第18話 新規参入は酒場か組合で!

ものすごい速さで振り下ろされる質量が俺の左頬を襲う。

そして、その痛みは抜けることもなく俺の歯を襲った。


「…覗かないでくださいね。」

「わかってるから早くしてくれ…。」

「絶対にですよ!それと、服を探しますので少々お待ちを…!

こっ、これは香水!しかも、かなりの上物!間違いありません!

これは、盗品ですね!」

「…頼むから早くしてください。」

「待ってください…あっ、これですよ!これ!ほわ~、絹の…!!

直人さん、少し耳をふさいでください!」

「えっ、何で?」

「いいから!」

「はっ、はい!」


女性という物はつくづく合理的な生き物に見える。

すくなくとも、化粧とかそういった美的感覚ではおよそ男性はおよばないだろう。

というよりもだ。俺は、今個室の前に槍と剣を持って立ち尽くしている。

この剣と槍は、イリスが見つけたもので俺には剣を渡してきた。

…使えねえよ。

槍はイリスが使うようだ。槍は見る限り特にこれといった特徴はなく、ただ15センチ程の長さの両刃の鉾がついているだけだ。

そして、俺の剣なのだが…なんていうかその…刃にやけに扇情的な精霊が描かれているという魔仕様だった。

…売り払いたい。


そんなこんなで、ここに突っ伏したまま耳を塞いで立っているという訳だ。

見つけた水筒に水を入れる暇もなく、ただ彼女を待つ。


(あっ、そうですよ!このホック!よかった~、形が崩れないか心配してたんですよね。あとは、バッグがあれば…そういえば玄関の壁に掛かってましたね。)


「直人さん!」

「あっ…はい。何でしょうか?」

「玄関に掛かっていると思うのですが…バッグを渡してくれませんか?」

「あっ、うん。いいけど。」

「ありがとうございます。」

「あっ、そうだ槍は立てかけておくからね。」

「はい、着替えが終わったんですけど…その…。」

「そうだよね、ごめん気づかなくて…それじゃあ取って来るから中に入れるもの決めておいてね。」

「はい。」


そんなわけで、小間使いというか個室の前を移動して玄関に向かう。

バッグは壁に確かに掛かっており、充分な収納量はありそうだ。

俺もひとつ貰っておいた方がいいと思い、少々小ぶりではあるがメッセンジャーバッグっぽいバッグを貰って行くことにした。

まだ、彼女には俺が使える魔法?というか、神様の贈り物については未だに言い出せてはいない。

このまま、言わなくてもいいんじゃないかなとかじゃなくて、その方がこちらに取っては都合がいい。

なんせ、目的地に着いてすぐに指を全て切り落とされて俺の能力だけ奪われるのは御免だ。

すくなくとも温かい食事とベッドにありつけるまでは黙っておきたい。

もしもの際、俺はこの世界を停止させて彼女やその仲間から逃げることができる。

トールの言うことが正しければその状態ならば身体に負荷をかけることもなく、こことは違う場所、他の大陸まで泳ぐことができるかもしれない。

…そう、どこまでも。


個室の前に戻り、イリスにバッグを渡した。

すると今度は、すぐに出てきた。


「お待たせしました。」

「あっ、いや大丈夫だよ。」

「それじゃあ、行こうか!」

「はい。」


そう言うと、イリスはリビングに向かった。

俺も彼女を追うように足を向けたと同時に扉が開いた。

そして、俺が振り返ると同時に何かが扉から出てきた。


(えっ…。)


次の瞬間、俺の視線の先には金色の髪があった。

言うまでもなくイリスの髪だ。


「…っ!」


俺は、慌ててリビングに出て剣を鞘から抜き出しバッグを投げた。


「直人さんをやらせる訳には行きません!」


そう言って、イリスは槍を何かに突き刺す。

幾度となく突き刺すと同時に浮かび上がるように何かの正体がわかった。

イリスと同じ色の髪、青い瞳そして、特徴的な三角形の耳。


「はああああああああああああああ!」


イリスは、エルフの右胸を深々く突き刺した。

そしてまた、抜き、刺す。

槍を抜いて出きた穴は丸く、赤い血が流れ出ていた。

そして、その血はイリスを汚していく。


「イリスさん!」


俺は、そのエルフが弱っている間にとどめを差すことにした。

剣を持ったことはないが、何かに突き刺すことはできる。

すくなくとも俺が放った剣がイリスを傷つけることはない。

俺は、イリスと代わるようにしたエルフの前に出た。

そして、太ももに剣を差し込んだ。

抜いて、今度は違う方の太ももに差し込むとエルフは仰向けに倒れた。


「直人さん!どいてください!」


そして、イリスはエルフの喉仏(のどぼとけ)に槍を垂直に刺した。


辺りは、血で染み渡っていた。


「ふう…。」

「また、汚れちゃったね。」

「はい…でも良かった。あなたが無事で…。」

「そうだね。着替えよっか?」

「はい、それと水をお願いしますね。」


その後、俺とイリスはイリスが探索していた家に向かい再び着替えをして、この村から立ち去った。


本来は、そこで終わっていれば良かったはずなのだが、直人の脳は記録してしまっていたのだ。


彼らが倒したエルフは武器を持っていなかった、そして、どこかに隠れていた。


そして、血でシルエットが浮かびあがる。


つまり、彼女の身につけていた物は白い服のみだった。


そう、殺された彼女は…。


直人とイリスに助けを求めていた…。


そう考えることもできたのではないだろうかと。



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