものが増えていましたとさ。


おしまい

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