教室
教室へと戻ると、すでに他の生徒たちは作業をしていた。ダーファンはそれを見て回って、アレコレアドバイスをしている。粗雑な性格だが、面倒見はいいようだ。典型的な職人気質なのだろう。
「おぅ、素材は集まったようだな」
ダーファンは各々の素材を見つめながら、ヘーゼンが持ってきた枯れ木に目を止める。
「……お前は、なぜこれを選んだ?」
「理由は2つ。一つは闇属性。そして、もう一つは大量に転がっていたこと。これならば、いくらでも失敗ができる」
「失敗前提で作るのか?」
「失敗ができないと、思いきり作れない」
ヘーゼンは迷いなく答えた。カク・ズが選んだヤジ鋼は耐久性があるので、そうそうは壊れない。エマが選んだリルサの木は、有名な素材なので、取り扱いのノウハウがある。そのどちらにも類さない素材は失敗前提でないと、良いものは作れない。
「……なるほど。いい考え方だ。じゃあ、次の行程に行くか。『形造り』、素材をどんな形にするか。それぞれ考えてみろ」
「指定はないんですか?」
「ない。杖と冠してはいるが、剣のような鋭利な形状でも、盾のような形状でもいい。お前がしたいような形状を思い浮かべて自由にするのがいい」
「なるほど。面白いですね」
すなわち、この工程にはセンスが問われるということだ。同時に、魔杖というものが、宝珠の強弱のみでなく、相当なオリジナリティのあるものであると理解した。
「まあ、市販品みたいな魔杖を指導するやつもいるが、面白くねぇからな。基本は重要だから、間違ってはいないが」
「例えば、自身が望む形状にしたとして、望んだ性能を引き出せるものなんですか?」
「それは、腕次第だ」
「……なるほど。わかりました」
いかにも、職人らしい答えだ。ヘーゼンは机に戻って作業を再開する。枯れ木を素材にしたときからイメージは湧いているので、後は具現化するだけだ。そんな中、カク・ズが困った様子で佇んでいるのを見かけた。
「どうした?」
「……ヘーゼンは、どんなのがいいと思う?」
「君は特性を活かして、防御特化のがいいと思うな。例えばこんな感じで……」
ヘーゼンは洋皮紙にスラスラとイメージを描く。それは、魔杖自体が鎧へと変形するような設計だ。
「……それは、ただの鎧じゃダメなのか?」
「あくまで、魔杖として使用するなら鎧に魔力を込めることができる。拳にもね」
そんな風に説明していると、ダーファンが近づいてきて、ヘーゼンが書いた洋皮紙を覗き込む。
「……お前の両親は設計士か測量士か?」
「いえ」
「なら、なぜこんなものが描ける?」
「こんなものとは?」
「お前が描いた魔杖は、紛れもなく本物の仕事だ。ただの生徒が描くそれじゃない」
「それは、誉め言葉ですか?」
「……異常だと言ってるんだ。お前……何者だ?」
「他国の間者とでも? 馬鹿馬鹿しい、ただの生徒ですよ」
睨むダーファンの目を逸らし、ヘーゼンは製図を再開した。
「……これは?」
「ああ。カク・ズの魔杖のイメージです。別に友達へのアドバイスは違反ではないでしょう? 自分のものも、キッチリと仕上げますよ」
「そんなことを言ってるんじゃない。これは、どのような効果を狙っている?」
「彼は肉弾戦の戦闘特化型に育て……コホン。になると思うので、全身鎧のような魔杖を考えてます。魔力が篭った鎧は、魔法にも耐性が強いと思いますし。欲を言えば、右手と左手が空くので、なにか他の巨槌などの形状の魔杖も……」
「まだ待たせる気なの!? カク・ズ死んじゃうわよ!」
隣で聞いていたエマが思わずツッコむ。
「平気だよ。200kgと言えど、全身鎧だから」
「説明になってない!?」
「むしろ、もっと早く動けるように、カク・ズは明日からこのヤジ鋼持って、グラウンド10周だね」
「可愛い声でなんて事言ってるの!?」
そんな風に口論していると、ダーファンはフラフラとその場を後にした。
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