レイミア・オルロックの冒険

@zip7894

「森の王さま」


 レイミアは、ダンピールハーフヴァンパイアです。

 ダンピールって?

 ダンピールは、吸血鬼ヴァンパイアと人間の間に生まれた子のこと。

 吸血鬼ヴァンパイアでもあり、人間でもあるのです。


 レイミアの場合は、お父さんがヴァンパイア。お母さんが人間です。

 鋭い牙は無いけれど、少しばかり八重歯が尖っています。

 でも、ニンニクも十字架も平気です。

 鏡にも姿は映ります。

 黙っていれば普通の人間と見た目は一緒。

 レイミアの一家は東ヨーロッパの山奥にある古いお城で暮らしていました。


 そんな山奥ですから住んでいる人たちも少ない場所です。

 麓に小さな村はあるのですが、村人たちはお城を怖がって近づこうとはしませんでした。

 村の子供たちも当然、お城に近寄ろうとはしません。

 そのせいか、レイミアには友達ができませんでした。


 ある日、レイミアは、散歩にでかけました。

 道の途中、覚えのない分かれ道を見つける。道は森に続いていました。

 でも不思議です。

 なぜなら、その森に覚えがなかったからです。

 はじめて通る道ではありません。幾度となく散歩に歩いた道でした。

 森も見つめながらレイミアは、お母さんに言われた事を思い出しました。


 この辺りには時々、不思議な事が起こります。

 そのひとつが奇妙な森です。

 そういった森に出くわすことがあったら、近寄らないようにお母さんから言いつけられていました。

 しかし、好奇心に駆られたレイミアは、つい、その森に足を踏み入れてしまったのです。


 森には不思議な雰囲気がありました。

 木の枝は、ぐにゃぐなって伸び、葉っぱの色も少し変です。

 不思議に思いながら歩いている、狼の群れに出くわしました。

 吸血鬼ヴァンパイアのお父さんは、狼やコウモリに姿を変えることができました。

 レイミアは、狼やコウモリに姿を変えることはできませんが、狼やコウモリとお話することができました。

 尋ねてみると狼たちは迷子になった子供狼を探しているのだと言いました。

 そして、この森の奥には、おかしな奴がいるので行かない方がいいと教えてくれました。


 狼たちの忠告を聞いたレイミアは、もと来た道へ戻ろうとしました。

 けれど、なぜだか森の外へは辿りつけません。

 森の中を何時間も歩き続けているうちに空に太陽が昇りそうになっていました。

 レイミアは、だんだん心配になってきました。

 それは太陽の光が吸血鬼ヴァンパイアにとってはとっても危険なものだからです。

 吸血鬼ヴァンパイアが太陽の光にあたると身体が燃えだしたうえ、灰になって消えてしまうのです。

 半分吸血鬼ヴァンパイアのレイミアは太陽の光を浴びても灰になってしまうことはありませんが、とても身体が疲れて、すごく辛くなります。

 できれば、太陽の陽など浴びたくありません。


 いくら歩いても森から抜け出せないレイミアが、途方に暮れていたその時でした。

 どこからか、子狼の鳴き声が聞こえてきました。

 きっと、狼たちが探していた子に違いないとレイミアは思いました。

 そう思ったレイミアは、鳴き声の方に向かいました。

 本当は、朝になる前に急いで森から出たかったのですが、子狼の鳴き声がとても悲しそうで放っておけなかったからです。

 きっと家族と離れてしまって心細いに違いない。

 レイミアは、そう思いました。


 子狼の鳴き声を辿っていくと洞窟が見えてきました。

 鳴き声はその洞窟の奥から聞こえてきます。

 普通の女の子なら真っ暗な洞穴には入らないでしょう。

 でも、レイミアは、普通ではありません。ダンピールです。夜の闇でも明かりのない洞窟でも昼間のように見えるので、ちゃんと歩いていけるのです。

 レイミアは、洞窟の中に入っていきました。


 洞窟を歩いていくと、奥になにかが見えました。

 目を凝らすと、それは、きれいな王冠を、頭にのせた誰かでした。

 人間にしては体が大きく、色も真っ黒です。

 手足らしきものもついていますが、どこか変です。


 そいつが、レイミアに気がつきました。

「そこにいるのは誰だ?」

 太く低い声でそいつが尋ねてきました。

 その姿は黒いブヨブヨの大きな体で、はっきりとした目も口もありません。

 ただ、目のようなもの、口のようなものはあるのですが、瞳も歯も舌もついてるように見えません。まるで不格好な粘土細工の人形のようです。

 少し怖かったですが、レイミアは、答えました。

「こんにちは。私は、レイミア・オルロック。迷子になった狼の子供を探しています」

 そいつは、目のようなものをレイミアの方にギロリと向けたあと、手のようなもので隅っこの方を指しました。そこには狼の子供がいました。

「おまえの探しているのはたぶんそこにいる奴だ」

 そいつは言いました。

「勝手にこの洞窟に入り込んできたんだが、うるさくてたまらん。早く連れて帰ってくれないか」

 

