証拠
「えええええっ゛……え゛え゛え゛え゛え゛え゛……なんでぇ゛? なんでぇ゛? なんでぇ゛?」
「おお、よしよし。男がもう泣くなよ」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ、え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛んっ」
「よしよし、いい子ねぇー……いい子だから……はぁ……参ったな」
実に30分以上。困惑するバレリアの豊満な胸の中。
まるで、赤ちゃんのように駄々をこねて、ガチ号泣をかます16歳(男)。響き渡る彼の絶望は、観客たちの母性を動かした。
「ふざけんな、卑怯者!」「可愛そうだろう! 何を考えてるんだ!?」「これで、一生奴隷なんて酷すぎるだろう!」「人の心はないのか貴様には!」「異常だよお前は! 絶対にこんなのは認めない!」「あんなに泣いてる16歳初めてだよ、もう許してやれよ! 人でなし」
観客たちが一斉に吠える。
しかし、ヘーゼンは平然としながらため息をつく。
「うるさいな。別に君たちのためにやった訳じゃない。それに、文句があるんだったら同条件で相手になるよ? ここは、実力主義の学院。勝者には、僕も喜んで従う。そうだね……できれば、有力貴族の御曹司との決闘を希望するね」
「「「「「……っ」」」」」
全員が一瞬にして黙った。
等しく誰も、こんな異常者と単独で絡みたくない。ましてや、敗北などすれば、人生はもはや終わり。同情はするが、同じ目には断固として遭いたくない、無力な観客たちである。
しかし、そんなブーイングにビビったのが取り巻きたちだった。さすがにやり過ぎたと思ったらしく、マードックがおちょけた笑みを浮かべる。
「えっと……あの、ヘーゼン。その、そろそろ許してやったら? なあ、俺たちも気が済んだし。なあ?」
「「「「あ、ああ」」」」
カクカクと頷く取り巻きたちを確認し、マードックは観客に向かって叫ぶ。
「み、みんな! 聞いてくれ! さすがに俺たちも、そこまで非道じゃない。これは余興で、本当の勝負はこれからなんだ」
!?
その時、ヘーゼン以外の全員が、マードックの声に反応した。セグゥアもバレリアの豊満な胸で泣き暮れていたが、ガバッと顔を上げた。
しかし、それ以上に。教師であるバレリアが、いち早く、そして必死な表情で尋ねる。
「ほ、本当か!? 絶対にか!?」
「へ、へへ……もちろんですよ、先生。俺たちもさすがに、クラスメートを奴隷堕ちまでさせるわけないじゃないですか。『さすがに酷いね』って話、ヘーゼンとはしてて」
「は、ははは……なんだ、そうか。おい、悪ふざけが過ぎるぞ」
「へへ……すいませーん。でも、これで、まあ『一生奴隷』って条件はなしってことで。お互いに謝って、後腐れなし。後は、正々堂々とタイマンでね」
爽やかな表情で、ウインクをしながら。マードックが親指を立てる。すると、再び観客たちからの歓声があがる。
「はぁ……そう言うことか。粋なところあるじゃないか」
バレリアは、心底ホッとしながらギュッと抱きしめられているセグゥアの頭をナデナデする。
「よかったなー。本当に、よかった。さっ、もう泣くな。いい子だから」
「……っ」
正気に戻って、セグゥアは顔を赤らめる。赤ちゃんみたいに、喚いて、叫んで、バレリアの胸で泣き暮れていた。慌ててバレリアの胸から離れて、ヘーゼンに向かって叫ぶ。
「ふ、ふざけるなよ! やっていいことと悪いことが――」
「マードック、なんのことだい?」
!?
「えっ……だって、ほら! 約束したじゃん!」
マードックは、観客とヘーゼンを交互に見ながら答える。
「覚えがないな。そもそも、僕が提示した条件なのに、『酷いね』って。作り話にしても、意味がよくわからない」
「う、嘘だぁ! 言ったって!」
「書き物は?」
「えっ……いや、口頭だったじゃん」
「目撃者は?」
「な、何言ってるんだよ! 2人っきりだったじゃん!」
「じゃ、それは口約束ってヤツだから、守らなくてもいいやつだ。当たり前だよね、僕は言ってないんだから」
「……っ」
コイツ、頭オカシイ、と全員が思った。
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