複属性
魔法実技の時間。教師はバレリアである。元々、彼女は帝国で有能な宮廷魔法使いとして有名だったようだ。そこを学長のウォルドに引き抜かれて、現在は教職についているという訳だ。
「では、君たちの魔法を見せてもらおうか」
バレリアは腕を組みながら、弾けるような笑顔を浮かべる。生徒たちは次々と練習用の魔杖を選び、それぞれの属性の魔法を放って行く。
「次、エマさん」
「は、はい」
多少、引き立った声をあげて、ミディアムヘアの美少女は魔杖で炎を放つ。それは、他の生徒たちよりも遥かに巨大な炎の塊だった。
「ほぉ。なかなか練習しているようだね」
バレリアは感心したような声をあげ、エマは恥ずかしげにうつむいた。そして、次はカク・ズの出番になった。巨漢の少年が、生徒たちの前に出た時、バレリアがふと視線を止める。
「君は……少し見た目が変わったな」
「そ、そうですか? ギシシシシッ」
「いつも通りのデブじゃないですか?」
外野からヤジが飛んできて、ドッと笑い声があがる。カク・ズが恥ずかしそうに顔を真っ赤にする中、ヘーゼンがその笑い声を嘲るように笑った。
「クク……先生はやはり、お目が高いですね。わかりますか?」
「贅肉が筋肉に置き換わりつつあるな。しかも、相当な密度だ」
「適度な栄養と適度な訓練で素地を造りました。今ならば、軽く200kgのヤジ鋼も片手で持てるほどです」
「……なるほど。それを、君が施した訳だね、ヘーゼン君?」
「多少のアドバイスはしましたがね」
興味深げに眺めるバレリアの視線を、ヘーゼンはものともせずに笑う。
「ちょ、ちょっと先生! 筋肉がどうとか、今は魔法実技の時間で関係ないでしょう!?」
先ほどのヤジと言い、恐らく成績トップのセグヴァが取り巻きに言わせてるのだろう。
「ああ、失礼した。ではカク・ズ君。頼む」
「はい……はあああぁ!」
「なるほど、君は土か。結構」
カク・ズが放った先で、地面が大きく盛り上がり、大木ほどの高さまで到達した。性質変化によって、魔法の適正がわかる。土の魔法だと、木と金の間ほどの位置だろう。
「次は……おっ、セグヴァ君か。見せてくれ」
「はい」
行儀良く返事をした彼は、風の魔杖を使用して竜巻を巻き起こす。
「ふむ……やはり、君とエマさんが一つ飛び抜けているな。結構」
「先生、僕はもう一つできるんでそちらも見せていいですか?」
「おお、その年で、複属性持ちか。すごいな。ぜひ、見てみたいな」
「ありがとうございます」
セグヴァはヘーゼンをチラ見して、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、小さな雷を大木に落とす。
「なるほど。複属性の威力も中々だな。結構。では、次。ヘーゼン君」
「はい」
黒髪の少年が立ち上がって、魔杖を選んで持つ。
「……ん? なにをやってるんだい?」
「なにって、魔法を放つんですけど、どうかしましたか?」
怪訝な表情を浮かべるバレリアに、ヘーゼンは尋ねる。
「いや、私が言いたいのは、なぜ両手で魔杖を持ってるのかという事なんだけど……まさか、君も複属性が扱えるってことか?」
「そうですね。まあ、見てて下さいよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。地面に置かないのか?」
慌ててバレリアが制止する。
「置く? 申し訳ないんですけど、地面に置いたまま魔法を放つ技術は僕にはないんです。むしろ、遠隔で魔杖を操る技術があるのでしたら、是非ともその方法を教えてもらいたいですね」
「そ、そうじゃなくて! 2つの魔杖を持ちながら、実技。やるのか? と聞いている」
「……すいません、言っている意味が。今から、それをやろうとしているのですが」
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