バレリア
バレリアには言っている意味がわからなかった。今、ヘーゼンがやろうとしていることが、異常で異様な事だからだ。確かに、この大陸でも魔杖を同時持ちで使用する魔法使いは存在する。
だが、生徒の段階でそこまでの魔力操作を駆使できるなどとは聞いたことがない。四拍のミ・シルですら、両手持ちで魔法を使用し始めたのは22の頃だ。
「えっ……と、ではヘーゼンは同時に別属性の魔法を使用するってことでいいのかな?」
「だから、そう言っているでしょう? と言うか、見ればわかることだから早くやってもいいですか?」
「……っ、どうぞ」
そんなバレリアの驚愕をよそに、ヘーゼンは淡々と魔杖を両手でかざす。すると、中心に炎の柱を精製し、風を起こして竜巻を精製して放つ。
「炎の……竜巻」
セグヴァが、青ざめた表情をしながらつぶやく。
「すいません、修練不足であまり質の良い魔法にはなってないんですが、今自分ができる精一杯はこの程度です」
「……なるほど。結構。ヘーゼン君、下がってくれ」
バレリアから先ほどの余裕の笑みが消え、不穏な表情を浮かべながら指示をする。
「な、なんか不味かったかな」
「……むしろ、不味いこと意外に君はやらないから、もう慣れた」
隣のエマは、そっぽを向きながら答える。
「ふっ……き、器用貧乏なやつだ。そんな威力の低い複属性魔法見せられても、なんにも凄くないんだよ!」
「ああ。君の言う通りだよ。恥ずかしいから、あまり口にしないでもらえると助かるな」
「くっ!」
セグヴァが悔しそうな表情を浮かべながら唇を噛む。
確かに、魔法の威力はそこまで強くない。エマや、セグヴァの放ったそれの方が遥かに効果的である。しかし、同時に異なる属性の魔法を放つことは、異次元の魔法操作技術を必要とする。
そうであるが故に、セグヴァはわざわざ魔杖を持ち替えて、精神統一の時間をかなり取って、より小規模の複属性魔法を放った。学生の身分ではそれで十分だし、むしろそれ以上は望むべくもない。
宮廷魔法使いのバレリアですら、そんな芸当ができはしない。そんなものをむざむざと見せられ、彼女の心中は穏やかではなかった。生徒の前で動揺しまいとはしつつも、身体に巻き起こる震えが抑えきれない。
授業終了のチャイムが鳴った時、バレリアはすぐにヘーゼンの元へと駆け寄ってきた。興味深げで楽しそうな表情で、教師らしからぬ距離感でグイグイと近づいてくる。
「君はいったい何者だ? 先ほどの魔法といい。ダーファン先生のところでもやらかしたんだろう?」
「やらかした? なんのことですかね。僕は真面目に、普通に授業を受けてるだけですけど」
「自覚がないのか……それとも、本音を隠してるのか、判断に困るところだね。しかし、複属性持ちは器用貧乏にもなってしまうから気をつけなさい。まあ、少なくとも君が常人の魔法使いであると言うことは考えにくいが」
「言うまでもなく、魔法の威力は伸ばしていくつもりですよ。ただ、属性の感覚は若いうちに覚えておかなければ、歳を経るごとに柔軟性がなくなっていくような気がします。だから、他の属性の感覚を覚えてから、威力は強くしていくことにしてるんですよ」
「その理論は本かなにかで書いてあったのかな? かなり、一般常識とはかけ離れているが」
「経験則ですよ」
「……クックック、なるほど。君が言うと、確かにそんな気もしてくる。期待しているよ」
そう言い残して、バレリアは去った。
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