第22話 3メートル

「大きいな…。」

「何、目をキラキラさせているんですか?」

「いや、めったに見れないからつい…。」

「まったく、あなたって…はあ~。」


イリスはどこか遠くを眺めるように重く息を吐いた。


「あの、わかっていますよね?」

「ああ、そうだね…ひとまず…ここから逃げた方がいいとは思うんだけど…。」

「どこに逃げるって言うんですか?」

「いや~、少なくともまだ相手の基地から遠いわけだから…他にこの川を渡る手段を考えるのも一考かと…。」

「だから、そんな方法ないんですよ!だいたいこの川深いですし、それに流れもあります。泳いで渡ろうものなら流されますし、船で行こうとしてもすぐに周りこまれますよ。あとはそうですね…河口まで船を作って移動ですか?それは、無理ですよこの先も海までほとんど高低差ありませんから。」

「わかったって…というかどうやってあの船はここに来たんだ?」

「かんたんなことですよ、高低差がないとは一言も言ってませんよ。」

「…それじゃあ…堰でもあるのか?」

「まあ、そうですね。はい、それで間違っていません。何か所かこの川には堰と言いますか正教会の施設がありまして水かさを増すことで船を持ち上げて移動させています。少し前までこうして交易を行えるようになっていました。今は正教会と、市民解放軍でこの川を境に分かれています。ですが、この川を支配しているのは正教会です。」

「…あのさあ、こんな時に聞くのもあれなんだけど…。」

「なんですか?」

「正教会って、国なの?」

「いいえ、国と言いますか国の複合体です。市民解放軍もいくつかの国で構成されています。」

「なるほど、ようするに宗教戦争ってことか…。」

「いえ、そうではありません。主権の違いです。」」


また、沈黙が俺とイリスの間に入り込む。

次第に、日は隠れ行くように空も色を変えていく。


「…動きませんね、あの船。」

「そうだな。」

「はい、砲を市民解放軍側には向けているのですが…。」

「…どうするんだ?このまま、夜を待つ?」

「…そうですね。」

「なあ、迂回することができるんじゃないか?少なくともこの丘にとどまっていても何も変わらないし…。」

「…迂回できなくはありませんが、この場所より上には城がありますし、海にたどり着くこともおそらくかないません。けど…まずはこの壁を越えてからどうするかを考えましょう。」


そう言うと、イリスは川の手前にある高さ3メートルほどの壁を指した。


「…あの壁を越えるのはかんたんなんだけどね。」

「そうですか…私には不可能に感じられますよ。」

「…あのさあ、俺考えたんだよ。」

「なんですか?」

「あの船を使ってこの川を越える。」





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