森
ハリの森。カク・ズを置き去りにして、ヘーゼンはエマと共に素材を探す。どうやら彼女にはアテがあったようで、その歩調には迷いがない。一方で、ヘーゼンは未だ周囲を物色する。
「あっ……あったあった。このリルサの木は、収縮性があって加工もしやすいの。杖の枝にはかなり良い素材だと思うの」
「……なるほど。いいんじゃないかな」
機能面で選ぶ。確かにその選択が真っ当であると言える。だが、どうにもヘーゼンにはしっくりこない。
「ゴムなんかのような素材も面白いと思うけどね」
「……うん」
「何かをかけ合わせてもいいって。例えば、ヤジ鋼とリルサの枝とか」
「……うん」
「ね、ねぇ! 聞いてる?」
「ああ。貴重な意見として聞いてるよ」
ヘーゼンは迷いなく答える。確かに、そのような選び方もある。だが、なにかが足りないような気がする。そんな中、光が刺さない沼地帯に辿り着いた。
「これは……」
「いや、それはただの枯れ木だから。名前とかもよくわからないし」
「……」
エマのツッコミも意に介さず、ヘーゼンの中ではフツフツとイメージが湧いてくる。確かに今にも崩れ落ちそうな脆さを持つ枯れ木だ。
「これにする」
「えっ!? こんなの、どうするの?」
「まだ、わからないけど。ピンと来た」
直感は大事だ。光の刺さない場所に生息していた枯れ木。そこには、闇と死の匂いがする。それは、どことなく懐かしい感じがした。そして、このような自身の感性は重要な強みである。
この大陸には、属性の魔法、特に光と闇が希少だ。自身が最も得意とするそれは、今後の戦いを潜り抜けていく上で大きな武器となるはずだ。
「でも、このままじゃ使えないでしょう」
「うーん……そこは、作りながらなんとか」
そんな風に思考しながら、話しながら、歩いていると、後からついてきていたカク・ズが3人に囲まれていた。かなり困った顔で、苦笑いを浮かべている。
「おい、知り合いか?」
「ギシシシシ……あっ……ヘーゼン。それが……」
「おお、ちょうどよかった。こいつ、話しが通じなくて。そのヤジ鋼をちょっと分けて欲しいって言ってたんだよ」
快活な青年が、笑顔で近づいてくる。セグヴァ=ドラコ。クラスの中心的なグループのリーダー格である。金髪でシュッとした輪郭と鋭い瞳を持つ。確か、この学院でトップの成績だったと思う。
「……このヤジ鋼は必要な分量だ。申し訳ないが、分けてはやらないな」
「こんな分量をどうする気だよ。必要ないだろう?」
「君たちにはな。彼にはいるんだよ。な?」
「あ、ああ。そう言うことだ。ごめんな、ギシシシシシシシ……」
幾分気おくれしながらもカク・ズは頷く。その回答に不満だったのか、セグヴァは、ヘーゼンとカク・ズを睨見つける。
「下賤なゼクセン民族が、皇帝直下のダルア民族に逆らうのか?」
「……なるほど、祖先のアイデンティティでマウントを取るタイプか。やっていることも交渉というより、恐喝に近い」
「なんだと?」
「君の流れる高貴な高貴な皇帝様の血は、他者を脅して問答無用に搾取することを是とするのか?」
「おのれっ! 我々を侮辱するのか!?」
セグヴァと残り2人が戦闘態勢を取る。しかし、ヘーゼンは意にも介さず、彼らに背を向ける。
「はぁ……別にことを構える気はなかったが。僕は君に質問をしているだけだ。カク・ズ、もう行こう」
「待て! 話は終わってない」
「話を打ち切ったのは君たちだろう? まあ、文句があるなら君たちらしく背後から攻撃するといい。僕らは正々堂々と一撃食らった後に、応戦するから」
「……っ」
そう言いながら。ヘーゼンはエマと、カク・ズともに歩き出す。仮にここで、背後から攻撃を受ければなす術もなく敗北するだろう。だが、流石に同じクラスメートだ。殺されはしない。
そして、背後から卑劣に攻撃をしたというレッテルを貼り、精神的マウントを取り、クラスメイトに流布して、貶めることができる。すでに、仲良くなれない間柄であることがわかった時点で、それは望む通りの展開だった。
結果としては、無事に3人は教室に帰ることができた。
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