 レイミアは、すみっこで鳴いている狼の子供を抱きかかえました。

「ところであなたのお名前は?」

 レイミアはその不格好な怪物に訪ねました。

 ちゃんと名前でお礼を言いたかったからです。

 そいつは森の王様と名乗りました。

「森の王さま、どうもありがとう」

 レイミアは森の王様にお礼を言うと、王様がなぜ、こんなところに住んでいるのか不思議に思い訪ねてみました。

 森の王様は言いました。


 王様は昔は、ある国の主でした。

 しかし、自分の贅沢の為に国の人達から税やら何やらと理由をつけ、ことあるごとにお金や食べ物をお城に持ってこさせました。

 お金のない者からは品物を。それさえ無い者には無理やり働かせてお金を納める代わりにしていました。

 あまりにそんな事が長く続くので、国中のみんなが怒り出し、王様は追放されてしまったのです。

 そして、この森に追いやられてしまったのだと、森の王様は、言いました。

「森の王様は、こんな洞窟にひとりでいるのは嫌じゃないですか?」

 レイミアは聞いてみました。

 だって、レイミアだったらこんな寂しい場所にひとりでいるなんて耐えられないと思ったからです。

 やっぱり森の王様もここに独りでいるのはあまり好きではないと言いました。

 洞穴から出たいのだとも言いました。

 けれども、身体が重くて歩くこともできず、当然、この場所から動くことさえできませんでした。

 レイミアは、少し考えて言いました。


「王さまの身につけている物はみんな重そうです。だからそれを外したらどうかしら?」


 そう言われた王様は自分の身につけているものを見ました。

 たしかに金でできた王冠や銀でできた鎧、宝石のたくさんついたネックレス、上等な毛皮のマントは重そうです。

 でも、これは王様が欲しくて欲しくてたまらなくて手に入れたものです。そう簡単に手放すことはできません。


「なら、小さな軽いものから外したらどうでしょう?」


 レイミアは森の王様にそう言ってみました。

 たしかに小さなものなら気も楽かもしれません。

 森の王様は、迷いましたが、レイミアの言う通り、小さなものから手放す事にしました。


 森の王様は、まずは指輪、そして腕輪、首飾りと身につけた装飾品を少しずつはずしていきました。

 続き、鎧、マント、そしてとうとう金でできた王冠も外しました。

 するとどうでしょう。

 黒くてぶよぶよして人なのか何なのかよくわからなかった姿が人間にみえてきました。

「なんて、楽なんだ。気持ちも体もこんなに軽くなるとは思っても見なかった」

 王様は、うれしそうにそう言いました。

 そして、レイミアにお礼を言うと洞窟から出ていってしまいました。

 残されたレイミアも、子狼をかかえて洞窟の外に向かいました。



 レイミアが、狼の子供を抱えて洞窟から出ると、そこは見慣れた道でした。

 振り返ると不思議なことに洞窟も森も消えていました。

 レイミアは、ほっと胸をなでおろしました。


 空を見上げると、星も見えなくなり、夜も明けそうです。

 レイミアは、急いで家に向かいました。


 帰り道の途中、子供を探していた狼の群れに再び出会いました。

 レイミアは、洞窟から連れてきた子狼を群れに返しました。

 仲間に会えた子狼はうれしそうです。

 狼たちは、お礼にレイミアに近道を教えてくれました。


 レイミアは、狼たちの教えてくれた近道のおかげで、朝陽が登りきる前に家に帰る事ができました。

 家に帰ったレイミアは、お母さんに今日、起きた事を話しました。

 お母さんは話を聞きながら、うん、うんと頷きました。。

 「王さま、あんな重い物なんて身に着けなければ良かったのに」

 レイミアは、不思議に思っていたことを尋ねてみました。

「みんな、生きていくうちに重い物を少しずつ背負ってしまうのよ」

 お母さんは、そう言いました。

「重い物が不自由なら、背負わなければいいのにね」

 レイミアは言いました。

「そうね。レイミアの言うとおりだわ」

 お母さんは、そう言って笑いました。


 ベッドに入ったレイミアは、森の王さまのことを思い出しながらいつの間にか眠りにつきました。

 陽が登っていきます。

 外は、すっかり朝になっていました。



 おわり



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