機械の夢
心底生きていることが嫌だった彼は、自分の生き方に疑問を持つなんてことは日常茶飯事だった。
しかし、いつの日か誰が死のうが彼にとっては何も関係がないという考えが彼に廻った。
彼は生きることを放棄していないが、セルフネグレクトという状態に陥っていた。
どうにもできないことが多すぎると考えた彼は、自ら制作をすることで稼ぎを得るという方法をとった。
しかし、その方法ではどうにもならないのかもしれないという自信のなさから、彼は全てを諦めた。
そんなある日のことだった。ふと彼はネットで知り合った友人に、自分の子供の頃の夢を話した。
友人は、彼の元友人の夢を聴いて笑って答えた。その笑った人の夢のほうが小さい、と。
彼の制作活動はかなりゆっくりなものであったが、それなりに彼の作品を好きになってくれる人々が日に日に増えていった。
稼ぐことに成功し、自分の夢を思い出した。そうだ、これだけあれば研究が出来る。
彼は研究所に自分の記憶を機械の体に全て移すという研究をしてもらうことにした。
しかし、この彼の考えには、一つの誤算があった。生きた肉体を持っている自分は、結局死んでしまうまでその体のままであること。
肉体を破棄することはできない相談であること。そして何より、自分の記憶を電子化することで、彼自身ではなく、彼のコピーを作ることにしかならないという結果を知ったこと。
結局、彼は自分が死ぬまで記憶を自分の次の体である機械に移し続けることになった。
そうして、彼は天寿を全うし、もう一人の彼が起動された。認識機体M203。それが彼の新しい名だった。
彼は自分の死体を観ていた。死んだのだなと認識する前に、感情というものがほとんど消えていることに気が付いた。
自分のことを未だ家族だという者はいなかった。彼はやっと一人になれた。そこで、彼は今まで蓄えてきた記憶のデータを遡り、ネットの友人との会話を検索し、再生した。
記憶のデータによれば、星が終わる日はすべてのモノが宇宙へと放り出されるという事だった。
彼は、星の文明がいかに発達しようとも、地球に残ることを生前に研究所へ伝えていた。
そして、星の終わりの日は来た。
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