ビュッフェ
昼休み。そろそろクラスにも、まばらにグループができ始めた。ヘーゼンはエマとカク・ズとともに3人で集まって昼食を共にする。
テナ学院の昼食は、ビュッフェ方式である。基本的におかわりは自由なのだが、割と裕福な層が多いので、がっつく者は少ない。
「な、なにその異常な分量は?」
「ん? カク・ズの分だよ」
タケク鳥の丸焼きを10kg。恐らく、クラスメート全員用に作られた料理を問答無用で、机に置く。
「ほら、君はこれを食べるといい。残しては駄目だよ」
「み、みんなこっち見てるじゃない!?」
「そう? 僕は常に注目を浴びることに慣れてるので、そんなに気にならないな」
「……っ」
きっと、こんな事ばかりやってるからだと、エマの心労は溜まり続ける。一方で、カク・ズもまたこの量を見て唖然としていた。彼自身、かなりの大食いではあるが、これだけの分量は未知の世界である。
「午前中はひたすら走って、筋トレしてただろう? でも、それだけでは優秀な戦士にはならない。筋肉を司るのに最も重要なたんぱく質を多く摂取しなくちゃ。料理長には頼んでおいたから毎食最低でもこれぐらいは摂取すること」
「ま、毎食!?」
「その分、動いてカロリーを摂取しないと、胃袋が破裂して死ぬから気をつけてね」
「気をつけるポイントがもはや意味不明なんですけど!?」
ガビーンとツッコむエマを尻目に、ヘーゼンもまた料理に手をつける。
「……自分の料理は普通の癖に」
「失礼な。僕だって、君みたいに欲望に駆られて貪り食ってる訳じゃないよ」
「い、言い方が失礼すぎる! 私だって、ダイエットしてます!」
「見たところバランスが悪すぎるな。それじゃ、次の授業でいいパフォーマンスを発揮できないよ」
ヘーゼンの料理には、魔力補給が効率的にできるクナグ草のサラダ、脳の働きをよくするシルキ貝の煮込みなど、魔法使いとして必要な栄養が入った料理が並べられている。他にも、たんぱく質、ビタミン、糖質、脂質等の栄養素がバランスよく摂取できるように考えられている。
「じ、自分だけ。カク・ズの料理はたんぱく質と糖質がふんだんに入った超筋トレメニューなのに」
「物事には向き不向きがある。彼は優秀な戦士になれる素質があるからそのようなメニューにするべきなんだ」
「カク・ズだって、まだなりたいって言ってる訳じゃないのに!」
「仕事はなりたいかどうかじゃない。適正があるかどうかでその価値が決まる。仮にカク・ズが優秀な魔法使いになりたくてそれを目指したところで需要がない。それだったら、優秀な戦士になる道に行った方がいいに決まっている」
「……っ、勝手に人の進路を決めないでよ!」
エマは机を叩いて、顔をヘーゼンに近づける。そんな怒れる美少女を前にしても黒髪の少年は平然と料理を口に運んでいく。
「僕は、君の進路を決めている訳じゃない。それに、最終的に決めるのはカク・ズだと言うこともわかっている。もちろん、従わない選択だって僕は受け入れるよ。なあ、カク・ズ?」
「どっちなの、カク・ズ? いやなら、嫌ってハッキリと言ってもいいのよ?」
「う、う゛ーーーっ」
ヘーゼンとエマ。どちらにも、睨まれて巨漢の少年は悩む。
「お、俺は……2人が仲良くなってくれればいーなーって思ってる。ギッ、ギシシシシ……」
「ほら、じゃあ僕の言う通りだ」
「そんな事を言ってないじゃないの!?」
2人の口論は、ビュッフェが終わるまで続けられた。
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