第19話 村の記憶

「おはよう…。」

「はあ~、全くいつまで寝ているの?」

「いいじゃん、別に!」

「だいたいあなたはねえ、もう17歳になったんだからしっかりしなさい。」

「はあ~い。」


これが私のいつも通り。

いつもと同じように朝起きて、朝食を食べ、服装と髪を整えて出かける準備をする。

そして、いつものように私は井戸に向かい、そこで友人達と話して僅かばかりの父の畑に手伝いに向かう。


それが、私にとっての世界だった。

この土地で産まれて、ここで死んでいく。

それが私にとってのすべてだった。


けど、それが違うことなのだと私は思い知った。

父が持って帰ってくる本の一つ一つが、そうであることを物語り。

父が持って帰ってくる物品が、確証として私の手元に溜まっていく。

中でも、香水は友人達の中でも憧れの品々で私達は父達が持ち帰ってくる品物の中から香水を探し求めたものだ。

気がつけば私が求めていた香水、美しの水、乳白色の粉は机を覆い隠すばかりに増えていった。

まあ、そんなこともあったわけで今では私より小さい娘たちもその時の私と同じように求めるようになった。


けど、どうやら私たちの親はそのことを良くは思っていないようではあったが、結婚のことを考えた時、美しい娘というのはやはり見栄えが良いということで次第にヒトの物といった考え方は薄れていった。

それどころか、母親達も香水を求めるようになっていった。

「うちの娘は最良ですよ~!」とか、そう言った感じで。

結婚式のための花嫁道具としても価値があがってきている。


そういうこともあり、最近では使うことも少なくはなった。

けど、香りを嗅ぐのは私にとっての何よりも楽しみだった。


そう、食事を終えて鏡台の前にいる前の私はまだ見られたことのないふやけた顔をしている。

そんな、私ではあるが結婚とかだって真面目に考えようとはしているし、本程度ではあるが、学はある方だっと、自分で言ってみる。

ここで、暮らすには「「学」」とかそんなものはどうでもいい。

むしろ、薬草とか罠とか「「知恵」」の方が重要なのである。


「…私、孝行娘だよね?」


鏡の中の私は、「そうよ。」っと言いたげに顔を少し逸らしていた。


「…結婚かあ…どうなんだろうね。」


じいさまや、ばあさまは歳を重ねていくのはとても辛いことだが、伴侶がいればそう苦しいことではないって、言ってた。


今は、その言葉を信じておくことにしよう。


まあ、あてにはならない気がするんだけどね。


そんなことを、考えていた。私の前に、彼らはやって来た。


「やあ、兵士さん何か御用ですか?」

「ああ、そうだな村長に会いたいのだが?」

「はははっ、いるわけないでしょ。それに、あんたらもアンタラだ。

他にお人は居ないのかい?」

「どうだろうね、私は話がしたいだけさ。いつここに戻ってくるのか知っているか?」

「すぐに戻ってきますよ。まったく、話だけならこの老獪が相手差し上げますよ!」

「さあ、どうだか?」

「ここから、出ていけ!」


(あれは、ディミトリスさん!)


エルフの青年が、兵士の前に立ち上がる。

しかし、傍から見ればひょろひょろの男が前に立っているだけだ。


そう見える…。

少なくとも何も知らない人にとってはだ。

エルフの外見は25歳程で、形作られ以後はその姿のまま一生を終える。

そう、ディミトリスという男性の歳は250歳で男性の中では長い方だ。

そして、私たちの寿命は一般では50~70歳だが、稀にその歳をゆうに超えるエルフがいる。

その一人が、今はあそこに立っているディミトリスである。

そして、彼の怒号を聞いた男たちが次から次へと彼の周りに集まった。


「どうした、私に魔法を使わせる気か?それとも、剣で切り裂くか?

やめておけ、次に転がっているのは貴様の首だ。」

「いや、そうとは限らないのだがね。まあ、あれだよ。この前みたいに力を出せればだが。」

「この前とは、いつのことだか…。来いよ、戦争には慣れっこなんだよ。この村の人々は。」

「そうですか、それにしてもいい村ですね。」


兵士はそう言うと、何事もなく彼を避けて前に進んだ。


「貴様らが匿っている者は何処だ!さっさと、姿を現せ!さもなくば、ここにいる村人を密偵とし処刑する。」


…それから、何が起きたのかはよくわからない。

気がつくとディミトリスさんは倒れていた。

それどころか、この村は正教会の兵士に囲まれていた。

私は、母に言われた通り屋根裏部屋に隠れた。


しばらくすると外からは、煙があがり誰かの声がした。

「何処だ!出てこい!」

「探したなら印を付けておけ。この家には、用はない。」

「なあ、兄さんまだ帰って来ないのか?」

「お母さん!」

「ほら、さっさと外に出ろ!」

「…やめて…もうやめてよ!放して!」

「ごちゃごちゃうるさいな。」

「くっ、ニンゲンごときが!私を殺せるものなら…。」

「この家にはいない!そいつごと燃やせ!そいつは歩けない。」

「…っ。」

「すぐに終わるから…な?ほら、早く娘を連れて出ていけ!」

「…ここには、本当にいないんだ。本当だ、娘だけは…。」


「隊長、集め終わりました。しかし、何人かは逃げ出した模様。」

「わかった、この広場にいるエルフだけ燃やせ。すぐに、ここから逃げるぞ。」

「了解しました。総員、撤収!」

「…あの家は調べたか?」

「いえ…しかし…。」

「ああ、あまり長居はできない。…伝令からその後の連絡は?」

「ありません、ですが陽動は成功しました。」

「…こんな奴らすぐに殺せたというのにな。」

「はい、ですがまだ…エルフどもはこの森の中にいます。」

「一刻も早く壁を作らなければならないのだがね。本当に、邪魔だ。」


変な音がする、何の音だろうよくわからない。

いい匂いがする、おいしそうだな。

でも、ちゃんと下処理はしていないから苦しそうだね…。

ねえ、何でこうなっているの?

何で、ディミトリスさんとか、わたしのお父さんの声が聞こえないの?

もう、帰ってきてもいいんじゃないかな…。

今日は、きっと夏なんだよ。

だから、おひさまが上にあるんだよ。

お願いだよ、帰って来て…。

変なカエルさんが鳴いているの。

ねえ、何でわたしのともだちは歌っているんだろう?

熱くないのかな…。


それから私は、疲れて眠ってしまった。





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