第11話 時間をかけてゆっくりと。
「…ここは。」
その夜、不思議な夢を見た。奇しくもその光景は何処かで見たいや、憶えている。
俺が彼女を救った、もとい誰かを殺した場所だった。
するとそこには、トールが立っていた。
「やあ、どうかなこの世界は?」
「ええ、まあ…。その、これは夢ですか?」
「ああ、そうともいえるしそうではない。言わばチュートリアルの最後だ。」
「なっ、何を言っているんですか?」
「ああ、そうだ。ここから、いやあとは君次第だ。引き続きアイテム配布は行うけどね。」
そう、トールは言った。
「それで、何で俺を呼んだんだ?」
「まあ、聞いてくれ。君は今日何かおかしなことが起きていた事に気が付いたかい?この世界じゃない、君自身にだ。」
変わったことなんてないはずだ…いや、まさか。
待てよ、そういえば…。
「ナイフを使えたというか、身体能力が…。」
「惜しいね、実は君の体に武器術及び魔法、言語をインプットさせた。そして、道具を使うことでインストールできる。つまり、まだ君は一パーセントすらもインストールを終えていないんだ。発現したのは、言語と少しの戦闘技術、もとい工作技術だけだ。そして、今この場を持って全てのインストールを終了させる。」
「それって…。」
「ああ、鍛錬だよ!行くぞ!」
「なっ…。」
目の前に、突如剣が現れた。そして、こちらの手にも現れた。すかさず右手で握り打ち返す。
…それから何時間経ったのだろうか。
武器を持ち替えながら、あるいは素手で体を斬り、縫合し、言葉を唱え、身体に注射をした。
不思議と辛くはあるが身体と心だけは無傷だった。
そして、感慨深げにトールはこちらを見つめた。
正しくは、その様なしぐさを見せた。
相変わらずビリビリと電流をまき散らしている。
「終わったよ、7563時間良く耐えた。本当に、日本人は勤勉らしいね。」
「…そんなに、時間が経ったのか?」
「いや、あくまでも主観だよ。実際には一秒すら経っていない。」
「…ストレージを使っているのと同じなのか?」
「ああ、本来君はこの世界に存在しない異物だ。そのため、時間など君の体に影響しないと言った事象が発生しているんだよ。つまり、客観的な不老の不死とも言える。
とはいえ、時間は流れるからこの世界に同期させ続けるには君に影響を与え続けなければならない。」
「…よくわからないな。そこら辺のことは。」
「まあ、いいよ。これが本当に最後。もう会うことはない。」
「ああ、わかった。」
「最後に、君には何かしたいことはあるのか?」
「したい事か…あるのかもな。」
「そっか、それじゃあさようなら。」
そして、彼は消えた。
辺りをとりあえず見渡してみた。
紛れもなく、あの場所だった。
「つまり、ここがスタート地点か。」
そして、俺は目が覚めた。
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