第26話 手紙

藍へ


突然の手紙で驚いてるかな?


それとも、怒っているかな?


どっちにしろ、僕は君に謝らないといけないことが沢山あるんだ。


謝る前に僕の言い訳を聞いて欲しいです。


実は僕、藍に出逢うのは二度目なんだ。


パラレルワールドって知ってる?


パラレルワールドっていうのは、僕たちが今生きている世界と並行している、いくつかの世界のことを言うらしいんだ。


藍と一度目に会ったのは丁度同じぐらいの季節の夜。


僕は病院を抜け出してあの公園へ、ふと立ち寄ったんだ。


そこには藍がいて、気づいた時には声をかけていたんだ。


藍の反応は笑っちゃうぐらい、一度目も二度目も同じだった。


その後の毎日のやり取りも、藍の見せてくれる写真も、全部一緒だった。


ただ違ったのは、一度目の時よりも藍にすぐに友達が出来たこと。


僕は嬉しかった。まさか二度目も同じように素敵な友達が出来て、沢山笑顔を見せてくれるようになったから。


少し妬けちゃったけどね。


でも、そんな幸せは永くはなかった。


一日一つの質問の時、僕が藍に好きな人を聞いたところからおかしくなったんだ。


二度目では藍が聞いてきたからびっくりしたよ。


あの話題をしなければ、幸せは永く続くと思っていた。


けれど結局は、こうなる運命だったんだ。


僕が藍に聞いた時、藍は凄く困って逃げた。


一週間ぐらい会えなくて、それでも僕は毎日公園へ行った。


そしてある日、藍は何か決心がついたような表情で公園へやって来たんだ。


きっと、僕は駄目だなって思った。


だけど、その予想とは反対のことを言われたんだ。


『瑠依が好き。』


僕は上手く表現出来ないぐらい驚いたよ。


だけどそれ以上に、嬉しくて幸せだった。


だから僕も、


『藍が好きだ。』


って伝えたんだ。


一度目の藍はね、とっても喜んでくれた。


今まで泣いたことが無いって言っていた藍が、沢山泣いてくれた。


藍が泣き止んだ時にはキスをしたんだ。


でも、幸せの後にはすぐに悲劇がやって来た。


藍を上手く庇ったはずだったのに、僕だけが助かった。


どうして僕が助かって、藍が助からなかったのか分からなかった。


僕は神様を恨んだよ。


毎日、毎日、神様に文句を言って、藍を返して、だだひたすらそう叫んでいた。


いつだったかな、気づいたら僕はあの日の夜の公園にいたんだ。


最初はタイムスリップでもしたのかと思った。


でも、ちょっと違った。


パラレルワールドに行っていたんだ。


だから運命は、結局は同じことになるらしい。


だけど、藍の代わりの僕があの事故で死ぬのなら、藍が助かると知ったんだ。


僕は喜んだ。


藍と運命を共にすることは出来なくても、想い人を生かすことが出来るのならいいやと思った。


それから藍が知っているように、近づいて、声をかけて、仲良くなって、藍の笑顔を引き出せるようになった。


だけど、まさかあの質問を藍からされるとは思ってもいなかった。


僕は最低な事をしたよね。


謝って済むことではないのに、幸せだと思ってしまった。


だから、静かに消えようと思う。


少しの間だけど、また藍と過ごせて良かった。


藍の顔が見れてよかった。


藍の声が聞けてよかった。


ただ一つ、心残りが。


二度目の…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る