第16話 借り物と貰い物

エルフなのだろうか?

本物のというか、見るのは言うまでもなく初めてだ。

しかし、これが本当によく描かれるそれなのかはよくわからない。

なんせ、変色しているしどう見たって黒髪のようにも混じり毛のようにも見えるというか、焼けているせいでその判断はどうだろうか。

リンの燃えた匂い、いや、香りはまだいい方かな。

燻製みたいな匂いが辺りには漂っていた。


「…あのそれは。」

「うん、そうだよね。イリスさん?」

「はい、何でしょうか?」

「ここがさっき言ってたエルフの村…でいいんだっけ?」

「…そうです。いえ、実を言うとそんな大層なものではないんですよ。」

「…どういうこと?」

「ええ、少し長くなりますがお話しいたします。」


そう言うと、イリスは息を吸い心を落ち着かせるように息を吐いた。

何拍かあと、彼女の目は遠くを見据えるような色を浮かべ、それから俺の耳に彼女の音が聞こえ始めた。


「今から、少し前エルフ、いえ、ほとんどの人類の亜種は敵対していました。

その中でも、エルフは私たち人類に比べ遥かに進んだ医学、医術を持ちそれを保持するための優れた知能さえも持っていました。

エルフと人類では、人類の勝機は薄いと言われていましたが人類は勝利を納めることができた、いえ、違います。

壁を作ることで、エルフという種を外部と孤立させるという手段を取り他の亜人達を先に処分するという方針に戦術を変化させました。

そして、他の亜種人類の培った技術を用いてエルフを断種させてきました。

けど、まだそれも終わらないまま正教会と革命教会の戦争が始まってしまい結果としてまだ各地にエルフがいるということです。」


「…そうなんだ、でもそれじゃあ彼ら、正教会がここにいるエルフを殺す理由は特にないわけで。」


「いえ、そういうわけでは。」


「それじゃあ!一体何のために彼は殺したりなんか!」


「だから、…その…おそらくは…。」


「………?」


「エルフは彼らにとって敵でもありますから、正教会は私達を探すついでにエルフを殺した…そう考えることができますよね?」


(…そんな。)


イリスの口からその言葉が零れ出した。


(ついでに、…ついでに!俺とイリスを探していただけなのに!

そのためでも何でもないのに!彼らは殺されたのか?)


信じたくない、信じられない、きっと他に理由が!

けど、それが何になる。現に死体は転がっているわけで…。


いや、考えろ。少なからず、俺とイリスは味方の方へは向かっているはず。

だから、向こう側からしたらここに来て騒ぎを起こすことに何もメリットは無い。


「………。」


薄気味悪い、そんな視線を感じた。

誰かいるのだろうか?

いや、それは現実逃避だろうな。


彼らは今、ここにいる。


「直人さん、急ぎましょう。また、戻ってきます。どちらにせよ、ここに居ると面倒が起こります。ここで、騒ぎが起きたとなれば別のエルフ達がこの場所にやってくるでしょう。そこで、私たちが発見されれば正教会とエルフは結束し結果として私たちの前に立ち塞がります。それこそ、正教会側の目論見通りです。

そして、エルフ達は利用された後、処分されます。」


「…処分…どういうことだよ、それ!

結局、ここにいるエルフは殺されたし、まだ殺されるのか?」


「落ち着いてください、少なくともここにいるエルフには人権が存在しません。

そのため、例え生き残ったとしても今の社会では救えません。

ですが、可能性はあります。」


「…可能性?」


「はい、共存できる…いえ、人類との混血。そういった、可能性もあるんです。」


「…つまり、人類になる。ってこと?」


「はい、そうです。ここにいるのは人類との共存を拒んで独立しているエルフなんですよ。そのため、こんな国境沿いにいるんですよ!だから、彼らには国も無いですし国籍もありません、それどころか麻薬の販売や、子供を強奪したり売りさばいたり、娼館の労働力にしたりしているんですよ!」


「…でも、そうだとしても。」


助けたい…そんな気持ちが俺にはあった。


「直人さん、早くしないと…。」


少なくともここにいるエルフは犯罪者で間違えない、ここで焼かれて死んでいるのはそういう連中だ。


「…イリス、少し待ってくれ。残っている部屋から何か使えそうな物がないか探してここから逃げよう。」


「直人さん…はい!急ぎましょう!」


そうして、俺はエルフの住んでいた一軒家に侵入した。

もう迷うことはなかった。

そう、楔の一つが取れたからだ。


だって、罪人から物を奪っても罪にはならないから。


そう、自分に言い聞かせて俺は部屋を漁っていくのだった。


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