第21話 第三の壁
「見えてきました、この河の向こうが私の領土です。」
「…この川を越えるのか?」
「はい…この川さえ越えてしまえば…。」
川といえば、せいぜい幅があっても20メートルほどだろう。
けど、そうじゃなかった。
「…あのさあ…この川どうやって越えて行くつもりなんだよ!」
目の前には、大河川が広がっていた。
とてもではないが泳いで渡るのは難しいだろう。
俺が昔訪れたキャンプ場の河原なんかとは全然違った光景だった。
橋は架かっておらず、水の中に顔を出している岩もない。
テレビ番組で見ていた中南米の河川のような光景が俺の目の前にはあった。
「ほら、見てくださいあそこに正教会の施設があります。
私がこっち側に連れて来られた時はあそこから橋を架けてこちらに渡りました。」
「それじゃあ、あそこに橋があるってことか…跳ね橋みたいなの?」
「いいえ、この川に沈んでいます。」
「えっ、いや待て待て沈んでいるって?」
「はい、おそらく橋自体はそこまで強固なものではないはずです。」
「いや、だからさあ…その沈んでいる橋をどうするのかって事なのだけど…。」
俺はかるくため息をついた。
あと少しですくなくとも俺はまっとうな生活にありつけるかもしれない。
でも、実際のところはどうだろうか。
なんで、俺は彼女、イリスを助けてしまったのだろうか。
正教会があのような…イリスという名の少女を傷つけていたとしても俺には何も関係がなかった。
むしろ、俺がそんなことしたせいで俺の希望とは違う方法に物事は動いている。
野宿だってしたくなかったし、いくら窮屈でも宿屋の方がマシなはずだ。
…そんなことは無いんだよな。
それじゃあ、また同じことの繰り返しだ。
俺は、別に上手く生きていきたいとは思ってなかった、ただ失敗したくはない…そんな事ばかり考えていた。
だから、家や学校での窮屈な暮らしもどこにも本音を語ることのできない社会もただありのままに受け入れていただけだった。
そして、俺は死体になった。
だから、今俺はあんな事をした。
それがどういうことになるのかはわからなかった。
だから、俺はそれに期待して今、こうしてこの場にいる。
だから、何としてでも前に進まなければいけない。
いくつかの数巡の間、思考の沈黙だけだそこに落ちていた。
けど、時間が物事を解決してくれるものだ。
無論、何もしなくてもいいわけではないが…。
遠くから汽笛の音が聞こえた。
「伏せて!」
俺はイリスの言葉に従い、地面に這った。
すると、俺の前に船が現れた。
黒色の船体、白色の環境、黄色と黒色の煙突、そして赤い三角形が描かれた旗があった。
「…河川砲艦、この近くに味方も…それとも壁を建設するための輸送船の護衛?」
イリスが小さな声で口にした。
そして、その船は俺とイリスの前に立ちはだかるようにその全容を現したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます